10 また魔女? ~レディのお出掛けには危険がいっぱい~
動物さん達とお話しができるように、オオカミとも話しができるようになったシャルマント、さてさて、おばあさまの家で何が起きるのでしょうか。
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんを被ったシャルマントと言う女の子がおばあさまの家に向って森の中に入って行きました。
森に入るまでは堂々としていたシャルマントでしたが、一歩森に入るとすぐさま背中を丸め、周囲の危険を察知しようと鋭い目つきで辺りをきょろきょろとしはじめます。
(魔女・・・、魔女は・・・・。)
そう心の中でブツブツと言いながら、一歩ずつ森の奥へと入って行きます。
まだ森に入ってほど近い所です。森の外からの陽射しに、一本の太い木の影から何か、背が曲がった細くて、ボサボサの毛だと判る影が動きました。シャルマントは驚き、立ち止まります。
(ひぇぇぇぇぇっ・・、魔女?)
身体をこわばらせ、動き出した影をじっと見ていました。
やがて、影だったものが本当の姿を現します。
それは、痩せ細って、毛並みも悪く、大きな口と牙を持ち、その並んだ鋭い歯の間から垂れた舌をつたって涎が落ちているオオカミでした。痩せ細ってはいましたが、その眼光はとても鋭く、不気味に輝いています。
木の影から出てきたモノに最初は驚いていたシャルマントも、その出てきたモノが魔女でなかったのでホッとし、だからかもしれませんが、オオカミにそれほどの怖さを感じませんでした。
その目の前のオオカミはウ~~ウウ~~~と唸っています。
シャルマントはそっと赤いずきんの上に、カゴを持っていない空いている片方の手を立て、例の呪文を小さく、オオカミには聞こえないように言いました。
「キケキケピコピコ キクキクピョンピョン
キイタラズンズン ハヨノビロ、さあオオカミさん。」
するとどうでしょう、さっきまでウ~~ウ~~としか聞こえなかったオオカミの唸り声が言葉となって聞こえて来るではありませんか。いつもならその唸り声にビクビクしてしまうのに、言葉が解るだけでシャルマントは安心し、少し可笑しくもなりました。
「ウ~~ ウ~~
(オイコラ、チビすけ。)」
その言葉に心の中で微笑んでいた気持ちが一気に怒りへと変わり、シャルマントが答えます。
「はぁ? そうです、チビですが何か?」
「ウ? ウォウォ? ヲヲヲォ?
(お、お前、俺の言葉が解るのか?)」
オオカミはそれは驚き、ややビビった感じで答えます。
「はい、私、貴方の言葉解っちゃうんです。」
怒っているような感じで答え、続けざまに、
「それで? チビですが、な~に~か~?」
そう言ってオオカミを軽蔑した眼差しで見下ろしました。シャルマントは子供とはいえ、2足歩行の人間なので四つん這いのオオカミよりかは少し高い所に目線があり、当然、見下ろす格好となっているのです。
オオカミは少し頭を下げる様に引くと、
「ああ、済まなんだ、なあ、お前は何処に行くんだ?」
「おばあさまの家よ。」
「そ、それよりさ、お前、俺の事が怖くないのか? オレ、オオカミだぞ。」
「そうね、以前の私だったら怖がっていたのかもね。でも今になってはこの森の中じゃ普通の部類ね。私、大きな試練を潜り抜けたから。あの魔女たちに比べれば大した事無いわ。」
「ま、魔女? この森に? お前、魔女に会ったのか?」
「フン、そうなのヨ。この森で二人の魔女に会ったの。」
「ふ、二人もか。」
「そ、 それで呪いの様なのを掛けられて、あなたと話しができるのよ。あ~~~、忌々しいわ。」
「そ、 そっか。 それで、おばあさまの家って遠いのか?」
「そんなに遠くないわよ。村の大銀杏の高い木の20本分もないのだから。それに、大きな樫の木が3本あるからすぐに分かるわ。」
村の中心にあるシンボルとも言うべき大銀杏は、その高さが50mはある、本当に背の高い木です。
