坊主になんてしないっ!
新たに、部室に二人のイケメンが入室してきた。
その二人は幹の親友、鷹詩と直弘だ。
両方とも美樹とは既に面識があって、両方とも俺に告白してきた奴だ。今のところ、他の拓夫と久光の二人とはコンタクトがない。
「チッ……! また男か。どいつもこいつも面だけは良いのな。死ね」
「教室に入って第一声がそれ!?」
「僕と初対面だよね!?」
機嫌を悪くした麗に、罵られる二人。
正男はまだバシンバシンハンマーに叩かれた顔面を、痛そうに擦っている。可哀相に。不憫で仕方がない。
「で、貴様らクソリアチャラ充は何しに来た」
「麗、言葉がかなりキツくなってますよ?」
「そうだ! 美樹さんからも言ってやってくださいよ!」
「正男さんは節操というものが無い気がしますが」
麗と俺と正男で、会話が繰り広げられる。
このテンションに直弘と鷹詩はついていけてない様子。
鷹詩は苦笑いしながら、麗に近づいた。
「いきなり、すいませんでした。俺らはちょっと美人部というものが気になったので伺おうと思っただけなんです」
「なんだ貴様。イケメンの上に礼儀まで正しいと来たか。くたばれ」
「はい!? あ、あのー……俺何か言いましたか?」
「言った。いや、存在そのものがウザい。もはやこの世から最初から存在しなくなれ」
「ひぇえええ!?」
「口を閉じろ。この世界の貴重な酸素が減る」
鷹詩は麗のサディスティックな言動に押しつぶされ、肩をがっくりと落とし、直弘の肩に手を置いた。
鷹詩ってそうとうメンタル弱いんだよな。当時は色々と冗談が効かなくて大変だったな。まぁ、それも中学最後になるにつれて解消できた問題だったんだが。
麗は男に対して厳しいな。
今度は直弘が麗にコンタクトをとるために、近づいた。
「いきなり御邪魔して、すいません。僕らも部活に入っていいですか?」
超ド直球。
コイツら三人の目的が簡単に伺える。
全員、俺目当てだろ? わかってるって。別に悪い事じゃない。悪いのは俺。美少女なのが罪に感じるぜ!
「はぁ? 何でそうなる。お前の頭は年がら年中花が咲いてるのか」
「花? いいよね~向日葵とかチューリップとか!」
「話が通じてないのかバカ」
「バカって言った方がバカなんだもん!」
「……色々ウザいな……」
麗が溜息を吐いて、腕を組む。
直弘は超がつく天然だ。さすがの麗には手が負えないと見た。
俺だって、この前の対処には困ったものだ。まさか、屋上で会うとは思ってもみなかったしな。
それに撒くのが大変なんだよ……。
「はぁ……最初は美樹とゴニョゴニョゴニョゴニョ……」
麗がゴニョゴニョと口をもごもごさせている。俺の耳にはまったく入らない。何を一人でボソボソ言ってるのだろうか。
というか、部活設立からイケメン三人が入部するとか異常なんだけど。
そろそろ、掲示板とやらが気になってきた。
「あの、麗はどんなチラシを掲示板に張ったんですか?」
「ああ、これだ」
チラシを俺に見せる。
美人部
自らの美しさに研きをかける部活。
保存大樹のように太く逞しい身体を形成する。
この先も美しくありたいと思う者を育てる。
さて、いろいろとあるのだが、君も美しくあろうとはしないだろうか。
君も、るろうとしている自分という原石を研磨しようじゃないか!
皆に、よそよそしい態度をとっているのは自分が綺麗ではないから!
さあ!! 君も美人部に入って美しくなろう!
部長:一年B組 黒樹 麗
俺は紙を見て、何が言いたいのか、まったく分からなかった。
これで、来るとかバカか?
