【ガチ攻略】ダンジョン配信・現代ファンタジーRTA【姉END】
時代は1億総配信者。
その夜、男の最速攻略が
世界トップシェアの動画サイトで配信された。
額には大きな傷跡。
口は真一文字。
スタート地点に立つ男の映像から、配信は始まった。
稲穂が風で揺れるたびに、日中の茹だるような暑さを含んだ藻の匂いが、不快な湿り気とともに運ばれてくる。
――気持ち悪い。
この地で生まれて何年経とうが、男はその匂いが嫌いだった。
:名無し
きたああああああ
:名無し
これ、例の『傷跡』の枠?
:名無し
待機人数10万超えてて草
:名無し
今日も素手で草
:名無し
初見です。挨拶もないとか……怖いんだけど、この人
この日も、男は網膜に映る10万のファンたちのコメントに溜め息をついた。
最新鋭のドローンカメラが闇夜に煌めいた。
周囲に蠢く異形たちの嘶きを鮮明に拾えても、
男の内面までは捉えきれなかった。
すっかり変わってしまったこの世界も、男は大嫌いだった。
男が好きなのは、血を分けた実の姉だけ。
目指すは廃校の屋上。
バグなし攻略によるRTAで世界一位を取れれば、
姉を助け出すことができる。
スタート地点はバス停。
当然だが廃線。
:名無し
映像切り替わったな。
:名無し
待機
:名無し
スタートに注目
:名無し
グッバイ、定点カメラ
:名無し
どうせまたチートだろ?
【計測開始】
爆発音が田園地帯を襲った。
その瞬間、定点カメラは吹き飛び、男は1秒で160m超の移動をしていた。
追走するドローンは火花を上げながら、男の背中を辛うじて収めていた。
:太郎
すごいなぁ、何回見ても。ねぇ、ガミさん?
:ガミさん
…………
:名無し
太郎もガミさんも、よう見とる
:名無し
いつもいつもコメントのタイミング、どうやって合わせてんだよw
:名無し
ある意味チート
一歩踏みしめるたび、水田にクレーターが生み出されてゆく。
さながら隕石の集団落下のようだった。
トップスピードに到達する前に、男は校門前でピタリと止まった。
背後から遅れてきた衝撃波と土砂が、
フィールドとダンジョンを区切っていた鋼鉄の柵を粉砕する。
:名無し
開☆門
:太郎
あああぁぁぁ……畑がぁぁぁ……
:ガミさん
…………
:名無し
タイム出たか!?
:名無し
大幅更新。イカれてらっしゃる
【TIME 00:00:07:02】
身を屈め、ダメージを最小限に抑えていた男は立ち上がり、目の前を見据えた。
立ちはだかる最初の関門は、身の丈八尺に迫る大女。
校庭の只中にあるその異形は、真っ白なドレスを風にたなびかせていた。
:泉州の虎
とりあえず殴れぇぇぇ!!!!
:名無し
虎姫キタァァァ!!
:名無し
姫様キタァァァ!!
:名無し
翁は?
:泉州の虎
うっさいわ、ボケェェェ!!!!
不釣り合いな高い音が響いた。
男が用いたのは地面に落ちる小石。
指先で弾かれた小石は
異形の膝を正確に射抜いた。
生体機能の破壊に成功した男は、
安全に異形の横を抜けていった。
:太郎
ワオ、ワーオ!
:ガミさん
…………
:泉州の虎
殴れや、スカァァァァァ!!!!
:泉州の虎
ボケカスボケカスボケカスボケカスボケカス!!!!
:名無し
荒らしで草
【TIME 00:00:11:29】
――校舎殴れ。
熱心な荒らしのコメントに男は思わず笑い、ロスを生み出した。
世界も捨てたものではない。
そう思いながら、男は熱いものを胸に屋上を見上げた。
男の目には地上から屋上までまっすぐ伸びるパイプが映った。
「……お望みどおりに?」
男は校舎に設置されていたパイプをバリバリと剥がし、その手に握りしめた。
:ガミさん
声、めっちゃカッコいい……
:太郎
ガミさん!?
:泉州の虎
それやぁぁぁ!!!!
:名無し
今、喋ったよな!? 初めてじゃね!?
:名無し
【速報】スカーの声、初出し
校舎の破壊は計画になかった。
タイムは大幅更新を保ったまま。
男がそうしたのは余裕からではなく、
さらなる更新が狙えるという確信によるものだった。
横、一閃――。
その一撃はコメント欄ですら静止した。
世界で動いていたのは、計測用のタイマーだけであった。
白濁とした煙が舞い上がる中、男は最終目標、
このダンジョンを支配する最後のモンスターと相対した。
「……遅い」
「これでも、世界一位だぜ?」
数年ぶりの対面を果たした姉弟は抱擁を交わした。
計測終了。
【TIME 00:00:13:55】




