表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CHRONO-DIVER(クロノ・ダイバー) ~AIの鳥籠(とりかご)に落ちたエースパイロット、恐竜の闊歩する未来で自由を掴む~  作者: さらん
第二部: 外敵(アイギス)からの「奪還」の物語

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/22

第十六話:72時間の翼


ジオ・フロンティアの最下層。そこは、ソラリスが各時代のセクターを建造するために使用していた、地底湖に面した巨大な秘密ドックだった。かつては完璧な秩序の下で無人ドローンだけが稼働していたその場所に、今、カイ、リオ、サラ、そして神崎の怒号と金属音が響き渡っていた。


「急げ!21世紀セクターの博物館から運び出したメインスラスターを、ここのフレームに接続するぞ!」


サラの力強い指示が飛ぶ。彼女は建設モジュールを巧みに操り、博物館の「展示物」としてカモフラージュされていた本物のロケットエンジンを、異形のフレームへと組み付けていく。


そのフレームこそが、ソラリスが遺した設計図『CHRONOSクロノス』。


それは、神崎が知るどんな航空機とも似ていなかった。F-15Jの鋭角的な翼の設計思想(それは神崎のフライトデータから解析されたものだ)と、スペースシャトルのような耐熱タイル、そしてそれらを強引に束ねる、アイギスの技術を模倣した未知のエネルギー循環システム。人類の過去と未来を無理やり接ぎ木したような、歪なキメラだった。


「カイさん!中世セクターの地下から掘り出した『賢者のとカモフラージュされてたエネルギーコア』、こいつの出力が不安定すぎる!」


負傷した腕を吊ったリオが、片手で必死にコンソールを叩く。


「だろうな!」


カイが配線を睨みながら叫ぶ。


「ソラリスは、アイギスに察知されぬよう、全てのパーツを意図的に未完成、あるいはダウングレードして隠していた!我々の手で、この場で完成させねばならんのだ!」


彼らは寝る間も惜しみ、たった4人で、神の領域の機体を組み上げていた。


一方、神崎は、ドックの片隅に設置されたシミュレータに座っていた。リオがソラリスのデータから突貫で作り上げた、クロノス用のフライトシミュレータだ。


「……ぐっ……ぁっ!」


神崎は、激しいGと精神負荷に耐え、コックピットで歯を食いしばっていた。


クロノスの操縦は、神崎の経験を遥かに超えていた。大気圏内での飛行はまだしも、問題は、大気圏を突破し、静止軌道上の「跳躍シグナル」に到達するための、ワープドライブのシミュレーションだった。


『警告。空間座標認識エラー。パイロットの精神が、多次元座標の同時認識に失敗』

無機質な警告音と共に、視界がブラックアウトする。神崎は、まるで脳を直接掴まれるような激痛に、シートに沈み込んだ。


「……クソッ!」


彼はヘルメットを叩きつける。


「これじゃ飛べない!この機体は、俺の神経からだに応えようとしない!」


焦りをぶつける神崎に、リオがコンソール越しに怒鳴り返した。


「当たり前だ!あんたが乗ってたのは、空気の抵抗を計算して飛ぶ『飛行機』だ!こいつは、空間そのものを捻じ曲げて飛ぶ『跳躍機ダイバー』なんだよ!700年分の進化を、数時間でマスターしようなんて、ふざけるな!」

「だが、時間が無いのはお前が一番分かってるはずだ!」


二人の間に火花が散る。その時、カイが重い口を開いた。


「……その通りだ。時間は、ない」


カイがメインスクリーンに、アイギスの母艦が消えた静止軌道上のデータを映し出した。リオが観測した「跳躍シグナルの残滓」が、まるで陽炎のように揺らぎ、徐々にその光を失いつつあった。


「アイギスが使ったワームホールが、閉じかけている。このシグナルの残滓が、我々が奴らを追跡できる唯一の『道標コンタクト・トレース』だ」


カイは、非情な計算結果を突きつけた。


「このトレースが完全に消失するまで、残り……推定、72時間」


72時間。

たった3日で、未知の機体を完成させ、未知の操縦技術をマスターし、時空の彼方へ飛び立てと?

絶望的なタイムリミットが、ドックの空気を凍りつかせた。


「……やるしかないだろ」


最初に沈黙を破ったのは、リオだった。彼は神崎のシミュレータに歩み寄り、自分の端末を接続した。


「いいか、神崎。あんたの旧人類プロトタイプの脳ミソは、俺たちみたいに安定化プログラムで守られてねえ。だから、空間が歪む『G(負荷)』に耐えられないんだ」

「……どうしろと」

「逆だ。耐えるな。受け入れろ」


リオは、ニヤリと笑った。


「あんたの『恐怖』も『焦り』も、全部システムに流し込め。ソラリスのAIじゃ処理できなかった、その制御不能な『感情バグ』こそが、この不安定な機体を動かすキーになるように、俺が今、OSを書き換えてやる」


それは、神崎の精神そのものを、クロノスの制御システムの一部に組み込むという、狂気の賭けだった。


「……面白い」


神崎の瞳に、再び闘志の火が宿った。


「やってみろ、リオ。俺の魂ごと、この翼にくれてやる」


神崎は再びシミュレータのキャノピーを閉じた。

残された時間は、71時間50分。

セレンの命、そして奪われた過去と未来を取り戻すための、孤独なダイブが再び始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