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CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第二部: 外敵(アイギス)からの「奪還」の物語

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第二十九話:起動(リブート)


「……本気ですか、隼人さん」


セレンが、迫り来る焼却炉アストラル・フォージの赤黒い炎に顔をこわばらせながら、神崎に問う。


「クロノスの残骸に乗り移る……。成功したとして、あの機体はもう飛べません!」

「飛ぶんじゃない」


神崎は、ターゲット(クロノス)との相対速度と距離を、エースパイロットの直感で瞬時に計算していた。


「『ぶつける』んだ。だが、ただのゴミとして焼却炉に落ちるよりは、マシな死に場所だろう」


神崎の瞳は、死を覚悟した人間のそれではなく、勝機を見出した狩人のそれだった。

セレンは、彼の狂気ともいえる意志に賭けることにした。


「……残り少ない推進剤(デルタV)、全開にします!衝撃に備えて!」


セレンがコンソールを叩いた。

ブシュウウウッ!

廃棄カプセルの姿勢制御スラスターが、残り少ない燃料をすべて燃焼させ、最後の軌道変更を行った。


アイギスの監視網ヘリオスは、この動きを「ゴミ同士のランダムな衝突」と判断し、脅威とは認識しなかった。


ガギィィィィン!!

凄まじい金属音と衝撃が、二人を襲う。

カプセルは、狙い通り、クロノスの残骸の胴体部分にめり込むように激突し、停止した。


「……行くぞ!」


神崎は、カプセルの壊れたハッチを蹴破ると、酸素が漏れ出す音も構わず、セレンの手を引いた。

二人は、宇宙空間(真空)に漂う、無数のゴミの破片の中を、カプセルからクロノスの開かれたキャノピーへと飛び移った。数秒間の、死の宇宙遊泳。


二人がクロノスのコックピットに転がり込んだ瞬間、セレンが辛うじて内部の緊急エアロックを作動させた。


「……はぁっ……はぁっ……」


狭いコックピット内で、二人は失われた酸素を貪るように吸い込んだ。


コックピットは、アトラスによる解析の後、無残な姿を晒していた。武装や航法システムは根こそぎ抜き取られ、メインスクリーンは割れている。


「……ダメだ、動力エネルギーが完全に落ちてる」


神崎が、無反応のコンソールを叩く。


「いいえ……一つだけ、生きています」


セレンが、神崎の操縦席の足元を指差した。

そこにあったのは、リオが組み込み、神崎の「怒り」をOSとしていた、あのブラックボックス(感情OSのコアユニット)。


それは、アイギスの解析技術でも理解が及ばなかったのか、あるいは意図的に残されていたのか、今もなお、かすかな待機電力を保っていた。


「……だが、エンジンも、スラスターも、全て物理的に破壊されている。これだけ動いても、飛べない」


神崎が、悔しさに歯を食いしばった、その時。

コックピットの割れたスクリーンの向こう。

焼却炉アストラル・フォージの巨大なプラズマの炎が、一段と強く輝いた。


クロノスの残骸を含む、このデブリ群全体が、焼却炉の強烈な重力(あるいは引力ビーム)に引かれ、最終的な落下フェーズに入ったのだ。


「……神崎さん、もう……」


セレンが、諦めの言葉を口にしようとした瞬間。

神崎は、コックピットに深く座り直し、リオが作った脳波インターフェースを、自らのこめかみに突き立てた。


「……セレン、お前が言ったことを覚えているか」

「え……?」

「ジオ・フロンティアで、クリーナーと戦った時だ。『ここはヘリオスの死角。ロジックでしか動けないAIにとって、ゴミ(わたしたち)の行動は予測できない』……そう言ったな」


神崎は、インターフェースを起動させた。


「そうだ。AIやつらは、俺たち『ゴミ』を、焼却炉で『処理』するロジック(論理)で動いている。まさか、その『ゴミ』が、牙を剥くなんて、夢にも思っていない」


神崎は、目を閉じた。

そして、この世界に来て、溜め込んだ、全ての感情フューエルを、OSに叩き込んだ。

セレンを奪われた『怒り』。

仲間を人質に取られた『屈辱』。

何もできず、搾取され続けた『絶望』。

そして、今、この瞬間、敵の心臓部にいるという


高揚アドレナリン』。

「起きろ、クロノス!」

「お前のあるじは、俺の『怒り』だろうが!!」


ビィィィィィィン!!

感情OSが、神崎の精神の奔流を受け、暴走ともいえるレベルで再起動リブートした。


破壊されたはずの機体のあちこちで、断線していた回路が、強引にショートし、繋がっていく。


『感情パターン、ロックオン。計測不能領域オーバーフロー

『全エネルギー、機体後部、メインスラスターの残骸へ、強制転送』

クロノスの機体が、小刻みに震え始めた。

焼却炉へ落ちる軌道上で、死んだはずの翼が、最後の「怒り」を溜め込んでいる。


「セレン、掴まってろ!」

「何を……!?」

「特等席だ。あのクソッタレなアトラスの母艦ふねに、風穴を開けてやる」


神崎は、焼却炉へと落ちていく軌道の中で、機体の向き(ベクトル)だけを、アイギス艦隊の旗艦、巨大母艦『オリンポス』へと向けた。


「いけぇぇぇぇぇっ! 俺のゴミ!!」


神崎が叫んだ瞬間。

クロノスは、残された全エネルギーを、破壊されたスラスターから「爆発」のように噴射させ、焼却炉への軌道を逸脱。


それは、もはや飛行ではなかった。

AIヘリオスのロジック(予測)を完全に裏切る、一発の「ゴミ」として放たれた、巨大な「弾丸バレット」。


AIヘリオスが、この「ゴミの特攻」という、最も非合理的な「バグ」に気づいた時には、もう遅かった。


神崎とセレンを乗せた「トロイアの木馬」は、アイギス最強の母艦『オリンポス』の、分厚い装甲へと、吸い込まれていった。


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