0-1 赤いずきんは名探偵? ~レディには秘密が付きものなの~
さあ始まります。『赤ずきんちゃん』の本当のストーリーが。
赤ずきんちゃんはどうしてオオカミとお話しが出来たのでしょうか?
おばあさんを丸呑みにしても尚、赤ずきんちゃんまで食べようとしたオオカミはどうしてそんなにお腹が減っていたのでしょうか? 疑問が尽きませんね・・・
むかし、むかし、あるところに、赤いずきんをぜったいに取ろうとしない『シャルマント』という女の子がいました。
シャルマントは今、橋を渡って森へと続く道の途中で、目を閉じ、両手をずきんの上に乗せ耳の様に立ててじっとしています。時折、体の向きを変え、小さく頷いたり首を振ったりしています。
しばらくすると、突然目を開け、
「あっ、これだ!」
そう呟き、足元に居る相棒に向かって、
「ザバン行けっ!」
っと指示を送りました。
シャルマントの相棒で四つ脚のザバンは一気に駆け出します。その大きな口を半開きにし、鋭い牙を剥きだしにして、その中から真っ赤な長い舌を左右に揺らしてはヨダレをまき散らせて走って行きます。その後を離されないようにとシャルマントも必死に駆けて森の方へと向かって行きました。
一本の大きなオークの木の近くまで来ると、先に到着していたザバンが鋭い目つきで回りを警戒しています。シャルマントはその下に広がる藪を、草のトゲに注意しながら掻き分け始めました。
「あった~!」
シャルマントは藪の中から何かを拾い上げ、それを高くかざして叫びます。
ウォオ~~~!
同時に相棒のザバンもおたけびをあげています。
そしてシャルマントはすぐに囁きました。
「教えてくれてありがとうカラスさん。
でもね、お前らには絶対に渡さないんだから。
うっさいんだよお前らは、あっちへ行けっ。」
木の上のカラスを睨み付けると、向きを変え急いで探し物の依頼者であるおじいさんに渡すため、シャルマントは走り出します。その後を相棒のザバンも駆けて行きました。
「おー、これだこれだ、見つけてくれてありがとう。小さな赤いずきんのお嬢さん。」
その時です。
ピコッ!
そんな音がどこからともなく聞こえました。この音は、シャルマントにだけ聞こえる音です。そしてシャルマントはそっと赤いずきんの中に手を差し込んで何かをさわさわと触っていました。
シャルマントはおじいさんが無くしたモノクル(片眼鏡)を藪の中から探し出し渡すと、おじいさんはとても喜んでシャルマントを強く抱きしめ、それを振り解こうとシャルマントは藻掻いています。
(何なのこのジジイ、セクハラで訴えようかしら。)
そう思っていながらも、依頼者であるおじいさんに、
「シャ・・ル ・・・、私の名前は『シャルマント』よ。」
「ありがとう、シャルマントちゃん。 ・・で、そこの怖そうな動物は?」
「これは私の相棒のザバンって言うの。」
抱きしめられて、少し苦しそうにシャルマントが答えます。
「この怖そうなのが君の相棒なのかい? 今にも君を食べてしまいそうなのだが・・。」
やっと解き放たれたシャルマントは不機嫌な眼つきでおじいさんを睨みつけ、ザバンは涎を垂らしながらシャルマントを見ています。
「とっくの昔に食べられそうになったわ、当然返り討ちにしたけど。」
そう呟きながらシャルマントは抱きしめられて脱げそうになった赤いずきんを被り直しています。
「『もうしません』って言うから用心棒として、まぁ、相棒として、雇う事にしたの。それに皆は私の事『赤ずきんのシャル』って呼んでるわ。」
「そうかい、ありがとう、赤ずきんのシャルちゃん。」
「子供っぽいから“ちゃん”は付けないで、これでも皆には名探偵って言われてるんだから。」
「そうかいそうかい、名探偵さんは幾つなんだい。」
「7才よ。」
シャルマントはおじいさんに笑顔を向けながら心の中で呟きます。
(レディに年齢を聞くなんて、なんてデリカシーの無い人なのかしら。歳をとるとそうなるって本当ね。あ~ああ~、歳は取りたくないものね、私は決してこんな年寄りにはならないんだから。)
「お礼と言っては何なんだが、お菓子でもいかがですかな? 赤ずきんのシャルマント様。ホッホッホッ。」
「お菓子? まるで子供のお使いね。」
「そうかい? 『メゾン・フォシエ』のビスキュイなんだが・・」
「メゾン・フォシエ? なになに? あの超有名店のじゃない。おじいさんって、もしかしてお金持ち?」
「ホッホッホッ、そんな事無いよ。メゾン・フォシエは私のお店なんだ。」
「ぅえ~~、超お金持ちじゃない。それに、超有名人じゃない。」
シャルマントは軽蔑から尊敬へとその眼差しを変えると同時に心の中で呟きました。(あ~~、このおじいさまと友達になりたいわ~。こんなおじいさまが私のおじいちゃんだったら良かったのに、そう言えば私のおじいちゃんってどんな人だったのかしら。だいぶ前に死んじゃったって聞いてるけど。)
さらに、
(ビスキュイ? う~~ん、ビスケットじゃないんだ。何が違うんだろう、帰ったらお母さんに聞いてみようっと。)
と思っていたら、おじいさんの持っているその袋を直ぐにでも奪い取って、その中のモノを早く食べたくて仕方がなくなってしまいました。
「そうかいそうかい? でも、どうやってこれを見つけたんだい? 大勢の人が三日探しても見つからなかったんだが。」
シャルマントはおじいさんが持っていたビスキュイの袋を奪い取る様な速さで受け取ると、その中から一枚を取り出しかぶりつきます。
(ん~~! 美味しい~~! サクサクじゃない!)
