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CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第三部:星を継ぐ者たちの空

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第三十八話:プロメテウスの拒絶


「ぐっ……があぁぁぁッ!!」


漆黒の宇宙空間。

神崎の絶叫と共に、漆黒の機体『プロメテウス』が、制御不能のきりもみ回転を起こした。


視界が赤く染まる(レッドアウト)。眼球の毛細血管が切れ、全身の血液が逆流するような感覚。

神崎は、失神寸前の意識で緊急停止レバーを叩いた。

機体は、オリンポスの演習空域で、死んだように静止した。


『……おいおい、生きてるかエース』


リオの心配そうな声が届く。


「……最悪だ……」


神崎は、酸素マスクの中で荒い息を吐き出しながら、震える手でバイザーを上げた。コックピット内には、嘔吐感と鉄の味(血)が充満している。


これが、アトラス専用機『プロメテウス』。

アイギスの超人(強化人間)が乗ることを前提に設計されたこの機体には、「慣性制御装置イナーシャル・ダンパー」のリミッターが存在しない。思考した瞬間に機体が動く。その反応速度は、旧人類オールドタイプである神崎の肉体限界を遥かに超えていた。


「……速すぎる。俺が『動け』と念じる前に、機体が動いてやがる」

『アトラスの脳波パターンに最適化されてるからな。あんたの脳が「右へ旋回」という電気信号を発した瞬間の、コンマ001秒の「ためらい(ノイズ)」すら、こいつは「操縦ミス」として拒絶しやがる』


神崎は、悔しげにコンソールを殴りつけた。

最強の剣を手に入れたが、重すぎて振るえない。これでは、来るべき大艦隊との決戦で、ただの鉄屑になる。


***


オリンポスの独房エリア。

強化ガラスの向こうで、アトラスは優雅に本(ジオ・フロンティアから持ち込まれた紙の本だ)を読んでいた。


「……無様だな、クロノ・ダイバー」


アトラスは、顔に隈を作り、疲労困憊で訪れた神崎を一瞥して冷笑した。


「プロメテウスはお前を拒絶したか。当然だ。あれは『進化』した人類のための翼。退化した旧人類が扱える代物ではない」


神崎は、ガラス越しにアトラスを睨みつけた。


「……リミッターの解除コードを教えろ。あの機体の反応速度を、人間に合わせる設定があるはずだ」

「ないな」


アトラスは即答した。


「何故、わざわざ性能を落とす機能が必要なのだ? それこそ非合理だ」


アトラスは本を閉じ、立ち上がった。


「諦めろ。お前のその『肉体』と、迷いや感情に満ちた『脳』では、あの機体とは同調できない。乗れば、次は脳が焼き切れて死ぬだけだ」

「……死ぬのは怖くない」

「ほほう?」

「だが、勝てずに死ぬのは御免だ」


神崎は、踵を返した。アトラスから情報を引き出すのは不可能だ。ならば、別の方法でこじ開けるしかない。

去り際、アトラスが背後で呟いた。


「……火を盗んだ代償は、肝臓をついばまれる永遠の苦痛だ。神話の通りにな」


***


ドックに戻った神崎は、整備中のプロメテウスを見上げ、リオとセレンを呼んだ。


「……リオ。この機体のOSを、全部消せ」

『はあ!? アトラス専用の超高性能戦闘AIだぞ!? 消したらただの鉄の棺桶だ!』

「構わん。アトラスの脳に合わせたAIなんざ、俺には邪魔なだけだ」


神崎は、自身のこめかみを指差した。


「代わりに、あの時の『感情OS』を移植しろ。俺の怒り、焦り、恐怖……それら全部を『燃料』にして動く、あのシステムだ」

「でも!」


セレンが悲鳴のような声を上げる。


「あのシステムは、クロノスだから耐えられたんです!こんな高機動機で、感情のままに暴走したら、機体も、隼人さんの身体も持ちません!」

「持たせるさ」


神崎は、静かに言った。


「アトラスは言った。『迷いや感情があるから乗れない』と。なら、逆だ。その『感情』こそを、機体の制御に使う。論理ロジックで動くマシンを、人間の『本能カオス』でねじ伏せるんだ」


それは、洗練された未来のF1マシンに、泥臭いラリーカーのエンジンを無理やり載せるような暴挙だった。

だが、リオはしばらく計算した後、ニヤリと笑った。


『……やってやるよ。未来の超高性能機を、時代遅れの暴れマスタングに改造だ。アトラスが見たら卒倒するだろうな』

「時間は?」

『不眠不休でやって、二週間。調整運転を含めれば、敵の艦隊到着ギリギリだ』

「上等だ」


神崎は、黒い機体に手を触れた。


「プロメテウス。お前の主はもうアトラスじゃない。今日から俺が、お前の新しい『相棒』だ」


残り、二週間。

人類最強の「盾(ドローン艦隊)」と、最凶の「プロメテウス」。


決戦の準備は、刻一刻と整いつつあった。

だが、宇宙の彼方からは、それをあざ笑うかのように、数万の光点が静かに、しかし確実に地球へと迫っていた。


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