表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
106/142

清楚会に訪問したりなんてしないっ!

 新校舎五階。そこには多くの新設された部活が集う建物。私達の所属する美人部以外にも、最近では将棋部や軽音楽部などが新設され、今では部室の空きがなくなるのではないかと疑問に思う程、多目的室の利用が頻繁にされている。

 さっき麗が邪険にしていた生徒会長の朝霞 蕣は、校長の「部活を増やしても、部室が多くあるから是非作って欲しい」という発言に対し、猛反発している一人だ。その為、夏休み前から急上昇中である新設の部活を徘徊すると言った好意が目立った。美人部も新設した部活に変わりはないのだが、蕣の個人的な依頼を麗が受ける事によって徘徊はなかったのである。

 だが、蕣は美人部の廃部を申し出た。そして、その原因はこの五階にあるつい先日新設されたばかりの清楚会が入っている。そこに多勢で攻めるように清楚会を覗く美人部一同。

 

「……ここが清楚会か」

 

 麗が生唾を飲み込みながら、じっと部室を見つめる。目の敵はすぐそこにいるのだ。どんな理由があるにしろ、清楚会という部活が美人部の後に作られ、さらに既存の部活に抵抗してくるとは、とてもじゃないか性格が良いとは言えない。この戦いに、麗は特別な感情を抱いているようにも見える。それだけ、小柄で美しい少女はチャームポイントでもある猫目を輝かせていた。

 誰も麗の言葉には答えないが、美人部を廃部に追い込もうとする連中が許せないと怒気に包まれている。あまり怒らない鷹詩なども、殺気めいた雰囲気に包まれていた。

 麗は無人の廊下で、清楚会のメンバーにも聞こえるような大声で、尚且つ、いつものお題を告げる口調で叫ぶように凛として言う。


「では、これより――――美人部特別課題。『美人と清楚。性格が悪いのは、以外に清楚だったりする』についての強制討論会へと行くぞ!」


 皆が答える間もなく、麗は清楚会の扉を開ける。

 そこには、四名の女性。眼鏡をかけながら、必死に机の上にある書類に目を通している、髪型おさげの少女。一人はロングヘアーで眼鏡。あと一人はセミショートの眼鏡。全員が眼鏡をかけている。部活名を眼鏡会に変えたほうがいいのではと思うほどの眼鏡率である。皆共通しているイメージは、どちらかというと清楚というよりも地味な感じだ。

 そして、その中で際立って美人(当然、私の足元にも及ばないであろう)が一人。白海が腰に手を当てながら、我が部長である麗と視線を交差させる。


「さっきは、生徒会長がいたから、言いたい事も言えなかったんじゃない? 黒樹」

「誰にモノを言ってるんだ? 私から逃げた負け犬の白海」

「やっぱり、アンタは修学旅行でちゃんと潰しとくべきだったわ」

「あの時は、大変だったな。今からでも仕返しを受けたいのなら間に合うぞ? ビッチ白海」


 言葉の応酬が止まない麗と白海。二人は同中であり、その因縁には深い闇のようなものがある。

 一発触発の雰囲気に、白海の元に一人の女子生徒が止めに入る。今にも襲いかかりそうな麗には私が間に入る事で、事態の急展開は避けられた。


「ダメですよ、麗。とりあえずはキチンと話してからじゃないと」

「むぅ……。すまない美樹。恩に着る」


 怒りが顔に滲みでていた麗は、なんとか憤怒を鎮めてくれたようで顔は平常時に戻った。けれども怒りが収まらないようだ。だが、その喧嘩は私は口でならしていいと思う。それで解決する事があるのならシッカリとやってもらいたいものだ。

 私は背後にいるであろう白海を見つめた。彼女は一人の女子生徒に取り押さえられている。


「ダメだよ! 麗香ちゃん!」

「あ? テメェ今なんつった! あたしの事を名前で呼ぶんじゃね!」


 床に清楚会のメンバー一人が投げ出される。腰を打ったのか痛そうに尻を押さえて「痛たたた……」と可愛げに呟いていた。その光景を目にして、私達サイドの人間げある美人部の部員が怒りを露にした。

 

「女の子同士で虐め合いは良くない! やるなら俺を――――「いい加減にしなさいよ! あなた同じ部員を傷つけるなんて最低な人間のすることよ!」


 鷹詩のいつも通りの珍言を遮った優香が怒りを露にした。でかした優香と思いながらも、鷹詩の方へと視線をやるとちゃっかり拳を握りしめて、一般人並みの怒りが彼にもある事が伺える。さらに言うのならば、鷹詩はこの雰囲気をぶち壊そうとして故意に、ふざけようとしたようだ。それが皆にしっかり伝わってればいいのだが、正男達なんかは盛大に溜息を吐いていたりする。多分、君の怒りは伝わってないよ!

