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デートと歓迎会なんてしないっ!

『もしもし、私だ。そちらの方は頼んだぞ』

「誰に向かって言ってるのかしら。もう少しあたしを信用しなさいよね」


 現在、休日の栄えた駅前の広場では、休日効果により発生した多勢のカップルや子供連れなどが大量発生している。今日、この場所では美人部の部員である荒田 直弘と大船 瑠花がデートをする予定になっている。そして、一足先に着いた直弘は、さすが大人にモテる男子だけあって、カジュアルシャツなどを着こなす可愛い系かつ大人っぽく見せる格好をしていた。直弘はまだかまだかと、腕時計をチラチラと見ながら瑠花とのデートを心待ちにしていた。

 そんな直弘を監視するのは、あたし――――坂本 優香と、つい先日転校してきて新たな部員となった美樹の従妹である美羽だ。あたしはワンピースだが、美羽は子供っぽい姿であるが、茶々を入れれば怒られてしまう気がして、そこに口を出すのを止めておいた。

 麗からの電話は、現在美人部の部室にて歓迎会の打ち合わせをするとかで、終わったら、学校に一度戻ってきて欲しいとの事だった。その為、あたし達も監視を終えたら、バレないように学校に戻らなければいけないのだ。

 

「それにしても、ポニテの人遅いね」

「そうね。でも、待ち合わせの時間はだいぶあるしいいんじゃない?」

「まぁ、そうだけど」


 美羽は言葉を濁しながら、直弘へと視線を戻した。

 ちょうど、そのタイミングで瑠花がやってきた。今日の服装は優香と同じワンピースであるが、デートだからか、優香よりも細部が凝っている気もした。あまりの初々しさに、見てるあたしたちが恥ずかしくなってきた。

 瑠花は待ち合わせ時間ピッタリに到着し、直弘に笑顔を見せた。


「おはよ、直弘君」

「あ、おはよう……ございます?」

「何で疑問形なの?」

「い、一応先輩だから……かな?」

 

 直弘は困ったように首を傾げていた。それを見た瑠花は口元を手で隠しながら、上品に笑っている。

 恐らく、直弘は年上の友人(異性)は多勢いるのだろうが、先輩というポジションの人は初めてなのだろう。そこもまた、あたしは意外に感じていた。彼は別名年上キラーなのだ。いつも年上とばっかり遊んでいると聞いていたあたしにとって、先輩は年上というジャンルから除外されていたのかと思った。

 

「じゃあ、行こうか」

「うん!」


 そう言う直弘の腕を迷わず掴んだ瑠花。瑠花という人物を知らなければ、直弘の事が好きなのだと勘違いしてしまっても可笑しくない現場である。現に美羽なんかは口を開けて「あの人って直弘さんの事好きなんだぁ……」なんて呟いてたりする。

 瑠花は決して直弘の事なんて好きじゃない筈なんだけど、でも腕を組むって事はそれなりに好意があるのだろうかと勘違いしてしまう。あたしは大船 瑠花という人物が、よく分からなくなっていた。

 恋人の雰囲気を辺りに散らす二人は、そのまま映画館に入って行った。


「映画……ってデート初心者の行先だよね?」

「まぁ、そうだけど、アイツの事だから何か考えでもあるんじゃない?」


 美羽が不思議そうに首を傾げていた。帰国子女だと聞いていたが、それなりに日本での交際関係についての明確な常識も理解しているようだ。何でかはあえて聞かないでおく事にして、あたし達も後をすぐに追う。

 休日だからか、映画館は大変混雑中で、いくつかのスクリーンのチケットも売り切れになっていた。当日券を買うのは不可能である。しかし、直弘はあえて映画デートを選び、尚且つ当日券が売り切れているであろうと考えていた今日を選んでいた。それなりに準備がある筈だ。

