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私が清楚会からの相談を受けたりなんてしないっ!

 涙を雪のようにゆっくりと流す少女。彼女の言っている事は、白海 麗香に部活を乗っ取られたという事だろう。もちろん、同情もするし悲しい事だと思う。だけど、私がもし、清楚会のこの人であればきっと部活を転校してきたばかりの人間に空け渡さない。

 この子が部長であるかないかだなんて関係がない。美人部を乗っ取ろうとするのなら、誰にも乗っ取らせないし許さない。

 外が完全なる夜闇に晒されたのか、照明が明るくなり、より泣いている少女の顔が鮮明に写し出される。

 助けてくださいという言葉に、答えるのではなく。まず、私はそれまでの経緯を聞く事にした。


「助けるも何も、そこまでの経緯を聞かなければ、私でも助けようがないと思いますよ?」

「そ、そうですよね……」


 涙を制服の裾で拭き取る少女。若干腫れた瞳で、口を重く開いた。


「白海さんが乗っ取ってこようとしたのは、ちょうど夏休みが終わった頃です」


 それから、私へと清楚会の知られざる過去が話された。

 

 九月の初め。少女達三人は松丘総合高等学校において、幼児などを保育する目的で作られたいわば同好会のようなものだったらしい。部員も私と同じく一年生であり、皆で保育園などに来て一緒に遊ぶ事が活動内容だったそうだ。

 当時、蕣はそのような活動をする少女に感激し、すぐに同好会としての発足を認め、メンバーが集まれば部活としても認めてくれる話だったそうだ。

 夏休みも盛んに活動した彼女達。しかし、転機は訪れた。

 突然、編入試験を坂本 優香と同じく軽くあしらった白海 麗香の転校。彼女の初見のイメージは誰にでも優しく、また大人しく綺麗な人だったそうだ。そう初見までは。

 その日。少女は白海に何の部活に入ってるのか聞かれ「保育支援同好会だよ」と何気なく答えたらしい。それを聞いた白海は悪魔のように微笑んだ。それを見た少女は見間違いかなと思い、白海が「部活に遊びに行っても良い?」などと聞くもんだから、迷わずに「良いよ」と言ってしまった。

 すぐに保育支援同好会に遊びに来た白海は、部員を見るなり舌打ちをした。

 それを耳に入れた少女は、何かが変だと思い、白海に何故舌打ちしたのか問いかけたそうだ。すると、クラスでの雰囲気とは百八十度違った白海は「地味だなぁ、お前」と言い放ったそうだ。そこにショックを受けるわけでもなく、他のメンバーも自覚している事だったので、地味という意見に対しては誰も口応えしなかった。

 白海は面白かったのか。少女達を散々「地味子一号、二号、三号」などと罵り、性格の悪さを滲ませた。

 我慢できなくなったメンバーが立ち上がり、白海に「何なのよアナタ!」と叫んだ。すると、白海は突然笑い出し、少女の顔めがけてパンチを放った。それは寸止めで止まったから良かったものの、「次、あたしに何か言おうものなら、殺すわよ。あたしはそういうお友達沢山持ってるから。死にたい奴だけ来なさい」と脅された。

 それからの保育支援同好会は白海の手中に収まった。

 名前も清楚会に書きかえられ、毎日が地獄のようだったという。もし、他の誰かにこの事を言ったり、清楚会を無断で休んだりしたら、非社会的に権力のある者に売り飛ばすと言われていた。

 成す術もなく少女は、ただ泣きながら、白海率いる清楚会へと変わり果てた保育支援同好会を続けていたのだと言う。

 そして、清楚会の目的は、美人部の廃部。さらに、黒樹 麗の海外への売却のようだ。


「……ここまでが、私達が置かされた現状です」

「……白海 麗香……」


 私は思わず無言になってしまった。それこそ、白海が通常の人間だったならまだ処置のしようがある。しかし、非合法の薬でもやってるかのように、白海 麗香という人間は狂っている。それがただ確認できただけの話だった。

