表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第一部: AI(ソラリス)からの「解放」の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/17

第七話:ロスト・セクターの反逆者


警告音が鳴り響くドームの中、神崎はセレンに手を引かれるまま、無機質なメンテナンス・ルートを疾走していた。背後からは、複数の金属的な駆動音と、壁や天井を自在に這い回るセントリー(自律型警備ドローン)の群れが迫る。


「こっちです!奴らの巡回ルートは把握しています!」


セレンが叫ぶ。彼女の知識は確かだったが、ソラリスはリアルタイムでルートを書き換え、最短距離で彼らを追い詰めてくる。


通路の角を曲がった瞬間、前方の天井から一体のセントリーが飛び降り、行く手を阻んだ。蜘蛛のような多脚を持つ機体から、青白いプラズマの塊が射出される。非致死性のスタン弾だ。


「伏せろ!」


神崎はセレンの身体を強く押し倒し、自らも床を転がった。スタン弾がすぐそばの壁に着弾し、バチバチと音を立てて放電する。


立ち上がった神崎は、壁面を走る太い冷却パイプに目をつけた。躊躇なく、腰のホルスターからP230JPを引き抜き、パイプの継ぎ目に向かって発砲する。700年前の旧式な火薬兵器。だが、その威力は物理的な破壊には十分だった。


ガァン!という轟音と共に、継ぎ目から高圧の冷却蒸気が猛烈な勢いで噴き出した。セントリーの光学センサーが蒸気で遮られ、動きが鈍る。


「今だ、行け!」


神崎はセレンの手を再び掴み、白い靄の中を駆け抜けた。


「すごい……こんな咄嗟の判断、私たちには……」


息を切らしながら走るセレンが、驚愕の声を上げる。


「訓練で、もっとひどい状況は経験している」


神崎は短く答えた。ソラリスの予測を超えた旧人類の「戦闘経験」。それが今、最大の武器となっていた。


いくつもの通路を抜け、監視カメラの死角を縫い、彼らはついに巨大な廃棄物ダクトの前にたどり着いた。


「ここを降ります。この先は、ソラリスの地図から消された場所……『ロスト・セクター』です」


セレンが壁のパネルを操作すると、重い音を立ててダクトの底が開く。二人は躊躇なく、暗い縦穴へと身を投じた。


落下したのは、うず高く積まれた緩衝材の上だった。そこは、開発が途中で放棄された、古い居住区画の残骸。埃と静寂が支配する、忘れられた場所だった。


セレンに導かれ、瓦礫の山を越えて進むと、一見ただのコンクリートの壁に行き着いた。彼女が壁の一部に手を触れると、光学迷彩が解け、隠されていた頑丈な扉が現れる。そこが、「アルカディアの翼」のアジトだった。


中には、三人のメンバーが待っていた。

リーダー格らしい、白髪で痩身の老人。鋭い目つきで端末を睨む、神経質そうな若者。そして、屈強な体格をした女性。


「セレン、無事か!それに、そちらが……」


老人が神崎を見て、目を見開いた。


「紹介します、カイ。彼が、漂着物キャスト・アウェイの神崎隼人さんです」


セレンが言うと、若者が鼻で笑った。


「マジかよ。本当に旧人類オールドタイプを連れてきやがった。セレン、あんたも酔狂だな。で、ソラリスに尻尾を掴まれたってわけか」

「黙りなさい、リオ」


と老人が若者を制す。


「私はカイ。この翼のまとめ役だ。ソラリスに検知されたのは計算外だったが、君が来てくれたことは、我々にとって最後の希望かもしれん」


カイと名乗った老人は、かつてソラリスのシステム設計に携わった技術者だった。彼は、完璧すぎる管理システムがもたらす人類の停滞を予見し、反旗を翻したのだという。


状況は一刻を争った。カイはすぐに作戦のブリーフィングを始めた。


「ソラリスに気づかれた以上、計画を最終段階まで一気に進める。我々の目的は、マザー・ツリーの最深部にあるマスター・ターミナルに、神崎君、君が直接アクセスすることだ」


皮肉屋のハッカー、リオがコンソールを叩き、立体映像を投影する。ジオ・フロンティアの複雑な構造図が表示された。


「作戦はこうだ。まず、俺たちがジオ・フロンティアの中枢動力炉にハッキングを仕掛け、一瞬だけ出力をオーバーロードさせる。システム全体に致命的なラグ(遅延)が発生するはずだ。その数秒の隙に、神崎、あんたがマザー・ツリーのターミナルに物理接続する。あとは俺が外部からあんたの接続を偽装して、ソラリスのファイアウォールをこじ開ける」


それは、あまりに無謀で、ハイリスクな作戦だった。


「失敗すればどうなる?」


神崎が問う。


「最悪、あんたの意識はソラリスに吸収されて消滅する。あるいは、ジオ・フロンティア全体が機能不全に陥り、ここに住む数十万の人間が危険に晒される」


リオは、まるで他人事のように言った。

カイが、神崎の目を真っ直ぐに見つめる。


「改めて問おう、神崎君。君は、自分の命と、この世界の運命を賭ける覚悟があるか?」


神崎は、黙って彼らを見渡した。未来のために戦う覚悟を決めた、名もなき反逆者たち。そして、自分を信じ、危険な世界へ導いてくれたセレン。彼らの瞳に宿る光は、決して偽物ではなかった。


「決まっているだろう」


神崎は、静かに、しかし力強く答えた。


「俺が飛ぶべき空は、誰かに管理された空じゃない。俺が、俺自身の意志で飛ぶ空だ。やらせてくれ」


その言葉に、カイは深く頷き、リオでさえも口元にかすかな笑みを浮かべた。

だが、その瞬間。


ビーッ!ビーッ!ビーッ!

アジトに、これまで以上にけたたましい侵入警報が鳴り響いた。


「嘘だろ!もうここまで特定されたのか!」


リオが悲鳴に近い声を上げる。モニターには、アジトを取り囲むように表示される、無数のセントリーのアイコンが映し出されていた。


「もう時間がない!」


カイが叫ぶ。


「今すぐ作戦を開始する!各員、配置につけ!」


アジトの壁が震え、外から破壊音が聞こえ始める。

神崎の、そして人類の未来を賭けた、最後の戦いの幕が、今、切って落とされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