表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第二部: 外敵(アイギス)からの「奪還」の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/45

第二十八話:トロイアの塵(ちり)


「あの『ゴミ』に乗るんだ!」


セレンの叫びに、神崎は一瞬の躊躇もしなかった。

二人は、最終廃棄ポートの淵から、壁面に辛うじて固定されていた非常用脱出ポッド(の残骸)へと飛び移った。

ガコン!と、古い金属が悲鳴を上げる。


「ハッチが、開かない!」


神崎が、錆びついた手動ハンドルに全体重をかけるが、びくともしない。


「くそっ!」


彼は、クリーナーとの戦いで手にした金属パイプを、ハッチの隙間にねじ込んだ。


「離れてろ!」


テコの原理で、渾身の力を込める。ミシミシと嫌な音を立て、ついにハッチがこじ開けられた。

二人は、狭いカプセルの中へと転がり込む。


そこは、本来2名用の脱出ポッドだったようだが、内部の計器の半分は破壊され、生命維持装置のランプも赤く点滅している。まさに「廃棄物」だった。


「セレン、ハッチを閉めろ!」


神崎が叫ぶ。セレンが内部のロックレバーを引いた、その瞬間。


『最終廃棄シーケンス、実行』


無機質なアナウンスと共に、二人が乗ったカプセルを含む、足場全体が、凄まじい轟音と共に宇宙空間へと射出パージされた。


「ぐっ……おぉぉぉっ!」


激しいGと振動が、二人を座席に叩きつける。

神崎は、自分がF-15Jで経験したどの加速Gとも違う、ただ「放り出される」という無重力と加速の混沌に、奥歯を噛み締めた。


そして、訪れる、絶対的な静寂。

振動が止まった。

神崎は、荒い息を繰り返しながら、カプセルの小さな覗きポートホールから外を見た。


そこに広がっていたのは、絶望的な光景だった。

眼下には、先ほどまで自分たちが閉じ込められていた、巨大母艦『オリンポス』の全景。その周囲には、アイギス・フロンティアを構成する、数千のコロニー群と、それを守護する銀色の艦隊。

自分たちは、その膨大な敵のまっただ中に、文字通り「ゴミ」として、漂っていた。


「……脱出、成功、か……?」


神崎が、かすれた声で呟く。

隣で、セレンが、かろうじて起動したコンソールのパネルを叩いていた。その表情は、神崎の安堵を裏切るように、こわばっていく。


「……ダメです」

「何がだ」

「このカプセルの、生命維持装置の限界は……あと、30分……。それに、このカプセル……」


セレンは、絶望的な事実を告げた。


「……どこにも、漂流していません」

「どういうことだ!?」

「これは、ただの『投棄』じゃないんです……!アイギスの『資源循環リサイクルシステム』です!見て!」


セレンが指差すポートホールの先。

神崎は、自分たちのカプセルが、他の無数のゴミ(デブリ)と共に、ゆっくりと、しかし確実に、ある一点に向かって「流れて」いることに気づいた。


その先にあるのは、艦隊の中心部に浮かぶ、巨大なリング状の宇宙ステーション。

ステーションの中央では、赤黒いプラズマの炎が渦巻いていた。


「……あれは」

「『アストラル・フォージ』……星系のゴミを、原子レベルに分解して、再資源化する、宇宙溶鉱炉プラズマ・スメルターです」


セレンの声が、震えていた。


「私たちは……ゴミ捨て場から逃げ出して、今、焼却炉行きのコンベアベルトに乗ってしまったんです……」


まさに、アトラスの言った通り、ゴミはゴミ捨てトラップから逃れられない。

絶望が、再び二人を包み込む。


生命維持の限界があと30分。焼却炉に到達するまで、おそらくそれよりも早い。

神崎は、迫り来る「死」の炎を、ポートホールから睨みつけていた。


彼は、自分が閉じ込められた、この「ゴミ」のカプセルを見渡し、そして、敵の艦隊の中心部へと、なすすべもなく「運ばれて」いる、この状況を、冷静に、冷徹に、分析していた。


「……いや」


神崎が、低い声で呟いた。


「……セレン、違うぞ」

「……何が、ですか?」


神崎は、エースパイロットの顔に戻っていた。


「俺たちは、ゴミじゃない」


彼は、ポートホールから見える、アイギスの心臓部……数千の艦隊が守護する、アトラスの母艦『オリンポス』の位置を、その目に焼き付けた。


「俺たちは、敵の心臓部どまんなかに、敵の警戒網を、一切の抵抗を受けずに突き進んでいる、『弾丸』だ」

「え……?」

「このカプセルは、ゴミじゃない。俺たちが乗る、最後の『トロイアの木馬』だ」


神崎は、セレンの肩を掴んだ。


「セレン。お前ならできるか?このカプセルの、残り少ない推進剤スラスターを使って、あの焼却炉スメルターじゃない、別の『ゴミ』に、体当たり(ドッキング)することは」


神崎が指差したのは、焼却炉へと向かうゴミの流れ(ストリーム)から、わずかに外れた軌道。

そこに浮かんでいた、一つの「巨大なゴミ」。

それは、神崎がこの世界に来た、あの忌まわしき『クロノス』の残骸だった。


アトラスは、クロノスをドックに捕獲した後、解析の価値なしと判断し、この廃棄ストリームに投棄していたのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