やっぱり、かつての親友たちは底辺に堕ちてしまったのか。
「麗が作ったんですよね?」
「まぁ、そうだな。先生に言われなければ勧誘ポスターなど作りたくなかったんだがな」
「何でですか?」
「……そ、それは……美樹のいじわる」
「へ?」
麗は頬を可愛く赤色に染め、唇を尖らせていた。
こういう所が可愛いのだが、自分では気づかないんだろうな。
麗という人間とここ最近は一番長くいる為に、なんとなく分かってきた気がする。
「で、貴様らクソリアチャラ充は何で、この掲示物を見て来た」
「決まってるじゃないか! 『美樹もいるよ!』って書いてあるからだ!」
「そうだ!」
「そうに決まってる!」
正男の声に鷹詩も直弘も同調する。
そんな事書いてあるのか? どこをどう見たら、そんなものが映ってるんだ。
俺は紙を見直す。
……書いてない。
「あのー……どこに書いてあるんですか?」
「四行目から縦に読むと書いてあります!」
四行目から縦?
……書いてあった。
俺は麗に視線を向けると、麗は外を見て穏やかな表情をしていた。
「ふぅ……今日は天気がいいな」
「曇りですよ。麗」
「運動部が頑張ってるじゃないか」
「そっちにグラウンドも体育館もありませんよ」
「今日の晩御飯何にしよう」
「それは冷凍食品でって意味ですよね?」
麗は俺に視線を戻し、即座に土下座を繰り出した。
オー日本人ノ得意技デスネ!
俺は美少女なんで、大抵の事は許されるからしないけどね!
三人の男共も、麗の行動に目を見開く。
「すまん美樹! 勧誘ポスターなんて誰も見ないだろうと思って、つい出来心でやってしまったんだ! まさかヘタレカスバカクソリアチャラカス充が来るとは思ってもみなかった! すまない!!」
「麗、カスって二回言ってますよ」
「すまん! すまなすぎで二回言ってしまった!」
「その前に、この人達に謝るほうが先だと思うんですが……」
三人はうんうんと首を縦に三回同時に頷かせた。
息が合うんだよなー。俺ら地元で兄弟かって言われた事もあったな。
それにしても、麗の土下座が綺麗過ぎてビビる。男子にドSなわりに、俺には従順なのな。
「ははは、もういいって部長。俺らが勝手に来たのが行けなかったしさ」
「そうだね。俺も何のアポも取らずに来て申し訳ない」
「部長さんが怒るのも無理はないよね! 僕らが分をわきまえなさすぎた!」
正男、鷹詩、直弘が後髪を触りながら、麗に対して微笑む。
麗はお前らに謝ってるんじゃないぞ? あ、でも俺が謝れって言ったから、今の麗の土下座にはその意味も含まれてるのかもしれないな。
「黙れ女を誑かすクズ。貴様らは一度農園にでも行って、四六時中働いて来い。そんでそのまま帰ってくるな!」
麗の鋭い視線が三人を射抜く。
これはまたキツイ。
謝る気ゼロ。もはや、麗にとって男は敵そのものなんだろうな。
可哀相に。
「麗、ダメですよ? そんな事行ったら可哀相です! 皆で仲良く部活しましょ?」
「うう……美樹が言うなら……」
麗は視線を緩め、俺の瞳を見入る。涙目の麗が俺に何を懇願してるのかは分からなかった。
でも、右手を差し出し、もう謝らなくても大丈夫の意を伝える。
そして、麗はそのまま自分の席へと座り、腕を組みながら三人の男を睨んだ。
「さて、では美樹が言うからしょうがなく、入部する事を許可する」
麗は超不機嫌そうに瞳を閉じる。
そこまで嫌だったのか。再び、雑誌女ギャルを読みだした。
三人は肩を組み、ハイタッチをしたり、色々とやかましい。
まったく、俺も混ざりたくなるだろうが! 男のノリに凄まじく入りたい……!
