0-3 名探偵登場なの? ~レディは注目の的~
本編に入る前に、もう一つのお話しを・・・
『赤ずきんちゃん』は、どんな性格の女の子だったのかを考えていました。
森の中で “オオカミ” から突然、「赤ずきんちゃん、こんちは。」と話し掛けられても動じません。
床に寝ているおばあさんを見て、「あら、おばあさん、なんて大きなお耳。」?
きっと、毛むくじゃらの耳を見て言ったのでは・・・と、
さらに、「あら、おばあさん、なんて大きなおてて。」?
きっと、毛むくじゃらで指の見えない棒の様な手を見て言ったのでは・・・。
そこで思いました。
きっと赤ずきんちゃんは胆の据わった、何にも動じない子なのか・・・
よっぽど、ボ~~~としていて、何も感じない子なのか・・・・
私は前者だと考え、このストーリーでは、そんな女の子が描ければいいなと思って書きました。
むかし、むかし、赤いずきんのシャルマントと言う女の子が、お友達の女の子と森の近くにある広場で遊んでいました。
「シャルちゃん、なにしているの?」
道端にしゃがみ込んでいるシャルマントの後ろから、友達の“ライツェント”が話し掛けます。
「今ね、アリの通り道に石を置いているの。」
「アリ?」
ライツェントがシャルマントの肩越しに覗き込むと、道に沿って生えている草の根元をアリが一列になって歩いていました。でも、そのアリの列はシャルマントが置いたいくつもの石を邪魔そうに避けながら右に左にクネクネと蛇行しています。
「シャルちゃん、どうしてアリさん達の邪魔をするの?」
「コイツ等ね、私を見ては『チビ』『チビ』『チビ』って言いながら歩いて行くからよ。」
「? ? ?」
「どちらが上なのかをちゃんと教えないとね。フフッ。」
「シャル・・ちゃん・・・・・。」
シャルマントとライツェントは広場で遊んだ後、家に帰ろうと手を繋いで歩いています。
すると突然ライツェントが叫びました。
「あれっ? 無いっ! どこどこ?」
ライツェントは急に立ち止まると、左手を頭に乗せたままクルクルと体を回して地面を見回します。
「どうしたの?」
「お気に入りの髪飾り、落としちゃったの。」
「ほんとだ。ライツちゃんのコーンブルーム(矢車菊)の髪飾りが無い。じゃあ、一緒に探そうね。」
二人は来た道を広場へと戻りながら落とした髪飾りを探しています。
ライツェントは首を左右に振りながら道の何処かに落ちていないかと思い、それを見逃さないようにとゆっくりと歩いていますが、シャルマントは道の端にしゃがみ込み、両手をずきんの上に乗せ、掌を耳の様に広げ、目を閉じてじっとしています。
しばらくすると、
「ライツちゃん、こっちこっち。」
シャルマントは急に立ち上がって少し先の草むらの中を覗き込みました。
「有ったよ。」
「え~~~! 本当?」
ライツェントが急いで駆け寄って来ます。シャルマントは草むらの中からコーンブルームの髪飾りを拾い上げてライツェントに渡しました。すると何処からともなく聞こえる例の音、
ピコッ!
シャルマントにだけ聞こえる音。そしてシャルマントはそっと赤いずきんの中に手を差し込んで何かをさわさわと触ります。
「すご~~い。こんなに早く見つけるなんて、まるで名探偵さんみたい。」
「名探偵? ま~、なんて素敵な言葉なの。」
「でも、どうやって見つけたの?」
「フフッ、アリ達の話を聞いちゃったの。」
「アリ? 話?」
「そう。名探偵なら噂話だって聞き漏らさないの。それでね、アリ達が珍しい花を見つけたって、でね、近寄ったら蜜も無い作り物の花でガッカリしたって言ってたの。」
「アリさんの言葉、分かるの?」
「名探偵には解っちゃうのよね~。」
「凄いねシャルちゃん。」
「ねえライツちゃん、もう一回言って“名探偵さん”って。」
二人は笑顔を交わしながら、見つかった髪飾りを大切に持ったライツェントと名探偵のシャルマントは手を繋いで家へと帰って行きました。
また別の日の事です。
シャルマントが通っている学校で、
「あれっ、俺の筆箱が無いっ!」
同級生の男の子クルトが叫びます。
「昨日見せてくれた新しい筆箱?」
隣の席のライツェントが聞き返しました。
「そう、黄色い皮のやつ。」
「だったら任せて、直ぐに見つけてあげるから。」
「本当か?」
「任せなさい。」
ライツェントは自慢気に胸を張って立ち上がり、
「では、名探偵のシャルマント様! こちらへ。」
とシャルマントに向かって手を伸ばしました。皆もその手の先に居るシャルマントに視線を集めます。
「は?」
恥ずかしそうにシャルマントは振り向き、
「な、なに?」
と呟くと、ライツェントは目をキラキラさせうんうんと頷き、再び手を差し出して呼びます。
