第二十七話:鉄屑(スクラップ)の戦場
「ギギギ……」
クリーナーの単眼が赤く点灯し、神崎を「処理すべき規格外のゴミ」としてロックオンした。
『焼却します』
無機質な警告音と共に、右腕の高出力バーナーが青白い炎を噴射し、神崎が立っていたゴミの山ごと薙ぎ払った。
「……遅えよ!」
神崎は、炎が届く寸前に、ゴミの山を駆け下りていた。
重機であるクリーナーの動きは、アトラスの兵士たちの超人的な反射神経とは比べ物にならないほど鈍重だ。だが、その一撃は、当たれば即死の破壊力を持っていた。
「こっちだ、鉄クズ!」
神崎は、足元のゴミの中から金属の板(おそらくは何かの装甲板の残骸)を拾い上げ、盾のように構えながら、別のクリーナーへと投げつけた。
ガキン!と甲高い音が響く。
クリーナーのAIは、その「原始的な投擲」を脅威として認識できず、一瞬だけ動きを止めた。
その隙に、神崎は一体目のクリーナーの側面へと回り込む。
狙うは、アームの付け根にむき出しになっていた、太い動力ケーブル。
彼は、手に持った金属パイプの鋭利な先端を、槍のように突き出した。
だが、クリーナーは産業用ロボットならではの、愚直な防御行動に出た。
左腕の巨大なマジックハンドで、自らの胴体をガードしたのだ。神崎のパイプは、分厚い鉄の爪に阻まれ、火花を散らしただけだった。
『……反撃行動を検知。処理レベルを移行』
クリーナーのAIが、神崎を「危険なゴミ」と再認定した。
マジックハンドが、神崎の想像を超える速度で彼を掴みにかかる。
「うおっ!」
神崎は、咄嗟に後方へ飛び退く。彼がいた場所のアスファルト(らしき床)が、マジックハンドの一撃で粉々に砕け散った。
(……まずい、重機のAI、戦闘に適応してやがる!)
アトラスが送り込んできただけのことはある。ただの産業ロボットではない。ヘリオスのAIによって、戦闘用に簡易的なアップグレードが施されていたのだ。
バーナーと鉄爪の、容赦ない連携攻撃。
神崎は、防戦一方に追い込まれた。700年前の戦闘技術も、絶対的なパワーと、高速で学習するAIの前では、徐々に通用しなくなっていく。
「……セレン!まだか!」
神崎は、後方で最終廃棄ポートを目指すセレンの姿を、視界の端で確認しながら叫んだ。
セレンは、巨大なコンベアベルトが吸い込まれていく、直径50メートルはあろうかという巨大な穴の手前で、何かの操作パネルを必死に探していた。
その時、神崎の背後から、二体目のクリーナーが迫っていた。
挟み撃ち。
神崎の全身に、死を覚悟した冷たい汗が流れた。
(……ここまで、か)
神崎が、死を覚悟した、その瞬間。
『ピ――――ッ!』
ドーム全体に、けたたましい警告音が鳴り響いた。
それは、火災報知器でも、侵入警報でもない。
この廃棄ブロックで、日常的に流れる「作業用アラート」だった。
二体のクリーナーの動きが、ピタリと止まった。
『……定時処理シーケンス、優先。』
AIが、戦闘よりも上位の命令(日課)を優先したのだ。
神崎が呆然と見上げる中、頭上の巨大なアームが、この区画で最も巨大な「ゴミ」――おそらくは、使用済みになった小型コロニーの隔壁か何か――を掴み、ドームの中央、神崎とクリーナーたちがいる、まさにその場所の上空へと移動させてきた。
「……セレン!」
神崎は、セレンが何かをしたのだと、瞬時に悟った。
彼女は、操作パネルを見つけたのではない。廃棄ブロック全体の「作業スケジュール」にハッキングし、この区画のゴミを強制的に「投棄」するコマンドを実行したのだ。
『警告。投棄エリアに、未処理のゴミ(神崎たち)を検知。しかし、定時処理を優先』
クリーナーたちは、自らが「処理」される側になったにも関わらず、その場から動こうとしない。AIのロジックが、完全に矛盾を起こしていた。
「……バカが!」
神崎は、頭上から迫り来る、山のような「鉄屑」の影を見上げた。
「お前らAIの、そのクソ真面目な『優先順位』が、命取りだ!」
神崎は、ロジックの矛盾でフリーズしているクリーナーの横をすり抜け、セレンの元へと全速力で走った。
直後。
轟音と共に、山のような鉄屑が、二体のクリーナーを押し潰しながら、最終廃棄ポートの暗い穴の中へと、雪崩れ込んでいった。
「……はぁ……はぁ……」
神崎は、セレンの隣で、かろうじて難を逃れた。
二人の目の前には、宇宙空間へと続く、巨大なゴミの濁流が渦巻いていた。
「……セレン、お前……」
「言ったでしょう」
セレンは、埃まみれの顔で、不敵に笑った。
「ここは、ヘリオスの『死角』。ロジック(論理)でしか動けないAIにとって、ゴミ(わたしたち)の行動は、予測できないんです」
二人は、最終廃棄ポートの淵に立った。
眼下は、漆黒の宇宙空間。
ここを飛び降りれば、生身の人間は一瞬で死ぬ。
「……どうする」
「信じて」
セレンは、ポートの壁に設置されていた、非常用の小型カプセル(おそらくは、作業員用の緊急脱出ポッドの残骸)を指差した。
「あの『ゴミ』に乗って、ここから出るんです!」