 あたし達が身を隠しながら、直弘と瑠花の行動を見張っていると二人は当日券を買わずに入場ゲートまで足を進ませていく。

 そこで直弘は、チケットを買ってない筈だったのに、何故か入場門を通っていた。


「え? ちょっと何でアイツ通れるのよ!」

「多分……先にチケット買ってたんじゃないの?」


 美羽が呆れたように人差し指をさすのは、コンビニにありそうなATMのような機械。これだけ多くの人々が映画館にて犇めくのに、その機械だけは無人だった。一体何が起こってるのか、あたしには理解できなかった。


「あれは、映画館での座席予約を前もってできる機械。つまり、混雑を予想してあの人はチケットを買ったって事だよ」

「はぁ!? そんな事できるの!?」

「……いや、だいぶ前からできるけど……」


 あたしよりも何センチも小さい美羽は、溜息を深く吐きながら、あたしの事をバカにするように見つめる。年下の小学生にバカにされてるみたいで凄く悔しかった。

 とは言え、美羽の情報収集能力が途轍もなく長けている事に気付いた。通常の帰国子女ならば、こんな事分かりようもない。

 そんな思考をしていると、横から美羽はさらにあたしをバカにしたように笑った。


「今じゃ、先進国じゃ当たり前なんですけど」


 あたしは、どうしてこんなに小さい美羽にバカにされてるのか理解できなかった。




 ◆




 休日の美人部の部室。そこには雅紀、瑠花、直弘、優香、美羽を欠いた全部員が集結する。直弘にはメールで今、集まっている事を伝えてある。そして、休日にまで集まった理由。それは――――


「美人部新入部員歓迎会の内容考察会を始めようか!」

『はい、部長ッ!』


 美人部新入部員歓迎会。それは二学期から新たに加入した瑠花と雅紀、そして私の従妹である美羽。この三人の歓迎会をしようと麗が発案したのだ。これが決まったのは瑠花と直弘がデートをするときだった。あのとき麗が、そのタイミングで歓迎会でもしようと言いだしたのだ。

 そのおかげで、私達美人部は休日出勤ならぬ休日登校なのである。

 いくら休みの日とはいえ、学校を使うので今日も皆は制服姿だ。


「さて、今回の歓迎会だが――――」

「ちょっと待て、質問がある」


 麗の言葉を区切った人物が一人。休日だというのに、欠伸一つしない超堅物の拓夫である。彼が眼鏡の位置を片手で修正し、照明の光にレンズを反射させて光らせた。


「俺達の歓迎会もしてないのに、彼らの歓迎はするんだな」

「もちろんだ! ……というか、そもそも貴様は歓迎してないんだが」

「なんだと!? 俺はこれでも、美人部に色々と還元してきたつもりだが?」


 腕を組み、瞳を閉じて考え込む麗。脳内でしばらく今までの回想をして瞳を開いた。


「……還元してないだろ?」

「……実は俺もしてない事に今気付いた」

「じゃあ今還元しろ。主に金とか金とか金で」

「要求する事が学生には無理があり過ぎる」

「なら、貴様の退部で勘弁してやろう」

「無茶苦茶過ぎるだろ!?」

「ハァ……わがままな男だ。そんなんじゃ美樹の気をひけないぞ?」

「うぐ……」


 拓夫は麗に言いくるめられ、会話は終了となった。

 それから麗は毎回恒例である、お題を書き始めた。いつもと同じように上の部分は届かないので、椅子を使って器用に書いて見せた。完成した黒板には『美人部による凡人を歓迎する会』と示されていた。凡人を歓迎するとか悪意しか感じないのは私だけでしょうか?

 お題を完成させた麗は、椅子から飛び降りて人差し指を私に向ける。


「美樹! 何か良い案はないか!」

「へ? わ、私ですか? うーん、なら人生ゲームでもしませんか? それなら案外楽しめるかもしれませんよ?」

「人生ゲームか……例えば、美樹と私が実際に子作り行為をして見せるとか?」


 え、何言ってんの朝っぱらから。見たいな顔をした私だが、まったく反応せずに、麗は手を組んで腰をクネクネと動かしている。冗談でも公開子作りはダメでしょう!