中谷家による谷中 美樹への枷。男のノリには入ってはいけない。理由:女子力が低いとみられるから。
「良かったですね! ではこれからは、正男さんも鷹詩さんも直弘さんも友人ではなく仲間になるんですね!」
「ほふぅう……」
「ふへへへ……」
「にょぁほ……」
三人は頬をだらしなく緩ませ、俺を見つめる。
多分、友人から部活仲間に格上げされた事による嬉しさだろうか。
その三人に対して、麗はイラッとしたのか、壊れたピコピコハンマーことバシンバシンハンマーで三人を一人ずつ、思いっきりフルスイングして行った。
そんな感じで部員が増えたわけだ。
部長、黒樹 麗
副部長、谷中 美樹
他 三人。
そして、話は現在に戻る。
今は黒板に書かれた『美人の髪型からは気合を感じる!』が、お題だ。
麗はひたすら、雑誌をめくっている。良い髪型を探しているのだろうか。
正男と直弘は、ギャル男ヘアを実践しているのだが、正男は髪が足らず、弄れないご様子。
直弘はそこそこ長いので、できそうではあるが、天然パーマのせいでクネクネしてしまっている。
その為、鷹詩に麗はカツラを買わせに行かせた。
「じゃあ、お前」
「はい部長!」
「トン・ギホーデ行ってカツラ買って来い。三十分以内に戻らなければ、臓器を一つ貰う」
「ひぇええええ!!」
「うるさい。私はお前の声が姿が存在が嫌いだ。失せろ!」
「い、行ってきます!」
「領収書はいらないからな。お前の金で買って来い! この豚野郎!」
鷹詩は猛ダッシュで買ってきた。
カツラは一つで、短いのばかりだ。
麗は腕を組みながら、鷹詩を睨む。
「まさか、私と美樹のを買ってこなかったのか?」
「え……だ、だって部長と美樹さんは髪の毛が長いから、いらないかと……」
「もう一回行って来いクズ! 本当に使えないな! 今度は五分以内だ! さもなくば、貴様の髪の毛はカツラを着用しなければ、ならないくらいの短さにしてやる」
「ひ、ひぃいいいいい!!」
「さっさとしろ! このウジ虫野郎!」
「い、行ってきまっす!!!」
こんな感じで、麗は早速パシリを得たようだ。
麗って男限定で凄く正確が悪い。でも、笑いを堪えるのが必死だった自分がいる。まぁ、そこで笑ってしまえば美少女という名の皮をかぶった悪女になってしまうので、堪えたまでだが。
現在、先に買ってきたカツラを正男が被っている。
色々と弄って遊んではいるものの、正直カッコよくない。寧ろキモイ。
正直に伝えるべきか迷うな……。
髪型は直弘がコンビニでたまたま、今日発売だった雑誌を買ってきたらしい。
「これなんかどうっすか! 美樹さん!」
「正男さんには、もっと良い髪型があると思いますよ?」
「コレなんか、僕似合わないかな?」
「直弘さんは、もうちょっと可愛いほうが……」
そんなわけで、俺はずっと質問受け付け係になっていた。
麗は髪の毛をクリクリと弄りながら雑誌に夢中。
俺の事助けてくれないのか!?
そのとき、扉が開き鷹詩が帰ってきた。
肩を上げて、物凄い量の汗が滝のように吹き出てる。
さすがの正男も直弘も、心配している。
「こ、これで……いいですか……っ!」
鷹詩は麗に袋を渡す。
中身を確認して、麗は首を縦に頷かせ微笑む。
そして、鷹詩に視線を向ける。
「さて、五分ゼロゼロゼロ一を過ぎた自覚はあるか?」
「……へ?」
「私は正確に計っていたのだぞ?」
俺は麗の雑誌の中を見る。
ストップウォッチがそこには置いてあり、確かに麗の言葉通りの数字で時間が止めてある。
麗はどこからともなく、バリカンを取り出す。
え、何、マジでやるの!?
「さぁて。時間というのは社会の中でも極めて重要な物だ。それを破ったという自覚はあるのか?」
「す、すいません! でも、それだけは!」
「うるさい! 言い訳無用だ! 貴様のその鬱陶しい髪を、今から桜の如く、散らしてやる!!!」
「ひ、ひぇええええええええええええええええええ!!!」
今日、我が校で男子の悲鳴が全校舎に響いた。それは後日有名な話になった。




