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私達が美人部の粗探しをしたりなんてしないっ!

「この見事なまでの火の通り。溢れる肉汁。照明に照らされて光る肉。その上を通る完璧なまでのデミグラスソースという名の誘惑。肉だけでも問題がないのに、ソースの味も食欲をそそる。ハンバーグだけの味でご飯が何杯でもいけるというのに、まさかの豊潤なソースまで用意されては、私達、食事をする客はどちらをオカズにして白米を食そうと迷わせる。両者は完璧な味付けがされているというのに、それをマッチングさせる事により、くどくなく、更なるハーモニーを奏でている。これは芸術。強いて言うのなら、この料理を作った人間も芸術品のようなものだから、私達は幸福と言えよう」

「アンタ、まともに食事もできないの? さっきから、うるさいんだけど」

「貴様の料理とは比べ物にならないと訴えているんだ」

「な、アンタねッ! 人が作ってあげてるんだから文句言うんじゃないわよ!」

「じゃあ、貴様は美樹お手製の、このハンバーグが作れると言うのか? 私の舌を満足させられない程度の分際で何を言うか」

「……最悪な人間ねッ!」


 松丘総合高等学校女子寮。

 そこには最近先生の間で話題になっている人間――黒樹 麗の部屋が存在していた。話題というのは、先生達の悩みを片っ端から解決していく、いわば何でも屋を個人営業でやっているからだ。その成功率は驚異の100%。いよいよ生徒指導の先生も麗の事は取り締まれなくなっている。

 彼女は美人部という、美を追い求める部活の部長。その職務に追われながらも、来た依頼は全て引き受けるのだ。

 そんな完璧っぽい親友麗は、残念ながら胸はまな板だ。正直、私の胸を分けてあげたいくらい……である。

 部活が終了した、私、優香、美羽は、麗に呼び出され、本日は宿泊する事になった。ちなみに、何故私が晩御飯を用意したのか。それは麗の部長命令によってである。何回も駄々をこねられれば、さすがの私も骨が折れるというわけだ。


「でも、ホント、いつも美味しいよね!」

「ありがとう、美羽。でも、何も出ませんよ?」

「いや、何か欲しいっていうわけじゃないよ?」


 美羽までハンバーグを賞賛してくれている。それはそれで嬉しいものである。ちなみに、母か私かで料理対決をした事も過去にあった気がする。勝利は当然私だけど。あの時の母と言ったら、慰めるのに一週間かかった気がする。

 優香はやはり、どこかの御嬢様なのか。テーブルマナーをキチンと実行している。だが、麗と美羽に関しては、完全に男のように早食いだ。

 何故か、ワイングラスに入れたぶどうジュースを飲み、綺麗に口元を拭く優香が麗に問い詰める。


「で、目的は何なの?」

「ふむ。前回の美人部役員会議では、荒田と大船二年のデートプランについて話したが、今日は違う」

「え? アタシ役員なの?」

「当然だ。貴様も一応は役員として私は受け入れているのだ」


 若干嬉しそうに顔を隠す優香。そういえば、私は副部長だった。となれば優香は一体何の役職で美羽は何の役職なのだろう。

 

「麗ちゃん、あたしは何の役職?」

「美羽は、書記だ。先日、ノートを見せてもらったが、字が綺麗だったので勝手に抜擢させてもらった。問題だったか?」

「いや、正しい判断だよ。あたしは書道で初段持ってるから」

「ふふ、私の判断にミスはなかったようだな」


 怪しげに微笑む麗と美羽。一体何をフューチャリングしてるんだろうか。


「じゃ、じゃあ、アタシは何なの?」

「む? 貴様は肉便器」

「アンタ何言ってるのか分かってるの!?」

「だって、いつも男と群がってるからな。そういう事にしておいた」

「そういう事って……」

「麗、あんまり優香を虐めないでください」

「はぁ……会計だ。貴様の元いた高校では理系の人間が多いと聞いていたから、会計に抜擢したんだ。文句あるか?」

「そ、そう……」


 麗に少しでも調査してもらえた事が嬉しかったんだろうか。優香は身体をクネクネさせながら、恥ずかしさを隠していた。


「話を戻すぞ。私が今回、家に招いたのは他でもない。クソビッチ――――もとい、白海 麗香に関する事だ」


 やはり議題は白海だったか。と内心で呟いていた。何しろ、白海は保育支援同好会を乗っ取り、美人部に宣戦布告をしかけ、廃部に追い込もうとしてきた。その後、麗の生徒会長への交渉で、何とか首の皮が繋がっている状態ではある。しかし、白海はどんな手を使ってでも、私達を潰しに来る筈。その予兆としては、牧への『私達の顧問になる準備をしておいてください』は充分過ぎる。他にも手があるとしたら使ってるだろうが、麗によってほとんどの美人部廃部ルートは潰されている。

 その潰した張本人である麗が、自ら私達に相談しているのだ。白海という人間を過去に知っている麗が、一番多くを知っている筈だが、白海はその麗の上を行く人間なのだろう。だからこそ、私達を前にして話しているに違いない。

 話を聞いた優香は渋い顔をする。それは梅干しを同時に五個くらい食べた顔だ。こういった悪事に疎い優香は、恐らく白海のような性格の悪い人間への対処は分からないだろう。しかし、優香にとっても白海は決して許せる相手ではない。私達と初めて邂逅した池袋での事件では白海は関わっている。

