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ArchAngel/harem night  作者: 鳥居なごむ
第三章
25/41

003

 武器選びは次回までの宿題となり、促されるまま狩場まで移動した。

 ラズリー平原を西へ抜けた、ベスタブルグ原野である。

 アクマクの森と同様に神都イージスへ向かう際の難所だ。荒涼とした土地が広がっており、所々に朽ち果てた建造物が見える。かつて獣人が築いた城壁が廃れたものであり、その名残で夜になると、アンデッド系の魔物が徘徊する危険地帯らしい。


 荒れた土地の中で一際目立つ存在を発見する。

 首の長い恐竜のような爬虫類が、エリアの中央付近を闊歩していた。

 これまで対峙してきた魔物とは、根本的に大きさが異なっている。

 まさに桁違いの巨大さで、建物が動いているような、それくらいの衝撃があった。


「なんだあれは?」

「原野の主という感じっすね」


 いろいろ説明してくれていたみたいだが、その言葉は俺の耳に届いていなかった。

 ベスタブルグサウルスと表示された魔物に見入っていたからである。

 あれを討伐できたら格好いいだろうな。そんな気持ちが胸の奥から込み上げてくる。

 初めて動物園を訪れたときのような、なんとも表現し難い感動を覚えていた。


「あたしたちの獲物はあれっすよ」


 声に釣られて振り向くと、複数の獣人が徘徊していた。

 豚のような顔をしたオークの群れである。

 獣人が通常の魔物と異なる点は、それぞれが冒険者と同じく、個別に職業を持っていることだ。そのため職業次第で強さに大きな差がある。特に攻守のバランスが取れた重戦士は、格上が基本となるレベリングにおいて、驚異的な性能を発揮するので危険だ。


「戦術はどうする?」

「がんがん倒していくっすよ。適正Lv15くらいの魔物っすからね」

「Lv20の二人で簡単に倒せるのか?」

「適正からLv5も上なら余裕っすよ」


 言うが早いか乱華は革袋から触媒を取り出し、言語とは明らかに異なる文字の羅列を紡いでいく。詠唱を終えると少女の身体に霞むようなエフェクトが発生した。

 それから投擲武器である手裏剣を標的へ向けて投げる。

 名前を赤色に変化させたオークが、猛然と乱華を目がけて突進してきた。


「蓮は削り担当でよろしくっす」

「おう」


 返事をしながら俺は鋼の双剣を<換装>する。

 特に拘りがあるわけでもないのだが、長らく拳闘士を経験していた所為か、左右の手に武器を装備していないと、どうにもしっくり来ないのだった。


 機槍士らしいオークは、両手で構えた槍を、力任せに突き出してくる。

 乱華の左胸に命中した瞬間、少女の身体が藁人形となり霧散していく。

 確か敵の攻撃を回避する<変わり身の術>という忍術だ。

 名前と効果くらいは知っていたが、実際に生で見ると滅茶苦茶格好いい。

 中二病に侵されていない俺でさえ、残像だとか言いたくなってしまう。


「乱華、それ滅茶苦茶格好いいな!」

「感心してないで早く攻撃するっすよ」


 大した危険もなく一体目を倒した俺たちは、すぐさま次の獲物を連れ込み討伐にかかる。特定の時間内に継続的に魔物を狩ることで、経験値に一定のボーナスが得られるからだ。多人数パーティーを組む醍醐味のような要素で、これを積み重ねることで大量の経験値を得られる。

 次から次へと標的であるオークを倒していく。

 ソロでは決して味わえない爽快感だった。Lv10以降は経験値をもらえる魔物を倒すだけで精一杯のため、こういう数をこなす乱獲のような戦闘は縁遠かったのである。


 途中から俺は釣り役を志願した。

 どんなことにも挑戦して、早く慣れておきたいからな。

 職業特性<マルチウェポン>のおかげで、投擲武器も実用レベルで使いこなせる。

 乱華から手裏剣をトレードしてもらった俺は早速オークを釣りに向かう。

 見晴らしのいい地形のため出会い頭に獣人と鉢合わせることもない。

 初心者の俺でも充分に釣り役をこなせた。


 ここで忍者(くノ一を含む)という職業について触れておこう。

 くノ一の代名詞と言えば、触媒を使用した忍術である。

 魔物の命中率を下げる術、麻痺させて行動不能にする術、まるで支援系魔術士並みの幅広さだ。もちろん遁術と呼ばれる攻撃系忍術もあるのだが、こちらは特殊な状況下でもない限り、くノ一の職業特性<二刀流>の削り能力に及ばない。


 しかしくノ一の性能は、これだけではなかった。

 素の回避率が異常に高いのである。まさに「当たらなければどうということはない」を地でいくような性能だ。しかも直撃した場合は<変わり身の術>が発動するという二段構えのため、魔物の特殊技などで忍術の再詠唱可能時間(リキャストタイム)が間に合わない場合を除けば、ほとんどHPバーを減らすことなく戦闘を繰り返せるのだった。


