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歓迎会をしたりなんてしないっ!

「ようこそ! 美人部へ!」


 クラッカーの音が鳴り響く美人部部室。そこには美人部部員初め、瑠花、雅紀、美羽の三人に、何故か清楚会の三人までいた。

 麗は珍しく笑顔で皆を歓迎した。

 清楚会の三名については、正男から電話があった所、是非とも一度美人部をこの目で見てみたいと少女に言われたらしく、清楚会もとい保育支援同好会の活動も強制的に参加した私達は拒否する事ができなくなり、麗も「もちろん、呼んで貰っても構わない」と言ったので、皆も一緒に祝う事になった。

 ちなみに、麗や優香。他の部員は正男達が清楚会の少女達を護衛している事は知らないし、私達だけの秘密である。

 瑠花がちょっと恥ずかしそうに、後に束ねている一房のポニーテールを弄り、雅紀も恥ずかしそうに腕組をしながら、照れている。美羽に至っては、跳びはねて喜んでいた。

 黒板前にまで移動した麗は、どこから持ってきたのか。マイクを取り出す。


「えーテストテスト……。それでは、これより、美人部新入部員歓迎会を始めたいと思う! 皆、拍手!」


 麗の指示に従って皆拍手する。清楚会の面々もどこか不思議そうに拍手する。

 拍手が止み、麗は制服の胸ポケットから一枚の式辞を取り出した。


「えー。夏が終わり、食物が美味しく育ち美樹の弁当が毎日楽しみになってまいりました、部長黒樹 麗です。新入部員の大船 瑠花先輩。岸本 雅紀先輩。同級生中谷 美羽。この三名を歓迎したいと思います」


 照れくさそうに笑う瑠花と雅紀。その反対に美羽は笑顔が止まぬといった様子。

 

「では、まず初めに。清楚会の方もいらっしゃるので、美人部とは何なのか。そこから説明したいと思います。まず、美人部とは本年度より発足した『人としての美を極める部活』であります。そのコーチをするのは主に、谷中 美樹副部長です。彼女は幾つもの美容法を熟知しており、内外面共に美しい――――まるで一輪の花のような、ダイヤモンドのような、真珠のような、とてもこの世の美しいモノでは比喩できないほどの美しさを持った女性です」


 皆の視線が私に集まる。これは何か凄く恥ずかしいな。


「そんな彼女にとって『美』とは、誰でも磨けば光るものだそうです。そういうわけで、発足した美人部。活動内容は人間として内外面を磨く為の部活なのです! そういうわけなので、これからは大船先輩も岸本先輩も美羽も、美に磨きをかけてほしいと思います! 以上が私からの言葉とさせてもらいます」


 このかしこまった雰囲気はなんだろうか。麗って時々こういう真面目な事をしようと思ってる事が多々あると思うんだけど、どうしても普段の印象が強いせいか、ふざけているようにしか見えないんだよね。特に優香なんかは、絶対に私と同意見の筈だ。その証拠に大匙一杯の塩を丸々飲みこんだかのようなしょっぱい顔をしている。

 続いて、私が黒板の前に行き、マイクを麗から受け取る。


「私は一年B組の谷中 美樹です。勝手に副部長なんて言われましたけど、そんな凄くないので緊張しないでください」

 

 このセリフは場違いな空気に放り込んでしまった清楚会の少女に向けた言葉だ。


「瑠花先輩。雅紀先輩。夏休みには色々とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。瑠花先輩とは……色々ありましたね。けれど、こうして一緒に部活に励んでくれる事を嬉しく思います! そして、雅紀さん。いつまでウジウジしているつもりなんですか? 早くしないとまたどこかに行っちゃいますよ?」


 私の言葉に瑠花は苦笑いしながらも、暖かい視線を向けてくれた。

 雅紀は、私のメッセージの真意が伝わったのか、照れくさそうに視線を逸らしていた。私と釣り合うぐらいのイケメンなのに恋愛に対しては全く奥手なままだ。その方が雅紀らしい。


