第四十一話:混沌の回廊
「ヒャハハハ! アイギスの旦那、装甲が薄いんじゃねえか!?」
キャラバン艦隊の集中砲火を浴び、アイギスの駆逐艦が次々と爆散していく。
統率された集団行動を得意とするアイギス艦隊にとって、個々が勝手に動き回り、セオリー無視の特攻や騙し討ちを仕掛けてくるキャラバンの戦法は、最も相性の悪い「泥仕合」だった。
その泥沼のド真ん中を、漆黒の機影が疾走する。
『右舷、キャラバンのミサイル群! 左舷、アイギスの迎撃レーザー!』
リオの警告が叫ばれるより早く、神崎は操縦桿を倒していた。
「見えている!」
神崎は、迫り来るミサイルを回避するのではなく、あえてアイギスの戦艦の懐へと誘導した。
ミサイル群がアイギス艦のシールドに着弾し、爆炎が広がる。神崎はその爆炎を「煙幕」にして突っ込み、混乱するアイギス艦のブリッジを至近距離からビーム砲で撃ち抜いた。
「……使えるもんは、ハイエナだろうが何だろうが使う!」
敵同士の攻撃が交差する、最も危険な「死の交差点」。そこだけが、今の神崎にとって唯一の安全地帯だった。
彼は、三つ巴の戦場を、まるで針と糸のように縫い進んでいく。
その様子を、はるか後方、キャラバン艦隊の旗艦から見ていた男――海賊の頭目、ガレオンが口笛を吹いた。
『おいおい、見ろよあの黒い鳥。俺たちが開けた穴を、さらにこじ開けてやがる。……狂ってやがるな』
ガレオンは、ニヤリと笑い、部下に命じた。
『野郎ども! あの黒い鳥の邪魔をするな! 奴がアイギスを引っ掻き回せば回すほど、俺たちの獲物が増える! 援護射撃だ、奴の周りのアイギス艦を狙え!』
ハイエナたちの砲火が、神崎を狙うアイギスの迎撃機を撃ち落とす。
意図した連携ではない。単なる利害の一致。だが、それが神崎の背中を押した。
「……道が、開いた」
戦場の混乱がピークに達した瞬間、神崎の目の前に、ぽっかりと空間が開けた。
その先には、他の艦とは桁違いの大きさを誇る、絶望の巨神――アイギス総旗艦『ネメシス』が鎮座している。
『神崎! シールド艦隊の配置に隙間ができた! 今なら届く!』
セレンの声が響く。
「ああ、届かせる!」
神崎は、感情OSの出力を限界突破まで叩き込んだ。
プロメテウスの背部スラスターが、蒼い光の翼を噴き上げる。
だが、敵もさるものだった。
『ネメシス』の周囲を守る近衛部隊が、神崎の接近を許さない。
そして、ネメシス自身も、ただ座しているだけではなかった。
『高エネルギー反応! ネメシスの艦首です!』
『……嘘だろ、あのサイズで、この乱戦の中で撃つ気か!?』
ネメシスの艦首が割れ、直径数キロメートルにも及ぶ巨大な砲口が、紫色の光を収束させ始めた。
狙いは、神崎ではない。
神崎がいる「空間そのもの」だ。
味方のアイギス艦も、群がるキャラバンも、そして突っ込んでくる神崎もろとも、消し飛ばすつもりだ。
「……味方ごと焼く気か! アトラス以上の外道だな!」
神崎は叫んだが、減速はしない。
引けば、後ろにいるドローン艦隊や、オリンポス、そして地球が射線に入る。
「突っ切るしかねえ!」
『エネルギー充填率120%! 撃ってきます!』
カッ!!!!
宇宙空間が、紫色に染まった。
ネメシスの主砲『神の鉄槌』が放たれた。
それは、光速に近い速度で迫る、回避不可能な破滅の波。
神崎は、迫りくる紫色の壁を見据え、プロメテウスの「時空間推進器」に手をかけた。
「……飛べ、プロメテウス! 空間ごと跳躍して、あの光を追い越せ!」
真正面からの突撃。
ビームの奔流と、時空跳躍の激突。
神崎は、自らの肉体が光に溶けるか、あるいは時空の彼方に散るかの、極限の賭けに出た。