 二人パーティーなので通常パーティーより敵が格下であることは間違いない。

 とはいえオークの攻撃を紙一重で回避している光景は圧巻だった。

 しかも攻撃を食らった際も、変わり身の術が発動し、本体はダメージを受けない。

 忍術が揃えば傭兵募集に乗れるのも、この万能っぷりを見れば納得できる。


「連携行くっすよ」

「おう」


 乱華の二刀流三連攻撃<烈風>の直後に、俺は重複数回攻撃<ナイトメア>を放つ。

 黄緑色の風を黒煙が包み込む。もちろん大技を連続で決めることには意義があった。

 短時間に大技を繋げることで、ダメージを底上げできるのだ。

 この連携こそがパーティースキルを求められる要素にほかならない。

 爆発するようなエフェクトが浮かび、オークのHPバーを完全に消失させる。


「もう完璧っすね」

「まあな」


 俺は微笑む少女に肯定の意を示しておく。

 三回目くらいまではタイミングを掴めなかったが、今はもう、合図なしでも連携を繋げられる自信があった。味気ないソロに比べて、戦闘そのものが楽しい。時間を忘れて俺と乱華はオークの群れを駆逐していく。


 どれくらい経った頃だろう。

 乱華が小休止を求めてくる。どうやら触媒を整理したいらしい。

 その時間を利用して、俺も生産に取り組む。ギルドで購入した生産工具を使用することで、場所を選ばず生産が行えるようになるのだが、これについては後々語らせてもらうとして、現時点での詳細は割愛させてもらいたい。


 鞄に流れ込んでいた獣人装備を溶かし、含まれている金属を抽出する作業だ。

 成功率は三割弱しかないし、高級品を得られる保証もない。そのため素材を競売で購入すると、非常に黒字を出し難い生産となる。しかし素材を現地調達する素敵生産なら、スクラッチカードを削る感覚で楽しめた。


「それって生産というより分解っすよね?」


 生産過程を眺めていた少女に疑問符を投げかけられる。

 実際その通りなので、反論の余地もない。


「まあ……言われてみるとそうかもしれないな」

「なにか高級そうなものでも取れたっすか?」

「うーん……競売で捌けそうなのは『スチールインゴット』くらいだな」

「ふーん。こっちは準備完了っすけど……しばらく待ったほうがいいっすか?」

「いや、これは暇潰しだからな。すぐに狩りを再開しよう」


 縦横無尽にオークを蹴散らすため、魔物の再湧出(リポップ)が間に合わなくなる。

 そのためベスタブルグ原野を駆け巡りながらのレベリングになった。

 これは一般的なパーティーでは考えられない戦法で、通常なら安全地帯に魔物を引き込んで倒すことになる。なぜなら後衛のマジックポイントを回復させる時間が必要になるからだ。MP持ちの職業は座ることも仕事に含まれるため、移動しながらの乱獲は、結果として効率を悪化させてしまうのである。


 しかしMPを持たない俺と乱華は、その制約に縛られることはない。

 即ち一戦における最大経験値増加よりも、回転速度を重視する乱獲向けと言える。

 この日は時間の許す限りパーティーに取り組むことにした。

 久々に苦痛を伴わないレベリングを夜遅くまで楽しむ。


 パーティを解散してからは、いつもの流れ作業の始まりだ。

 落札された商品の金額を受け取り、新たに眼鏡の素材と消耗品を買う。

 競売に立ち寄ったあと、露店を諦めて部屋へ戻る。

 一日中狩りをしていたので、ぐったりと寝台へ倒れ込む。

 寝台に寝転がっていると、乱華の言葉が脳裏に蘇る。


「どの武器をメインにするかは、早く決めたほうがいいっすよ」


 換装士の職業特性<マルチウェポン>によって、現在は格闘スキルに依存しているが、今後も使い続ける予定がないなら深刻な問題だ。いろいろと武器を変更して戦うことは便利だが、今のような戦術では、やがてレベルにスキルが追い付かなくなるだろう。


 適当に格闘武器を織り込むことも考えたが、どうにも場当たり的だし、なにより中途半端が実を結ぶことはないからな。やはり乱華の助言に従って、弓か銃にすべきだろうか? せっかく資金に余裕があるのだから、どうせなら他者と差別化を図りたい。


 ぼんやりとした思考で俺は一日の出来事を振り返る。

 二人パーティーで切実に感じたことは、回復手段と支援系魔術の有無だった。

 治癒や強化を行えるようになれば、魔物の殲滅速度は確実に向上する。

 単純な攻撃力より補助機能を充実させたいんだよな。

 明日の朝一、競売で調べてみよう。そう決めて俺は瞳を閉じた。



 十月二十日、朝、神都イージス。

 競売を眺めながら前日の思考を纏める。

 そんなことをしていると、理に適う武器を発見した。


 各種クロスボウである。

 弦を引き絞って固定し、そこにボルトを設置、そして発射する装置だ。

 引き金を絞ることで固定された弦が戻り、ボルトが飛んでいく仕組みになっている。

 腕力による弦を引いた状態での保持が必要ないため、より小さな力で大きな威力を得ることができるのだ。ボルトに様々な追加効果が付与されているため、いろいろと準備しておくことで、忍術にない弱体や危険回避に役立ちそうである。


 もう一つ気になったのは、魔弾銃と呼ばれる代物だ。

 これは魔術を詰め込んだ弾丸を撃ち出す大口径の銃である。

 こちらは魔術と同等の効果を見込めるため、割高であることに目を瞑れば、戦術の幅が広がることは間違いないだろう。特に治癒系魔術を詰め込んだ魔弾は、各種ポーションに比べて、コストパフォーマンスに優れている。


 クロスボウも魔弾銃も射撃スキルのため、状況に応じて使い分けていれば、そのうち格闘スキルを超えてくれるだろう。俺はレベルに見合ったクロスボウと魔弾銃を購入しておく。それから乱華の待つギルド組合へ向かった。

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