 私としてはすぐにでも対処したいが、何分白海はその非社会的な人間とつるんでいる者だ。下手に手を出せば、麗どころか皆も危険にさらされる。だが、姉に頼ればすぐに万事解決してくれるとは思うが。

 何よりも、これは私達美人部の問題であると共に、少女達――――元保育支援同好会の壁でもあるのだと私は思った。

 涙を流し終えたのか、スッキリとした表情であどけなく笑う少女。その笑顔は話してスッキリしている半面、大きな悩みを抱えている事を表に出したものだった。

 年頃の乙女がこんな顔をしているのは、同じ女子として見逃せなかった。

 しかし、そこまでして考えた。この少女は現状のままでも良いのか、それとも白海に対して、何か対策を取ろうとでもしているのなら聞いておこうと感じた。


「それで、あなた達が白海さんに対して、何か処置をしようとしてるんですか?」

「い、いえ……、やっぱり怖くて何も出来ないんです……」

「それでは何も始まりませんよ? それに、お願いするのでしたら皆さんも少しは反撃の狼煙をあげるくらいの行動がないと私にはどうすることもできません。皆さんが少しでも抵抗して、それでもダメだったら美人部は再び相談にのります」

「……わかりました」


 何も抵抗していないのに、人に助けを求めるのはどう考えても虫が良すぎる話だ。それだと美人部は警察と同じような役割になってしまう。いや、警察の方がまだ良いかもしれない。こっちは完全に無料(学生だから当たり前だけど)なのだから喧嘩の仲裁ボランティアみたいにはなりたくないのだ。

 それに、もしここで私達美人部が清楚会から白海を取り除く事ができたとしても、抵抗の兆しを見せていない少女達には再び白海の毒牙が襲いかかることだろう。

 そんなものは目に見えている。何回も私達は仲裁できるほど暇じゃないのだ。……暇、ではあるか。

 

 こうして、少女による清楚会の真の姿を暴く事ができた私。しかし、麗や優香に話すのは何かと行動をしてしまう恐れがあるので、この件は二人には言わないでおく事にした。

 あれから私が教室に戻ると、麗と園児は笑顔で遊んでいた。私がいない間に子供心を掴んだのか。なんとか仲良しになってくれて私は安堵した。

 別れ際に、子供達との麗は御礼の言葉を言われていた。そして、私達が帰るときには、麗と優香は大泣き状態で慰めるのが大変だった。

 それから、私達は自宅に直帰することになった。真っ暗な住宅街を四人で歩く。風は幾分夏よりかは出てきたと思う。


「楽しかったですね! 麗もどうでしたか?」

「だ、だのびがっだ……(た、たのしかった)」

「泣きながら言わないでよ! ……も、貰い泣きしちゃうじゃない!」

「優香ちゃんそれ貰い泣きじゃないでしょ!」

「う、うるさいわねっ! ……ふぐっ」


 普段は目が合えば喧嘩する犬猿の仲でもある優香と麗が抱き合いながら泣いていた。周囲からは百合かなんかだと思われるので止めて頂きたいっ!

 こうして、私達は清楚会の敵情視察を終え、帰宅した。




 ◇




「ただいま」

「ただいま帰ったよー!」


 私と美羽は自宅に帰ると、颯爽と駆け抜けてきた者がいた。

 どこかへ行ってたのか、いつもは私服姿の姉なのに、今日はスーツ姿だった。それはまるで就活生みたいな感じ。そういうものとはまったく無縁の姉が出迎えてくれる。


「おかえりー! あ~ん美樹たん会いたかったよ?」

「えーっと、何で就活してるんですか?」

「おや? 美樹たんは何も聞いていなかったの?」

「聞いていないも何も、何かあるんでしょうか?」


 疑問文の連続。そして、姉は顎に手を置いて「ムッふっふっふっ!」と奇妙な笑い声を出した。


「この度、私が立ちあげた会社が大手に上場することになりました!」

「す、凄いっ……美鈴ちゃんって何でそこまで才能があるのに……」

「近親相姦がしたいのかって? 当たり前じゃん! 美樹たん以外にあたしが興味が沸くわけないじゃないの! それは、美羽ちゃんも一緒でしょ?」

 