そんな話しをしながらオオカミは、
(そうだな、先ずはそのおばぁを喰ってから、デザートに柔らかそうなこのナマイキな娘を喰らってやろう。)
と考え、
「お、俺はもう行くな。気を付けて行けよ。」
そうシャルマントに言うと、道を逸れ、近くの藪の中へと入って行きました。
シャルマントは一人になると、再び周囲に警戒の姿勢をとり、何処からかいきなり魔女が現れでもしないかとおどおどしながら、そろりそろりと歩いて行きました。
いつもよりどれほど多くの時間が掛かっていたのでしょうか。3本の樫の木のある家にやっとの思いで辿り着きました。
「こんにちは、おばあさま。」
「・・・・・・。」
明るい声のシャルマントに、おばあさんからの返事が有りません。
シャルマントはそぉーとおばあさんの寝室へと入って行きます。
「おばあさま、ご機嫌はどう? まだお身体の調子が良くないの? それとも先日、来なかったから怒っているの?」
「・・・・ぐぅぅ ぐぅ ・・。」
カーテンを閉めた部屋は薄暗く、どこか不気味でした。その暗い部屋の中にある膨らんだベッドからはおばあさんの返事が無いどころか、どこか唸り声に似たような声が聞こえてきました。
シャルマントは最初、少し怯え驚きましたが、ふと何かを思いだし、おばあさんの寝ているベッドを覗き込みます。そのおばあさんはベッドに深く潜り、布団を顔の半分まで掛け、ナイトキャップを深く被ってシャルマントの居る入り口に背を向けて眠っているようでした。
シャルマントはおばあさんの顔色をうかがうため、もっとよく見ようとしてベッドの反対側に行こうとすると、
「誰だい?」
しわがれた声がしてシャルマントは驚き再び寝室の入り口まで戻ります。
「シャルマントよ、おばあさま。 お菓子と酒を持って来たの。」
「おやおや、シャル・・ン・・・かい。ゴホっゴホっ。 それはありがとう。 大変だったね。」
「平気よ、・・でも、しばらく来られなくてごめんなさいね。」
「いいわよ、よく来てくれたわね。」
相変わらずおばあさんはシャルマントに背をむけたまま話します。
「おばあさま、やっぱりお身体の具合が悪いのね。そんなしわがれた声。」
「そ、そうなんだよ。」
「おばあさま、こちらを向いて。」
「い、いや、ダメ・・かな? ゲホっ ゲホっ お前にうつるといけないからね。」
「私なら大丈夫よ。元気いっぱいだから。だから、ね、お顔を見せて。」
「顔? う~~ん、顔ねー、顔はダメかな?」
「顔はダメ・・なのかな?」
おばあさんの返答に少し笑いそうになったシャルマントは返事を繰り返しました。そうです、シャルマントがおばあさまの寝室に入った時にベッドの布団から何やら毛の束みたいなものの先っぽが見えており、それが森で会ったオオカミに似ていたので、気付かれないように片手を赤いずきんの上に乗せ、例の呪文を唱えていたのです。
少し背伸びをして、おばあさんの背中側からでも顔を見る様な体勢でシャルマントが聞きます。
「お腹が空いているでしょ。」
おばあさんはすぐに返事をします。
「お腹は空いているね。 もう、ペコペコなんだよ。」
「だったらこれを食べて。」
そうシャルマントは言いながらおばあさんに近づいて行きます。
「ゲホっ ゲホっ 来ちゃダメだよ。」
おばあさんはしわがれた声でシャルマントに言いました。
「でも、近くに行かないとお菓子も酒もおばあさまに上げられないわ。」
「ああ、では、そこに置いといておくれ、後で食べるから。」
「そんな事は出来ないわ。おばあさまをベッドから出させるなんて。具合が悪いのでしょ。」
「ゲホっ ゲホっ 大丈夫だよ。」
「そうだ、食べやすいようにお皿に乗せましょうね。私、お台所で乗せてくるわ。それに酒もコップに入れるわね。」
そう言うとシャルマントはおばあさんの寝室を出て行きました。
シャルマントは寝室を出ると、どうしたものかと、何か考えながら台所へと向かいました。