 そんな中、一人手を上げた。


「何だ? 今、私は美樹と話してるんだぞ!」

「……根本的な所から間違ってるよレイー」


 手を上げたのは久光だ。久光は案外まともに見えなさそうで、しっかりしている部分がある。そうだ、ここは一言放つんだ! 

 久光はゆっくりと椅子から立ち上がる。


「そもそも公開子作りは、レイーの身体も皆に見えちゃうよ!」

「た、確かに……それだと恥ずかしいな!」

「ちょ、わ、私の裸だって皆に見られたら恥ずかしいに決まってるじゃないですか!」


 麗の裸を皆見たくないって事? むしろ、そこの部分をツッコむべき筈なのに、麗ときたら、久光の言う事を鵜呑みにしてしまったよ。

 私は溜息を吐いて、久光を睨みつける。


「私にだって……羞恥心くらいありますよ……」

『おぉ……』


 照れを少し含んだ笑みを皆に向けると、全員が漏れなく立ち上がった。この光景凄く嫌い。谷中 美樹、近頃イライラする。

 そこで、麗一人が私の両肩に手を置いた。


「美樹。そんな考えでは、あんな水着は普通着れないんだぞ?」

「み、水着は別じゃないですか……そもそも、私の水着って普通ですよ?」

「もっと分かってくれッ! 美樹はな、存在まるごとが淫乱なんだよッ!」

「ちょっとそれどういう意味ですか!」

「どういう意味って、そりゃあ、美樹はエロくて毎晩のオカズにできるって事さ!」

「そんな澄まし顔で言わないでくださいッ!」


 この部員、私から恋人がいなくなった途端、いつものテンションに戻ってきた。最初の頃は、美人を丁重に扱うみたいな面があったけど、最近じゃ私の事をエロい目で見ていた事をさらけ出すようになってきた。ホント誰か何とかしてほしい。

 

「美樹、ならば、私と一緒に羞恥心を捨てる為に、人生ゲームをしたときに、子作りのマスが出たら、一緒に公開子作りをしようじゃないか!」

「人生ゲーム却下でお願いしますっ!」


 結局、人生ゲームは却下された。

 麗は盛大な溜息を吐き、黒板の前へと戻り「はい次~」と気だるそうに言った。

 だが、声の音ではなく、部室の扉がスライドされる音が響いた。


「なるほどな。これが噂には聞いていたが、美人部の活動っというわけか」

「はい、そうですよ。生徒会長」


 入ってきたのは才色兼備と有名(私の影に埋もれた美人)である生徒会長、朝霞(あさか) (あさがお)が現れた。その背後には、副会長ではなく、先日麗に宣戦布告をしかけた白海 麗香だった。

 麗香は会長の影に隠れて、麗の事を見下すように笑っていた。


「一体何のようだ。蕣ちゃん」

「ちゃん付けは止せと言っているだろう、黒樹一年生」

「随分と他人行儀だな。部長会議の時の蕣ちゃんはもっと可愛かったぞ」

「そ、それは言うなと言っているだろうが!」

 

 なんだか、緊迫している空気の筈なんだろうけど、麗のせいで台無しである。以前、生徒会とも付き合いがあると麗はチラっと言っていた。もしかしたら、そのときのエピソードなのか。それとも単に麗が生徒会長を脅しているのか。よく分からない。

 けれど、背後の白海を見る限り、生徒会長を連れてくるという事は何かを仕掛けに来たのだろう。

 私は白海を睨みつける。しかし、まるで意にも返さずに、白海は私ではなく麗を見下し続けた。


「美人部は廃部だ」


 蕣の言葉を聞いて、麗は更に白海を睨む瞳を細めた。 

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