 姉が美羽にそう言うと、美羽はもじもじしながら頬を紅潮させながら私をじーっと見つめる。身体をくねくねさせている所を見ているとさっきからトイレに行ってなかったので我慢してたんじゃないかと私は直感した。


「美羽、もしお手洗いでしたら――――」

「それわざと言ってるの!? もうちょっと気付いてくれてもいいんじゃないかな!?」

「え? 何に気付くんですか?」

「ま、まだ決まったわけじゃないもん!」


 なんだか機嫌が悪いのか。美羽は私から視線を逸らして先にリビングへと向かった。美羽を見ていると私達の家に小さい子供が遊びに来たのかと思うほど違和感が出てきた。

 それを遠目で眺めていた姉は、唇に手をあてて呟いた。


「……まさか、美羽まで排除対象になるとは……。ここはあの日(・・・)までに何とかしないと計画(プラン)が台なしになる恐れがあるわね……」

「お姉さん? よく聞き取れなかったんですが」

「ん? あ、何でもないよ! それよりご飯食べよう! お母さん待ってるよ!」

「え、あ、はい」

 

 なんだか様子がおかしい姉であった。

 それからリビングへと入ると、父親はいつもの如く先にビールを飲みながら新聞に目を移している。私が帰ったのを一瞬だけ確認すると頬がほころんでいた。父も私を溺愛している証拠なのか、娘が帰ると嬉しいんだっと感じた。

 席に着くと先に美羽が座っていて「早く~」などと言って食事が待ち遠しいと言った感じだった。

 早速食事に箸をもつと、今日は焼き魚だからか、美羽の小骨を何故か私が取らなければいけないハメになった。


「そういえば、お姉さんの会社が上場するという事は、ボディーガードみたいなものがつくんですか?」

「うん、まぁあたしより弱いけどね。今日もボディガードを選ぶ試験みたいな事したんだけど、全員瞬殺してやったよ!」

「……お姉さんは手加減を知りませんからね」


 三月末。それは私に護身術を教えるとか何とかで、本気でしごかれたのを今でも覚えている。あのときも結局姉に勝つことはできなかったし、それによくよく思い出してみると、組手とか言って変な所を大胆に触ってきた気がする。

 それから優香を救出した後にも教えてもらったけど、それでも勝てなかった。

 やはり強い人が身近にいるのは良いなと思うけど、姉はいらないような気がしてきた。

 そこまで考えて、私はふと思いついた。


(……清楚会の人にボディーガードをつければ、もしかしたら……)


 食事中というのは分かっているが、私は立ち上がり携帯を手にした。


「美樹! 食事中の携帯は――――」

「ごめんなさい、少しだけお願いします!」

「はぁ……わかったわ。美樹もそういう年頃だものね」

「美樹たんはあたしのものだよ! 絶対にそういう年頃になるのはダメだからね! まずはあたしに相談してから――――」

「美鈴は黙ってご飯が食べれないのかしら」


 母と姉が喧嘩する中。

 私は携帯である人物にメールを送る。

 そこには、翌日から清楚会のメンバーのボディーガードをして欲しいとお願いした。

 清楚会に防御を纏わせれば、恐らく白海にも対抗できるかもしれないと私は思った。


「で、お兄さんは?」

「あら、美羽ちゃんは満が好きな「いえ、全く好きじゃないです」


 余談だが、満はこの日。次なるイベントに向けての会議だとかで忙しく働いているそうだ。

 姉も兄も学生という事を忘れている気がするのは気のせいか。

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