「あと、美羽。編入っていう形だけど、また一緒に学校に通えて、同じ部活にも入ってくれて、私は嬉しいです」


 笑顔でそう言うと美羽は、感極まったのか涙目になっていた。


「以上が私からです」


 こうして、私と麗の挨拶が終わり、円形に固めたテーブルに用意していた紙コップにジュースを全員分注いでいく。ジュースが全員に行きわたり、皆がコップを片手に掲げる。


「それでは、新入部員歓迎を祝って! 乾杯!」

『乾杯!』


 それから、皆はジュースを飲み干していろんな会話を楽しんでいた。

 初めは麗と二人だったのが、今はとても懐かしく感じる。

 そんな私は一人で、窓際に背中を預けていたところ、隣に雅紀がやってきた。


「……あのメッセージは些か感心しないな」

「別にいいじゃないですか。私の些細な気配りですよ?」

「フン、相変わらずそういう所だけはおっせかいだな」

「雅紀さんには言われたくないですけどね」


 二人して笑っていると、雅紀は遠い目をしながら何かを考えていた。いや、何かではない。きっとこの空間に雅史がいたらなんて事を考えてるに違いなかった。だけど、それはもう終わった事だし、こんなに楽しそうな空気を壊してしまう可能性があるので雅紀は口にしなかった。

 ただ、無言のままでいるのも、私と雅紀の間に恋が芽生えたのだと勘違いする輩が発生するかもしれないので、何かしら話をしようと思い、私は瑠花を見つめながら口を開いた。


「……瑠花さん。笑うようになりましたね。前よりも」

「ああ。俺もそう思うよ。黒樹と知り合ってからは、笑うようになったよ。普段はクールでどこか冷たいところもあって暴力的な黒樹だけど、彼女は自然と皆を笑顔にする力がある。……羨ましいよ」

