18 間に合うの? ~レディは村も駆け抜けるの~
むかし、むかし、あるところに、シャルマントと言う女の子がオオカミの背に跨り、森の中の一本道を物凄い速さで駆け抜けていました。
走り出した時はそのあまりの速さに振り落とされないかとの怖さでザバンの毛をしっかりと握り、飛ぶように流れていく景色に怯え目をつぶって固まっていたシャルマントも、柔らかく、そして良い香りがするフサフサの毛に顔を埋め包まれていると、いつしか強張った顔も緩み、すぐに深い眠りへと落ちていました。
時はあっという間に過ぎ。
ザバンは物凄い速さで森の入り口へとやって来ていました。
シャルマントはザバンの背中で深い眠りに落ちたままです。
「シャル様、・・・シャル様。 着きましたよ。」
ザバンの声にハッと起きたシャルマントはすぐさま地面に降り立ちます。ザバンの走る速さでいつの間にか赤いずきんは覆っていた頭を離れ背に垂れ下がり、シャルマントへの呪いのようなカチューシャの小さな耳がピンっと立っているのが見えます。その少し寝ぼけた頭で自分が今、何処にいるのかを確認するようにザバンの鼻先へとつつっと進んで立つと目をキリッとした感じで見開き森の入り口から家並みを臨みました。
既に日は落ち、村は真っ暗な夜になる前の薄暗い夕暮れに包まれています。
そんな薄暗い中で、フサフサのオオカミの前に立つシャルマントはあたかも有名なジ〇リ映画の『も○○け姫』の1シーンのようです。違うことといえば、映画ではも○○け姫の口の周りには赤い血が付いているのですが、シャルマントの口の周り光るそれは透明で、半開きで寝ていた時に口から出てたものだということです。シャルマントはその口の周りに付いた液体を、これもまた映画と同じ様に鋭い視線はそのままに、左手の甲で拭うとそれを振り払いました。
しばらく眠っていた思考も起き、自分の今いる位置が確認できると、
「ザバン、このままライツちゃんの家まで私を乗せて行って。少しでも早く届けたいの。」
とザバンに言い、再びその背に飛び乗ります。
「よっしゃー! 行くぜー。 シャル様。」
シャルマントはザバンの背に乗ると、今度は眠りに落ちることなくライツちゃんの家への道を指示しながら家が建ち並ぶ通りを駆け抜けていきます。
もう夕暮れ時、こんな田舎ではすでに家の外を歩く住人は居らず、オオカミが通りを走っていても誰にも気づかれる事はありませんでした。
さすがにオオカミの走りです。シャルマントが走るよりもかなり早くにライツちゃんの家にまでやって来ました。
コンッコンッ! コンッコンッ! コンッコンッコンッコンッ!
激しくドアを叩く音。
ライツちゃんのお母さんが何事かと急いで玄関のドアを開けると、そこには見た事も無い魔物が居ました。全身は灰色の艶やかな毛で覆われていますが、顔は黄色の花で覆われ、そこに開いている二つの穴からは鋭い目が今にも飛び掛かって襲おうとしているかのようにこちらを見ているではありませんか。
その今まで見た事も無い生き物にライツちゃんのお母さんは悲鳴を上げます。
「ヒイェ~~~~!」
すると横から赤いずきんを被った少女が現れました。
「おばさん、 おばさん、私、シャルマントよ。」
「ヒイェ~~~~! シャルちゃん? シャルちゃん、早く入って! バケモノに食われちゃうから。」
ライツちゃんのお母さんはシャルマントの腕を掴むと家の中に引き込み、急いでドアを閉めます。
「違うのおばさま。」
シャルマントは閉ざされた玄関ドアを開けようとしますがライツちゃんのお母さんは激しくそれを止めに入ります。
「シャルちゃん、ダメよダメダメ。外には恐ろしい魔物が居るのよ。」
「大丈夫、落ち着いておばさま。」
「いいえ、これは落ち着いてなんて居られないわ。何とかして村の猟師に伝えなきゃ。」
「おばさま、落ち着いて、あれは単なるオオカミで、私の相棒よ。」
「オ、 オ、 オオカミ? オオカミがやって来たのかい? 大変だ、大変だ。」
「おばさま、落ち着いて。オオカミだけど襲わないの。」
「シャルちゃん、いい、オオカミは人を襲うものなのよ。あなたはまだ子供で知らないのかもしれないけど。」