「さあ、名探偵シャルマント様。 こちらへ。」
シャルマントははじめ恥ずかしそうな仕草でしたが、諦めた様にピンと背筋を伸ばし、
「うぉっほん、では。」
と言って立ち上がり、ゆっくりと二人の所へと近寄って行きます。それを教室の皆が固唾をのんで見守って居ました。
「名探偵? こんな赤チビのシャルが?」
いつもシャルマントをいじめている大きくて赤髪の男の子デアーグが小さな声で言います。
「そうですよね。」「そうだよ。あんな奴が名探偵なもんか。」
取り巻きの男の子達も一緒になって囁きました。すると、シャルマントは急に鋭い視線をデアーグに向けると、彼の元へとツカツカと寄ってきます。いつもなら逃げてしまうのに、今日は上目遣いで、何だか少しにやけた微笑みを浮かべ、デアーグへと近寄って行くのです。そして彼の所へ来ると、シャルマントは背伸びをしてデアーグの耳に顔を近づけて囁きます。
「私知ってるの。一昨日、木にぶつかって頭にタンコブできちゃったんでしょ。それに痛くって、涙も流しちゃったでしょ。フフッ」
デアーグが驚きながらも小声で聞き返します。
「ど、どうしてそれを・・・。」
「良かったわね~、赤髪で。タンコブの赤い腫れが隠れるものね~。」
今度は背伸びをせず、上目遣いでニヤついて言いました。
「泣いてなんかいないやい。」
デアーグが小声で返します。さらにシャルマントは、
「フフッ、じゃあ、この前道端で踏んだウンコ、あれね、『きつね』のなの。フフッ。」
っと、上目遣いのまま小声で言うと、
「きつねのだったか~、って、何でそれを・・・。」
とデアーグが大きな声を出してしまいました。
「きつね?」
「デアーグ、きつねってなんだ?」
取り巻きの男の子達が不思議そうに聞き返します。
「い いや、何でもない。」
デアーグは驚きの表情をシャルマントに向けながら答えていました。
シャルマントは勝ち誇ったような視線をデアーグに向けながら、ライツェントの所へと歩きだします。そして、クルトの前に来て、腕を組んで考えます。
「お前に解るのかよ。」
クルトが強い口調で言い放つと、“しっ”っとそれをライツェントが静止させます。
シャルマントは考え続けます。
(クルトは今ここに来たばかり。)
(コイツはおちゃらけで、いつもはしゃいでいるチョロいやつ。)
(そして、だらしない。)
(ほら、その証拠に髪の毛が今日もボサボサだ。たまにチャックも開いているしね。)
(と、言う事は・・・、ここに来るまでの間ね。)
(きっと散歩に出掛ける前の犬の様に跳ね回ってカバンから落としたのね。フフッ。)
じっと考えているシャルマントが急に悪そうな微笑みを浮かべたのをクラスの全員が見ていた。
(コイツの家はあっちの方だったよね。)
その方向を見ながら、窓へと進み出すシャル。それを皆が目で追っています。
窓にたどり着くと、シャルマントは赤いずきんの上に両手を乗せ、掌を耳の様に立て目を閉じました。
皆はそれをじっと見つめています。
シャルマントは耳の様にして向けている方に向かって小さな声で呪文を唱えます。
『キケキケ・・・・・・・・・・・・・、 さあカラスさん。』
『キケキケ・・・・・・・・・・・・・、 さあアリさん。』
それはあっという間でした。
「見つけたわ。アインズ・パン屋さんの花壇の中よ。」
「おぉ~~~~」 「ウソに決まってるだろ」
「どうして分かるんだ~~~」 「ほんとうなのか~~」
「アイツなら分かるのかも」 「クルト、行って来いよ」
教室の中は皆の言葉で溢れています。
「俺、行って来る。」
クルトはそう言って飛び出していきました。
ピコッ!
シャルマントにだけ聞こえる音。シャルマントはそっと赤いずきんの中に手を差し込んで何かをさわさわと触りながら思います。
(ふふ~~ん、無事に見つけられたようね。)
しばらくして、
ハァハァハァ
息を切らしながらクルトが走って来るのが見えます。その手には黄色い皮のペンケースが握られていました。全員が窓に集まってクルトを待っていると、学校に着いたクルトはペンケースを高々と持ち上げ、
「有ったぞ~~~!」
と叫んだのです。
シャルマントは心の中で叫びました。
(やったー! これで、私は名探偵ね!)
周りでは一斉に声が響きます。
「おお~~~」 「本当に有ったんだ~~」 「すご~~い」
「シャルちゃん、すご~~い」 「名探偵だ!」 「名探偵のシャルだ!」
教室は大騒ぎ。シャルマントは両手を赤いずきんの上に、まるで耳を押さえ付けるかのように乗せ強く目を閉じて思っています。
(私への称賛は嬉しいけれど、レディに対してこの声の大きさはどうなのかしら・・。)
次回から、いよいよ本編になります。
長い前置きで申し訳ありませんでした。