 優香の憤怒は異常だ。それこそ、麗と同等かそれ以上である。私達と優香の出会いは、彼女が遊びからハブられた所から始まっていた。優香をバカにした連中を私達が叩きのめし、それで優香は私達の元へと自ら歩み寄って仲間となったのだ。

 恐らく、優香はその一件があって以来。友人関係には最も気を使っているのだろう。そして、優香が意外にも繊細である事も私達は知っている。だからこそ、優香を本当の本気で怒らせる事は、私達には難しかったりするのだ。

 両肩を上げ、大股で歩調を強くし、白海の元に寄った優香は思いっきり彼女の胸倉を掴む。


「あたしはアンタみたいな人間を絶対に許さない」

「そう? あたしは逆にアンタみたいな全てに恵まれていそうな人間程、地の底に落としやすそうで、良いカモだと思うけど?」

「最低な人間ね……ッ!」


 今にも平手を放ちそうな優香に、悪魔や幽霊などといった冷淡な瞳を向ける白海は、二コリと背筋が凍るような笑顔を作り出す。


「アンタ、本当にバカだね」

「……何が言いたいのよッ!」

「アンタが坂本 優香でしょ? 有名だったわよ、あたし達(・・・・)の中じゃね」

「どういう意味よ」

「アンタを虐めていた連中は、あたしの元仲間って事。それに、アンタとあたしは初対面じゃない」

「……え」


「アンタを初見で鬱になる姿が見たくなったアタシが、虐めろと命令したんだよ。坂本 優香」


 その言葉に、優香は瞳孔を開き、胸倉を離して平手が飛びそうになる。それを防ごうと白海が優香の平手を掴もうとした。

 だが、最初に攻撃したのは優香ではない。

 白海の脇腹に入る、美しい脚。

 まるで予期していなかった攻撃を喰らった白海は、目を見開き、その人物を凝視する。蹴られた事によって、白海の身体は宙に浮き、床に叩きつけられる。

 そして、白海を蹴り飛ばした人物が、彼女を見下す。


「そうやって、人を虐める事の何が楽しいんですか? 誰が幸せになるんですか? 誰が笑うんですか? 何の幸福ももたらさない虐めなんて、最低の人間のする事です。それを平然とやってのけるアナタは悪魔でも何でもない。生物以下です」


 白海を蹴った人物――――それは私、谷中 美樹だ。

 頭にまるでチャッカマンで火がつけられたかのように、血が昇った。原因としては、優香を虐めていた真の首謀者が白海だからだ。だが、あのとき、優香を虐めていた人間は、『好きな人を取られたから気にくわなくて虐めた』と言っていた。

 微かな疑問が脳裏に過りながらも、私は白海を睨みつける。


「はぁ……アンタってただの美人じゃないのね、リア嬢王」

「随分と古い名前で呼ぶんですね?」

「こっちでもアンタの名前は有名だったからね。それにしても、驚いたよ。アタシの部下だった奴が『麗香の言う事はもう聞かない』なんて言ったから、アンタらが池袋でどんな事をしたのか興味があるんだよね」

「別に私はあなたに興味はありませんよ」

 

 私は先刻の白海と同じような目つきをして言い放つ。


「ゴミ」


 この場にいる全員が目を見開く。親友達も、瑠花も雅紀も、清楚会の眼鏡達も、優香も、そして麗も。

 皆が、私の事を驚いて見つめる。

 しばらく、静寂が訪れる中で、私は考えていた。過去、優香を虐めてたビッチAは『あたしらみたいなのは……小さい頃に虐めに遭うんだよ! そのときに知るんだ……あたしらが虐められないようにするには、元が良い奴を虐めればいいんだって! そうすれば、あたしらが正義だ! お前らみたいな顔が良い奴が悪になると分かったんだ! だから、あたしは坂本を虐めたんだよ!!』と言っていた事があった。小さい頃っていうのは恐らく例えの話で、ビッチAは白海に虐められていたのだろう。そして、今の眼鏡達のような立場となり、学習した。

 自分よりも美しい者を虐めれば、頂点に君臨できると。だが、それは偽りの頂点――――ただの段ボールでできた山でしかない。

 一部ではあるだろうが、その文化を作り上げてきた白海に対し、私は猛烈な怒りを覚える。


「美樹……」

「美樹ちゃん……」


 麗と優香の二人が私の後姿を見ながら呟く。普段の私を知っている者ならば、誰もが驚く所業である。蹴りで攻撃した私に、ゴミと発言する私。どちらも普段の谷中 美樹である事に変わりなどない。けれども、私を怒らせるという事はそういう事なのだ。

