表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第二部: 外敵(アイギス)からの「奪還」の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/45

第三十話:内部(インサイド)の亀裂


時間ときが、引き伸ばされた。

クロノスの機首が、オリンポスの分厚い装甲に接触した瞬間、神崎の全神経が叫びを上げた。


轟音。

閃光。

鉄と鉄が、あり得ない速度と質量で衝突し、分子レベルで軋みを上げる、断末魔のような金属音。


コックピット内部は、凄まじい衝撃(G)の嵐に叩きつけられた。神崎はセレンの身体を強く抱きしめ、自らの背中を操縦席のコンソールに打ち付け、その衝撃の全てを受け止めた。


『警告!警告!船体第三隔壁バルクヘッド、物理的貫通を検知!』

『セクター・ガンマ、動力グリッド、連鎖的ダウン!』

『生命維持システム、区画封鎖!』


AI『ヘリオス』の冷静なアナウンスが、アイギス母艦『オリンポス』全体に響き渡った。だが、その声の裏には、700年間で初めて経験する「物理的なバグ(イレギュラー)」に対する、明らかな動揺が隠れていた。


クロノスは、オリンポスの装甲を紙のように突き破り、艦内の深部……複数の区画を隔てる壁をぶち抜きながら、ついに停止した。


機体は、もはや「翼」の形を留めていなかった。コックピット・ブロックだけが、辛うじて原型を保ち、オリンポスの動力パイプがむき出しになった区画に、槍のように突き刺さっていた。


「……かはっ……」


神崎は、口の中に広がった鉄の味と共に、血を吐き出した。全身の骨が悲鳴を上げている。だが、アドレナリンが、痛みを麻痺させていた。


「……セレン、無事か」

「……はい……隼人さんが、庇ってくれたから……」


セレンもまた、衝撃で気を失いかけていたが、かろうじて意識を保っていた。


神崎は、大破したキャノピーを蹴破り、煙が充満する艦内へと転がり出た。

そこは、白い部屋や、清潔なドックとは、まったくの別世界だった。


アトラスたちが見せていた「完璧な船」の、その内壁ないへき

むき出しになった無数のケーブルから火花が散り、切断されたパイプから冷却蒸気が噴き出している。


神崎たちの「特攻(ゴミの一撃)」は、AIの予測を完全に超え、この完璧なシステムの「内臓」を、物理的に引き裂いたのだ。


侵入者バグを検知。セクター・ガンマに、全防衛ユニットを集中させよ』


艦内に、アトラスの冷静だが、怒りに満ちた声が響き渡る。


「……まずい、すぐに兵士が来る!」


セレンが、神崎に肩を貸そうとする。


「いや、待て」


神崎は、セレンを制止した。彼は、突き刺さったクロノスの残骸……そのコックピットの奥で、未だにかすかな光を放っている「感情OS」のコアユニットを見つめていた。


「……セレン、お前、この船のシステムにハッキングできるか?」

「無理です!ヘリオスのセキュリティは、ソラリスの比じゃ……」

「今なら、どうだ?」


神崎は、周囲の、火花を散らす動力ケーブルを指差した。


「こいつらは、今、物理的に『剥き出し』だ。ヘリオスの完璧な『ファイアウォール』も、この区画だけは、ズタズタなはずだ」


セレンは、神崎の意図を悟り、目を見開いた。

彼女は、クロノスの残骸に戻ると、生き残っていたインターフェース・ケーブルを引きずり出し、それを、火花を散らすオリンポスの動力ケーブルに、強引に接続した。


「……ヘリオスのメインフレームに、直接……!?自殺行為よ!」

「だが、やるしかない!」


セレンがケーブルを接続した瞬間、彼女の目の前に、情報とエラーコードの嵐が流れ込んできた。ヘリオスが、この物理的ダメージを修復しようと、膨大なデータをこの区画に流し込んでいるのだ。

それは、セレンにとって、激流の中に飛び込むようなものだった。


「……くっ……!情報量が、多すぎる……!」


セレンが、意識を失いかける。


「セレン!」


神崎は、セレンの肩を掴むと、自らもインターフェース(クロノスの感情OS)に触れた。


「俺の『怒り』を使え!このクソッタレなシステムへの『憎悪』を、お前の『ナイフ』にしろ!」


神崎の強烈な感情バグが、セレンの論理的思考ハッキングと融合した。

それは、ヘリオスが最も恐れ、最も理解できない、非合理的な「攻撃クラック」。


『……警告。システム深層部に、未定義のロジック・ボムを検知』

『……侵入者は……ソラリスの……データ……』


ヘリオスのAIが、混乱を始めた。

その時、通路の向こうから、アトラスに率いられた銀色の兵士たちが、ついに姿を現した。


「……そこまでだ、ゴミども」


アトラスは、自らの船の惨状と、システムに直接触れている二人を見て、初めてその冷徹な仮面を歪ませた。


「その『バグ』ごと、お前たちを消去する」


アトラスが、右腕に装着されたデバイスを起動させ、神崎たちに向けて、最大出力のエネルギーをチャージし始めた。


万事休す。

その、刹那。


『……マスター・コントロール、強制移行』

『アイギス・フロンティアAI『ヘリオス』……全機能を……停止します』

アトラスの動きが、ピタリと止まった。

彼だけでなく、周囲の銀色の兵士たち全員が、まるで電源を落とされた人形のように、その場に凍りついた。


「……やった、のか……?」


神崎が、荒い息と共に呟く。


「……いいえ」


セレンが、蒼白な顔で、神崎を見上げた。


「……私が、やったんじゃない」

「……この声は……」


二人の背後、大破したクロノスのコックピットから、ノイズ混じりの、しかし聞き慣れた声が響いていた。


『……久しぶりだな、神崎。お前のそのクソッタレな『怒り』のおかげで、助かったぜ』


そこにいたのは、リオだった。

いや、リオの「意識データ」だった。


リオは、神崎が地球を飛び立った後、自らの意識をデータ化し、クロノスに組み込まれた「感情OS」のコアユニットの、その最深層に、自らを「密航」させていたのだ。


神崎とセレンがヘリオスにハッキングした瞬間、リオの意識ウイルスが解き放たれ、混乱していたヘリオスの制御権を、一瞬にして奪い取った。


「……リオ、お前……」

「礼はいい。だが、喜ぶのは早いぜ、エース」


リオの意識が、艦内スピーカーを乗っ取って、アトラスに聞こえるように告げた。


『……アトラス。お前らのAIヘリオスは、今、俺がもらった。この船の全システムは、今この瞬間から、俺たち『ジオ・フロンティア』の管理下にある』


凍りついていたアトラスが、自らの意志(マニュアル操作)で、ゆっくりと神崎たちを振り返った。その蒼い瞳は、初めて、憎悪と殺意に燃えていた。


「……旧人類ゴミが……!」


AIの支援サポートを失った、未来の超人アトラスと。

AIを味方につけた、過去の旧人(神崎)との。

船の内部インサイドでの、最後の戦いの火蓋が、切って落とされた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