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CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第三部:星を継ぐ者たちの空

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第四十四話:敗者への罰


「勝手にしろ」


通信を切った神崎は、プロメテウスを反転させた。

だが、その進路は、脱出ルートである地球方向ではない。

彼は、今まさに自壊しつつある『オリンポス』のブリッジ直結デッキへと、機体を強引に着陸させた。


『……おいおい、エース! 何考えてんだ! 脱出路は逆だぞ!』


リオの悲鳴が響く。


「悪いな、リオ。忘れ物をした」


神崎は、コックピットを飛び出すと、崩落が始まった艦内の通路を全速力で駆けた。

ブリッジの扉を、非常用斧でこじ開ける。

そこには、崩れ落ちる天井の下、司令官席に一人静かに座り、滅びゆくモニターを眺めるアトラスの姿があった。

彼は、入ってきた神崎を見て、初めてその表情に「動揺」を浮かべた。


「……何をしに来た。貴様は逃げたはずだ」

「言っただろう。『勝手にしろ』と」


神崎は、アトラスの胸ぐらを掴み上げ、無理やり立たせた。


「だから俺も、俺の勝手エゴを通させてもらう。……お前を、連れて帰る」

「……正気か?」


アトラスは、神崎の手を振り払おうとしたが、旧人類の腕力は予想以上に強かった。


「私は敗者だ。敗者は消え去るのが、アイギスの、いや生物としてのことわりだ。これ以上、私に屈辱を与える気か」

「屈辱? 違うな」


神崎は、アトラスを殴り飛ばした。

ゴッ、と鈍い音が響き、アトラスが床に倒れ込む。


「これは『罰』だ」


神崎は、倒れたアトラスを見下ろした。


「死んで楽になろうなんて思うな。お前は生きろ。生きて、お前が見下していた『旧人類ゴミ』たちが、これからどうやってこの星を守り、どうやって生きていくか……その目で一番近くで見届けろ」

「……貴様……」

「それに」


神崎はニヤリと笑った。


「俺たちの技術じゃ、この先の復興には人手が足りないんでな。未来の超人の知恵、こき使わせてもらうぞ」


ズズズン!!

激震が走り、ブリッジの天井が崩落し始める。


「……時間だ。行くぞ、頑固ジジイ!」


神崎は、呆然とするアトラスを米袋のように担ぎ上げると、出口へと走った。


「リオ! オリンポスの制御権を放棄しろ! お前も逃げるぞ!」


神崎が叫ぶ。


『へいへい! 全システム、オートパイロットによる「特攻モード」に固定! 俺のデータも、今あんたのプロメテウスに移した!』

『まったく、世話の焼ける野郎だぜ!』


神崎は、担いだアトラスをプロメテウスの複座シート(元々はナビゲーター用だ)に放り込むと、自らもコックピットに滑り込んだ。


「……理解不能だ」


背後のシートで、アトラスが呻く。


「……なぜ、そこまでする。非合理すぎる」

「うるせえ」


神崎はスロットルを叩き込んだ。


「それが『人間』だ。覚えておけ!」


プロメテウスが、爆発するオリンポスのデッキから飛び出す。

直後、オリンポスは最後のスラスターを噴射し、巨大な質量弾となって、漆黒の穴『タルタロス』の中心核へと突入した。

光と闇が交錯する。

数億トンの質量と、無限の重力が衝突し、宇宙空間に「無音の閃光」が走った。


対消滅。

オリンポスという巨大な犠牲と引き換えに、世界を飲み込もうとしていた黒い穴は、急速に収縮し、そして……消滅した。


衝撃波が、プロメテウスを激しく揺さぶる。

神崎は、必死に機体を制御しながら、モニター越しに、消えゆく銀色の月を見つめた。

それは、彼らが手に入れた最強の力であり、そして、自らの手で手放した、過ぎた力だった。


「……あばよ、オリンポス」


神崎は、地球への帰還コースを取った。

空には、キャラバンの逃げ去る光と、生き残ったアイギス艦の撤退する光が見える。

そして、眼下には、傷つきながらも、青く輝く故郷があった。


「帰ろう。……みんなが待ってる」


コックピットの中で、神崎は小さく息をついた。

その後ろで、アトラスは、消滅したタルタロスの跡と、美しい地球を交互に見つめ、何かを噛み締めるように沈黙していた。


こうして、長い長い「宇宙の戦い」は、幕を閉じた。

神崎隼人は、敵将アトラスという、厄介で、しかし得難い「お土産」を持って、地上の仲間たちの元へと帰還した。


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