表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第二部: 外敵(アイギス)からの「奪還」の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/24

第十八話:獅子の巣


漆黒の宇宙空間。

神崎がいた「空」は、もはや足元を覆う蒼い球体となっていた。息を呑むほどの美しさ。だが、感傷に浸る時間は一瞬たりともない。


『神崎!聞こえるか!』


ヘッドセットから、ノイズ混じりのリオの声が響く。


『シグナルの残滓が、急速に減衰してる!座標ロックが消えるぞ!あと60秒だ!』


目の前で、空間の歪みの残滓が、風前の灯火のように明滅している。

神崎は、現実世界では初めて、クロノスの「感情OS」を起動させた。


「……分かってる」


彼は操縦桿を握りしめ、目を閉じた。


(思い出せ)

(アトラスの、あの冷たい蒼い瞳)

(セレンを奪われた、あの無力感)

(リオが腕を焼かれた、あの痛み)

(全てを奪われた、あの怒りを――!)


『アイギス!!』


神崎の憎悪と意志が、物理的な奔流となってシステムに流れ込む。


『感情パターン、ロックオン。跳躍座標、固定。』

コックピット内の計器が、緑色の光で満たされた。


『クロノス・ダイバー・ワン、これより、未知座標へ跳躍ダイブする!』

神崎はスロットルではなく、自らの精神のレバーを、限界まで叩き込んだ。


次の瞬間、世界が反転した。

視界が、七色の光の奔流に塗りつぶされる。肉体が、まるで粘土のように引き伸ばされ、原子レベルに分解されていくような、筆舌に尽くしがたい激痛と圧迫感。


F-15Jで経験した最大9Gの負荷など、子供の遊びだった。これは、物理的なGではない。存在そのものが別の次元へと捻じ曲げられる「時空のG」だ。


「ぐ……おぉぉぉぉッ!!」


シミュレーションで経験した負荷とは、比較にすらならない。


(耐えろ……!ここで意識を失えば、俺は永遠に時空の狭間を彷徨うことになる……!)

彼は、セレンの顔だけを、その一点だけを、暗闇の中で掴み続けた。


どれほどの時間が経ったのか。一瞬か、永遠か。

突如、全ての負荷が消え失せ、機体は凄まじい衝撃と共に、通常の空間へと「吐き出された」。


『警告!警告!機体制御不能!』

『熱暴走!』

『船体各所に異常ダメージ!』

クロノスは、コマのようにきりもみ回転しながら、未知の空間を漂流していた。


「……立て直せ、俺の翼!」


神崎は、失神寸前の意識を叩き起こし、必死に物理的な操縦桿を握り、逆噴射スラスターを焚いた。寄せ集めの機体が、悲鳴のようなきしみ音を上げる。


数分間にわたる死闘の末、クロノOSは、ようやくその回転を止め、静止した。

神崎は、荒い息を繰り返しながら、キャノピーの外に広がる光景に、言葉を失った。


そこは、地球の軌道上ではなかった。

蒼い星はない。

代わりに彼の目の前に広がっていたのは、悪夢のような光景だった。


無数の、巨大な円筒形のスペースコロニー。

それらを連結するように張り巡らされた、エネルギーライン。


そして、それらを守護するように浮かぶ、数百、いや数千はあろうかという、銀色に輝くアイギスの艦隊。


ジオ・フロンティアのような「地下都市」ではない。

ここは、人類が宇宙に築き上げた、巨大な軍事要塞都市。

星系そのものを支配する、圧倒的な文明の巣。


「……ここが、アイギス・フロンティア……」


絶望的なまでの、物量と技術力の差。

その時だった。

神崎が、この世界を観測した、そのコンマ1秒後。

コックピット内に、これまで聞いたことのない、甲高い警告音が鳴り響いた。


『警告。未登録の時空シグナルを感知』

『アイギス防衛網、レベル・アルファ発動』

『目標、クロノス・ダイバー。……捕獲を開始する』


神崎の目の前の空間に、突如として数十機のアイギスの銀色の機体がワープアウトしてきた。

彼らは、クロノスを完璧な包囲網の中に閉じ込める。

逃げ場は、ない。


「……獅子の巣の、ど真ん中か」


神崎は、自嘲的な笑みを浮かべた。

だが、その瞳に宿る闘志の火は、一瞬たりとも消えてはいなかった。


「上等だ。派手に歓迎してくれよ、未来人ども……!」


彼は操縦桿を握り直し、怒りの翼のエンジンを、再び点火した。

故郷(地球)から、何万光年離れているかも分からない宙域で。

一人の旧人類プロトタイプと、未来の超文明との、孤独な戦いが始まろうとしていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