 白海は立ち上がり、ゴミと言った私を睨みつけながら、口を開いた。


「良いね、アンタみたいなのは本当に潰しがいがあるッ! 谷中 美樹覚悟しな!」

「あなたみたいな人間は、一度分からせてあげないといけませんね」


 それだけ毒吐いて白海は、清楚会の部室を出た。

 残された私や麗の元に、眼鏡の子達が集まり、なにやら変な書類を持ち出してきた。


「……これは、私達の本当の活動内容です……もし、良ければ、見に来ませんか? ……あの人もいますけど」

 

 オドオドした表情で私に告げる少女。あの人とは白海の事だろう。私は首を縦に振り、少女から書類を受け取った。


「ありがとうございます。敵情視察、ですけどいいんですか?」

「は、はい。これは、あの人から渡せと言われてる書類なので」

「なるほど、あのビッチ嬢王はくだらない事でも考えているという事か。受けて立とうじゃないか。美樹」

「はい」

「それに……そ、その、ゆ、ゆ、ゆゆゆ、優香の為でもあ、あるしな……」

「え?」

「べ、別に私は何も言ってない!」

「麗も、優香の事下の名前で呼びたいんですね!」

「どうしたのよ、アンタがあたしの事を下の名前で呼ぶなんて、どういうつもりかしら?」

「べ、別に何だっていいだろうが! それよりも、部室に戻るぞ!」


 こうして美人部と清楚会は、清楚会の活動内容――――職場体験プログラム保育園を清楚会の部員と共に私達も参加する事になった。正直、これがどうなるのか分からないが、一先ず子供の前では喧嘩しないように気をつけなくちゃと、私は――――いや、私達は思った。




 ◆




「ゴホっゴホっ! あの女ァ……本気で蹴りやがって……」


 白海 麗香は水道にて、蹴られた脇腹の痛みを我慢するように手を当てていた。正直な話、女子だからと言って谷中 美樹の蹴りを舐めていた。彼女が白海に手を上げる事になるのは知っていた。以前に、白海のかつての友人をまともな(・・・・)人間へと変えられてしまった時。谷中 美樹は手を上げたというのを聞いていた。

 だが、想像以上に谷中 美樹の蹴りは痛かった。これは物理的なものなのだが、あの細く長い脚のどこにそんな力が眠ってるのか分からなかった。


「ぐっ……痛いッ」


 歯を食いしばりながら、水道に写る自分の顔を見つめる。白海の顔は良くても、坂本 優香と同等かそれ以下。さらに言えば、かつての虐めの標的である黒樹 麗は何をしたのか、顔は中学よりもさらに可愛らしくなっている。谷中 美樹は当然、美し過ぎて、足元にも及ばない。その背後にいた男達は全員違うタイプのイケメン。一番後方にいた男はイケメン過ぎるし、その隣の少女も可愛かった。小さい子も天使かと思える程可愛い。

 白海は笑った。


「……美男美女って事かっ! これはこれで、全員が美男美女じゃなくなった時が楽しみだなぁ……!」


 そう笑いながら、一人水道を通り過ぎる男性を尻目で見る白海。

 その者は白海を見ずに、一枚の写真を眺めていた。

 白海はすぐに顔を上げて、その男性の事を立ち止まらせる。


「あのっ!」

「ん? 僕は忙しいんだが」


 振り向いた白海の生まれて以来の超ド級のストライクな男性――――牧。

 しかし、彼は写真から顔を上げる事はない。


「あ、あたしの事……覚えてますか?」


 その言葉に牧は顔を上げず、まったくの興味も示さないまま呟いた。


「僕は美しくない者は見ない主義でね。こうして、彼女のような美しい人間を見る為に僕は生きているんだ」

 

 そうやって見させられた写真は、谷中 美樹の写真だった。白海は少なからずショックを受けるが、そのショックは数秒間だけ。その後、その思いは急加速しながら憎しみへと変わる。


「アタシは美しくないと思いますけどね」


 そう言いながら白海は牧から写真を無理矢理取り、目の前で破って見せた。

 牧は怒りを滲ませながら問う。


「何をするんだ、君」

 

 白海は微かに笑い、答えた。


「こうすれば、先生もアタシの事覚えるでしょ? アタシはあなたを手に入れる為にもこの学校へと来たんだよ? 代永 牧先生」

 

 その言葉に牧は瞳を閉じて、言い放った。


「僕は、君みたいな人は醜くて嫌いだ。そして、僕の交際相手は谷中 美樹一人だ。それ以外は僕にとっても彼女にとってもあり得ない答えの筈だ」


 牧は冷ややかな視線を麗香に向けたまま、美人部の部室へと足を進ませた。

 白海 麗香は決意する。


「……谷中 美樹ィィィィィィッ! お前だけは絶対に潰してやるッ!」


 誰もいない廊下では、白海のハスキーボイスは響いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