「それは雅紀さんが瑠花さんを笑わせたいって事ですか?」

「ば、バカ違うっつの。俺は、ただ……」

「瑠花さんの笑顔が見たいんですよね? ふふ、顔に出てますよ、せ・ん・ぱ・いっ」

「からかうんじゃない!」


 真っ赤に顔を染めた雅紀が怒っていた。まぁ本気で怒っているわけじゃなく、照れ隠しの怒りだろう。それを機会に私は窓際から身体を起こす。


「――――でも、谷中」

「はい?」

「お前も、皆を笑顔にする力なら持ってるぞ。それも黒樹よりも凄い奴をな」

「まぁ……そういう事にしておきますか!」

「フン、可愛げのない後輩だ」

「そっちだって可愛げありませんよ? 先輩」


 軽く笑って雅紀はまた口に飲みモノを運んでいた。

 それからウーロン茶が飲みたくなった私は、コップに注ごうとすると、美羽も同じくウーロン茶を欲していた。


「美羽もウーロン茶ですか?」

「うん、ありがと」

「どういたしまして」


 私は美羽のコップにもウーロン茶を注いだ。

 そうすると、美羽はどこか懐かしそうに私を見つめた。


「どうしたんですか?」

「いや、なんか、これでもアリなのかなーって」

「何がアリなんですか?」

「え、えーっと……まぁ美樹でもアリかなって事だよ!」

「良く分かりませんが……」

「大丈夫! 迷惑はかけるつもりはないよ。それに……あたしはその為に帰って来たんだし」

「美羽?」

「何でもない!」


 美羽は決意を固めたような顔をして、麗と話をしに行った。

 昔っから本音を話したがらない美羽だったけど、今日は特に変だ。といっても麗とアニメの話をしているときは別段変ったとこはないけれど。

 続いて、優香達はテレビに向かって格闘ゲームをしていた。男共は全員何かを賭けて必死にトーナメントをしてるみたいだった。

 しかし、このゲームは完全に鷹詩と久光が優勢の筈だが。


「あ、美樹ちゃんもやる?」

「私も……ですか?」

「うん、これで今度皆で遊びに行く場所をどこにするかを決められる権利を賭けてるんだ」

「そうなんですか……。優香は良いんですか?」

「うん、あたしは皆が行きたい場所であれば、どこでも」

「はぁ……」


 なんだか少しだけ寂しさを覚えた。別に優香が皆と遊ぶのは構わないんだけど、だけど幹がいなくなった穴に優香が入ったのだと思うと、ちょっとした嫉妬心が沸いてきた。

 いや、別に多分、また幹であった事なんて忘れちゃうだろうから良いんだけど、それでも正男達には忘れないでいて欲しかった。

 こんなの私のワガママかな。


「じゃあ、私も混ぜてもらいます」

「え!? 美樹様もやるの!?」

「鷹詩さんには負けませんよ?」

「良いですよ! その変わり俺が勝ったら――――」

「踏みませんよ。そんな事わざわざお願いしないでください!」


 それから私と鷹詩のバトルが始まり、私と鷹詩はギリギリの接戦を繰り広げ――――私が勝った。


「美樹さん強いですねぇ!」

「いや、僕も驚いた!」


 正男と直弘が驚きの表情で私を見つめた。ゲームも私はずっとやってるから強いのよん。

 それから鷹詩に何でもお願いしていい権利を貰い、私は鷹詩にいつかコレを使うと約束させた。

 そして、一通りゲームが終わった所。私は影で見つめる清楚会の方へと足を運んだ。


「どうですか? 皆さん、美人部の人達は」


 そう尋ねると少女達は戸惑いの表情を浮かべながらも、笑顔で頷いた。


「とっても楽しそうですね。何より、皆さんは笑顔で……とっても素敵です」

「確かに美人部はちょっと遊び的な部活かもしれません。ですが、生涯に一度の青春です。皆さんも、頑張って立ち上げた同好会なんですから、白海さんに取られたままは悔しくないですか?」

「はい……」


 少女達三人は暗い顔をして俯いた。けれども、白海の脅威はそれは異常なものだと私は昨日知った。だから無理には歯向かえとは言わない。ただ、麗だって色々な苦労をしながら、こうやって遊ぶだけの部活っぽいけど美人部を続けてきたのだ。もちろん、部活によって苦労の度合いは違う。それこそ、もしかしたら保育支援同好会の方を取り戻すのが難しいかもしれない。

 けれど、諦めないでいて欲しかった。私は知っている。今の麗の笑顔も、優香の笑顔も美人部皆のように心から笑っている姿が、彼女たちにもあった。それを昨日私は目撃したのだ。子供と戯れる清楚会の少女達の笑顔は心から楽しんでいるものだった。

 だから、私はそれを取り戻して欲しかった。


「だから、皆で白海さんから部活を取り戻しましょう!」

『は、はい!』


 三人は涙目になりながらも、力強く頷いた。

 そして、扉が開かれる。この時間帯はいつも綾子が来訪してくる時だ。

 私達の視線が部室の扉に集まる。


 そこに現れたのは、この空気を破壊しかねない女。


「楽しそうに遊んじゃって、随分余裕ね。黒樹」

「何の用だ。白海」


 そこで歓迎会の楽しげなムードは凍り、麗と白海の視線の火花が散る。

 そして、白海が視線を逸らしたかと思えば、少女達三人を睨みつけ、その後、私一人をギロリと長く激しく目線で攻撃してきた。

 白海も気づいてる筈だ。

 白海の本当の敵は誰か。本来の敵は麗ではない。

 清楚会を壊滅させようとするのが本当の敵。


 白海の本当の敵は――――。


「どうしたんですか? 保育支援同好会を潰してまで、清楚会を立ち上げた野蛮な高校一年生、白海 麗香さん」


 まるで今にも喧嘩が起きてしまいそうな雰囲気を作り出す、私と白海。

 私の白海に対する怒りは、今までで一番高い。

 もう、白海は許さない。


 美人部部室で、私と白海は睨んだまま、しばらく動かなかった。

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