(確かに、いつも食べているビスケットとは違うわね。)
ビスキュイの食感に感動しながらおじいさんからの問い掛けに答えます。
「あ~、それはね・(モグモグ)・、・(モグモグ)・カラスさんに聞いたの。」
「カラス?」
「そ、カラス。でも、やっぱり噂通りに美味しいわ。うん、有名店、侮れない。」
おじいさんの話などどうでもいいような感じで、シャルマントは食べているビスキュイをじっと見ながら答えています。それを相棒のザバンが涎を垂らしながら凝視していると、
「貴方も欲しいの?」
「ウォオ、ウォウォ(欲しい、欲しい、くれ)」
と言うので、勿体なさそうに一枚だけを袋から取り出し、
「いい、ザバン。一口で飲み込まずに、よ~く味わって食べるのよ。」
と言い聞かせています。
「ウォ、ウォ~~(分かったから、早くくれ)」
シャルマントはザバンの涎に注意して銜えさせました。それをおじいさんは楽しそうに見ています。
「ホッホッホッ、相棒くんも美味しいかい、そりゃ良かった。ところで、その~、カラスさんに聞いたってどゆこと?」
・・モグモグ、モグモグ・・
シャルマントは聞かれているにもかかわらず、ビスキュイを食べ終わるとその余韻を味わっているかの様にゆっくりと、しかも、残っているビスキュイの袋の口を丁寧にたたみ、大切に持ち変えて答えます。
「カラスはカラスよ。」
「カラス? カラスが教えてくれたのかい?」
シャルマントは眼つきを再び軽蔑へと戻し、
「あのね~、レディの秘密を全て暴こうなんて紳士のやる事じゃないわよ。素敵なレディは幾重にも秘密を纏っているから魅力的なのよ。って、お母さんがいつも言ってるわ。」
「ホッホッホッ、それは済まなんだ。」
「ねぇ、おじいさま、私とお友達になってもらえます?」
「ホッホッホッ、ああいいよ。私の名前はランスだ。」
「じゃあ、ランスおじいさまって呼んでもいい?」
「ああいいとも、私も名探偵である赤ずきんのシャルマントと友達に成りたかったからね。」
「私の事は『シャル』って呼んで、 じゃあ、また遊びに来てもいい?」
「いいとも、その時にはまたビスキュイを準備しておこう。」
「わ~い、今日はなんて良い日なの、こんな素敵なおじいさまとお友達になれるなんて。」
シャルマントはランス爺さんと握手をした後、スカートの裾を少し持ち上げ、レディとしてのお辞儀をしました。
「じゃあランスおじいさま、遅くなるとお母さんが心配するから帰るわね。」
「ああ、今日はありがとう。また遊びにおいで。」
「はい。」
シャルマントは相棒のザバンを引き連れ、通りの角を曲がるまで何度も何度も振り返っておじいさんに手を振り、自分の家へと帰って行きました。
赤ずきんちゃん、ならぬ、赤“い”ずきんちゃんのはじまりです。
赤いずきんちゃんの秘密とは・・・
先ずは『呪いのカチューシャ』編の始まりです。
童話には不思議なことが沢山ありますので、不自然な事、奇想天外な事は気軽に読み飛ばしてください。