「知っているわ、でも襲わないの。あのオオカミは私の相棒なの。」
「相棒? 襲わない? シャルちゃん、襲われてからではもう遅いの。手遅れになっちゃうのよ。」
そんなやり取りをしばらく続け、
「おばさま、外に居るオオカミはザバンって言うのよ。私が名前を付けたの。」
「ザバン? 名前を付けた?」
「そうよ、とても喜んでいるわ。」
ライツちゃんのお母さんも落ち着いて来たのか、外にまだオオカミが居るのかを確認するために玄関ドアを少しだけ開け外を覗き込むと、そこにはお座りをしてシッポを振っている変な生き物がいました。
「シャルちゃん、オオカミって言うけどあの顔は一体何だい?」
「そう、それよおばさま、ライツちゃんの病に効くお花を摘んで来たの。」
「え? ライツの病?」
「そう、病を治すお薬になる花なの。」
「ライツの病気は村の長老様にだって解らなかったのよ。」
「ライツちゃんの病は『赤ぽっちボンボン』って言うの。」
「赤ぽっち・・・・、シャルちゃん、そんなふざけた名前の病気、聞いた事無いわよ。」
(うん、私もそう思うよ、本当に。こんなふざけた病名にするからややこしくなるんじゃない。魔女といい、森の賢者といい・・・まったく。)
シャルマントは心の中でそう呟きながら、
「でも、森の賢者様がそう名付けたらしいの。」
「森の賢者様?」
「森の奥深くにいるフクロウよ。」
「???」
「ああ、名前なんてどうでもいいの。あの黄色い花はお薬になるって言ってたの。」
そう言って、強く、真剣なまなざしをライツちゃんのお母さんに向けました。
それから、いくつかの話をして、シャルマントは外に出るとザバンから黄色い花を集めました。花が無くなったザバンはやっぱり怖いオオカミの顔になり、家の中から覗いて見ていたライツちゃんのお母さんはビクっと震えています。
花を集め、シャルマントはザバンにそっと何かを告げると、スッと立ち上がったザバンは暗闇の中へと消えて行きました。
シャルマントは森の賢者様から聞いた事をライツちゃんのお母さんに教え、摘んできた「ハイペリカムの花」を渡すとライツちゃんの家を出て、暗くなった夜道をわが家へと向かって歩き始めました。
(ああ、こんなに遅くなっちゃった。きっとお母さん、怒るだろうな~。)
(でも、ライツちゃんのためだもの、怒られたっていいわ。それより、ライツちゃん、元気になってくれるかな~。)
目まぐるしいほどに色々あった今日一日を振返りながら歩いています。森の賢者様に会った事、妖精の泉に行った事、底が見えない泉を覗き込んだ事、そのどの場面にも相棒のザバンの姿が浮かび上がって来ました。
(ありがとう、ザバン。)
シャルマントは心の中でザバンに感謝の言葉を言います。
その時です、夜空に浮かぶ月に照らされてもなお暗い影となっている家の脇から視線を感じ、その方向に目をやると鋭く光る二つの眼がこちらを見ていました。
ひぃえ~~~~
シャルマントが怯えていると、その光る眼はゆっくりとシャルマントに近づいて来ます。
やがて月明りに照らされて、その光る眼を持つモノの正体が浮かび上がると、それはザバンでした。
「ザバン・・・」
「ああ、シャル様。」
「どうしたの? 森に帰ったんじゃないの?」
「ああ、それでも、シャル様がこの暗闇で危なくないかなと思ってさ。」
「ありがとう、ザバン。」
シャルマントはザバンに近づき、そのフサフサの首に抱き着きました。
「ザバン、今日は本当にありがとう。ライツちゃんにあの花を渡せたのは貴方のお陰よ。」
「・・・・・。」
ザバンも目を閉じて首を下げ、シャルマントが抱き着いているのを嬉しそうにしています。
しばらくして、シャルマントはザバンの背に手を乗せ、一緒にシャルマントの家へと歩き出しました。
歩きながらシャルマントとザバンは今日の事を振返り、楽しくお話しをしています。
シャルマントは、
(帰ったらネズミさん達にもお名前を付けようかしら、そうしたらザバンのように頭に手を乗せなくてお話しができるといいな。)
と思っていました。