 一番直接的に関わってないのは美羽だ。夏休みが終わってから帰省してきた美羽にとって、白海という人間はただ性格の悪い人間だけに映るだろう。

 私としては、優香を虐めた人間の黒幕を許すつもりはない。恐らく、麗が白海に対する気持ちと一緒で、これ以上何かするのなら私も白海本人を潰しに行くだろう。

 こうした矛盾の中、迷いに迷った挙句。優香は口を開いた。


「……でも、これ以上は何かをしようにもできないと思うわよ」

「これ以上……か。確かに、な」


 いつもなら優香の意見は即却下する麗が、納得したように顔を頷かせる。

 だが、果して本当にそうだろうかと私は考えてしまう。美人部にはこれ以上ないほど、やましい事は存在しない。それは誰もが語るであろう。

 そんな中、美羽が手を挙げる。


「でも、あの人、代永先生に対して何か言ってたよね?」

「ああ、確かに言っていた。顧問がどうたらこうたらってな。もしかしたら、白海の本当の狙いは代永なのかもしれない。それはそれで、正直に『代永先生が欲しいの!』って言ってくれれば、私は素直に代永を清楚会の顧問に推薦してやるんだがな」

 

 難しい顔で俯く麗。先ほどの演技は白海の真似なのだろうか。全然似てない。というか、麗のキャラじゃない。

 牧を欲しがる意向は分かっている。白海の性格上、一度欲しいモノを目にしたら絶対に手にいれたくなるタイプだ。という事は何としてでも、白海は牧を手に入れる為に動くのだろう。

 だが、それだけでは動機が明らかに足りない。私の予想としては、麗と白海の間には強烈な過去が存在していると睨んでる。かといって、それを麗に聞くのは、また麗を悲しませる可能性があるから、したくはない。

 私は麗を睨みつけるように眺めた。


「ど、どうした美樹? 浮気の心配ならないぞ?」

「そんな事、今はどうでもいいです」

「ど、どうでもいい、だとッ!?」

「良いですから、話を聞いてください」


 テンションが一気に下がった麗は机の上に突っ伏した。まだご飯を食べ終わってないんだから、行儀悪い事はしないでほしい。


「これ以上、美人部を突くルートはない。と優香は言いましたね?」

「え、うん」

「確かに、美人部にはやましい事などありません。夏の合宿は半分アウトみたいなものですが」

「「……」」

 

 麗と優香が視線を逸らす。実際に私は参加してないから、わからないけど、あれはあれでどうやら感動した人が多かったらしい。麗によれば優勝は間違いなかったかもしれないらしい。

 閑話休題。


「それを入れても、私達は正しい活動をしています。主に麗が黒板に文字を書いて、それについて議論をするっていう意味であれば」

「ふむ、己の美を磨くという意味では問題はない」

「ですよね? だとすれば、後は麗の個人経営だけだと思います」

「……確かに、部室に高くて新しそうな物が届くたびに気になってるのよね。アンタの個人経営」

「普通の高校の部活にしては、うちの部室って結構高額な物あるよね。最近じゃPS3とか、55インチプラズマテレビとか……」


 最近、ご褒美が高いんじゃないかとは思っていたが、やはり優香や美羽も気づいていたらしい。私としてもスルーしていたが、皆の眼にも止まるのであれば問題である。ちなみに、PS3のソフトも報酬らしい。何でも、高校生では買えないソフトも先生に頼んで買ってきてもらうとか。同情します。

 麗は痛い所を疲れて、落ち込んでるのかと思いきや、あるかないか分からない胸を張って、堂々と立ち上がった。


「私の個人営業にやましい事はないッ! むしろ好調で、最近は麗台に依頼がザックザックだ!」

「もっと良い表現なかったんですかね」

「無論、問題はない。この麗台だが、美樹は知ってるかもしれんが、多くの先生方が人には言えない悩みの解決を私に頼ってくるのだ! 最近では私の事を神だと崇めている教師も存在している」

「それはそれで、どうなんでしょうかね?」


 随分小さい神だなぁと私は思った。

 神と言えば、最近幹の姿をした女神に会っていない。まぁあの人もあの人で暇を持て余しているようだし、たまには遊びに行かなきゃなと考えていた。

 つまり、分かっていたとは言え、麗の行動にもやましい事はないわけだ。もしあれば、麗の部長職解雇で大変な事になっていたかもしれない。


「そうなると、やはり……」

「結論では、今のところ平気みたいですね」

「まぁ、美樹がそう言うのなら、問題はないだろ。白海も神じゃあるまいし、私達の部活を追い詰める計画もここまでという事だ」


 麗は高らかに笑い、美人部の存続を喜んでいた。そんな部長を見て、美羽も優香も安堵の溜息を吐いていた。しばらく、私達はまた麗の無茶ぶりに付き合わなければいけなさそうである。

 話も終わり、食事が終了した私達。

 そこで、麗が告げる。


「と、言う事で、一応私達は明日生徒会に清楚会との事について話に行こう!」

「「「はい」」」

「で、今回はお泊りなので……私は美樹と一緒にお風呂に入る!」

「待ちなさい! 美樹ちゃんはアタシと入るのよ!」

「ダメダメ、あたしの方が美樹ちゃんの身体の事は知ってるんだから!」

「私が誰かと風呂に入るっていう方針を止めましょうか?」


 何だかんだで、美人部はいつも通りだった。

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