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潮の核域 -Few remaining seas-  作者: 梯子
兵器の逃亡
48/53

【第43話】MA搭乗と、悪夢

「――三号機パイロットの遺体は、未だ発見されていない」

重い声が、会議室の空気をひとつ揺らした。

誰もがその一言に息を飲む。



郷田「三号機は惜しかった。限界まで性能を引き出していた」


神崎は目を伏せ、次の言葉を選ぶように続ける。

「……人間の操作には、どうしても限界があります。それは事実です」


郷田「MA-0を使えるようにしろ。

人間ではないものが、MAに乗ればいい。

No.101を使え」



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


──格納庫第十二ブロック。

神崎は格納庫にパイロットを集合させた。


鋼鉄の床が冷たく光り、巨大な胴体を伏せたMA-0が静かに鎮座している。

整備用アームが取り払われ、まるで“目覚め”を待つ生物のように沈黙していた。


神崎は視線をMA-0へ向ける。

「今回の試験ではMA-0を稼働する。あいりゃ、前に出ろ」

無表情のあいりゃが一歩進み出る。澪がその姿を睨みつける。


「今回の目的は、MA-0の“感応反応”を確認することだ。

 あいりゃにはコックピットに触れてもらう。危険はない」



澪が小さく吐き捨てる。

「なんで……なんであんたみたいなのが乗るのよ……」


──私でさえ“起動試験資格”を取るのに二年かかったのに…!


あいりゃは振り返らない。聞こえているのかもわからない。


整列する航司の肩が僅かに震えた。

──嘘だ

航司は直感した。だが、言えなかった。

あの訓練の日のフラッシュバックが、喉の奥まで蘇る。


──俺じゃなくて……よかった。

航司はその呟きにぎくりとする。

胸の奥が、ひどく嫌な音を立てた。



「私にもテストをさせてください」

澪は城真を見る。


「二号機はどうするんだ。」

城真は呆れたように微笑んだ。

凛は口を閉ざし、拗ねたようにMA-0を見上げた。



神崎が片手を上げる。

「では、始める。あいりゃ、MA-0の前へ」

あいりゃが無言で歩き出す。


MA-0の巨大な影が彼女を飲み込むように覆う。

格納庫の照明が反射し、MA-0の装甲がわずかに脈打つように光った気がした。


(……何だ?)


航司が目を細めるが、その瞬間――

あいりゃの指先がコックピットハッチに触れた。

──音が、した。


金属が震える音ではない。

心臓の鼓動のような、湿り気を帯びた“ドクン”という低音。

制御盤のモニターが一斉に点灯し、波形が生き物のように跳ね上がる。


「反応……? 感応パターン……?」

「待て、MA-0にそんな仕様は――」


司令官たちがざわつき始める。

あいりゃはハッチに触れたまま、瞬きを一つ。

その表情は無だが、どこかで“知っている”ような気配が揺れた。


「……どうして……」


あいりゃが、誰に向けるでもなく呟いた。

「ここ……知ってる……?」


航司は息を呑む。

澪は顔を真っ青にし、神崎だけが何かを悟ったように目を細めた。

モニターに走る波形は、まるで胎児の心拍のように規則正しく脈打つ。

MA-0が、

“あいりゃにだけ反応している”。


「バカな……」

技術士官が叫ぶ。

「これは……有機リンク……? いや、そんな実装は……!」

神崎は口を閉ざし、ただ一言だけを落とす。


――やはり、そういうことか。


「あいりゃは乗れそうだな」

格納庫の空気が凍りつく中、MA-0は静かに、確実に“目覚め”始めた。



──格納庫のアラームが止まり、解散が告げられたころ。

神崎は何も説明せず司令室に戻り、澪は苛立ちを抑えきれずにさっさと更衣室に向かって歩いていく。


あいりゃはぼんやりと立ち尽くしたままだった。

さっきの“脈動”の光景が頭から離れない。


「……あいりゃ、帰るよ。格納庫、もう閉めるって」

航司も澪を追うように、歩き出す。

ふたりが格納庫裏の通路に入ると、周囲は機械の音も薄く、妙に静かだった。


◆帰り道

冷たい無機質な廊下を歩きながら、凛はぽつりと声を落とした。

強気な口調のはずなのに、わずかに震えている。


凛「……ねぇ、あんた。

 MA-0に触るの……今日が初めてなんだよね?」


あいりゃは歩みを止めず、ただ少しだけ顔を下げる。


あいりゃ「……わからない」

凛「わからないって……MA本体のあんな反応、見た事ないんだけど」


あいりゃは手の指先を見つめるようにして、微かに続けた。


あいりゃ「私が触るのは初めてだと思う。

でも……あれが、私を知っていた」


凛ははっきり息を呑んだ。

それを隠すように、少し強い脚音で歩みを速める。


凛「……はぁ。マジで訳わかんない女……」


吐き捨てるように聞こえるが、

声が少しだけ優しい。

さっきの格納庫での恐怖が、完全には消えていなかった。


凛「ねえ。MAって、生きてるのかな」


あいりゃ「生命……かどうかは、わからない。……“近いもの”だと思う」


凛「近い……?」


凛の喉が小さく鳴る。

まるで自分の知る“機械”という概念が崩れ始める感覚。


あいりゃ「……MA-0は、嬉しそうだった。

 “会えた”みたいに」


凛「その感覚は、わかるけど。」


あいりゃ「生きてるって、どういう状態?」


凛「はぁ!?」


あいりゃ「さっき、MA-0の鼓動が聞こえた。生まれたみたいな音がした。

 触れた瞬間に……“思い出した”みたいに、動いた。」


凛「MA-0はね、ついこの間作られたようなものじゃなく、

ずっと存在してたものなの!

あんたが失踪してた期間もずっと!」


あいりゃ「そうなの…。でも、今日生まれたみたいな音だった」

自分でも、よくわからない」


凛「なんであんな簡単に起動するわけ?」


あいりゃ「わからない」


凛「絶対に初めてじゃないでしょ」


あいりゃ「初めて」


凛「……はぁ。ほんと、マジで訳わかんない女……」


脳裏に蘇るのは、格納庫の光景。

MA-0の機体全体を走った青白い光。

天井を震わせるほど巨大な駆動音。

そして、あいりゃの方へ向けられた、あの“視線のようなもの”。

あれは偶然ではなかった。


二人の足音だけが、長い廊下に淡く響き続けた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……これは、どういうことだ……?」

MA-0の中枢コアに、微弱な“生体応答パターン”が残っていた。

本来あの機体は、登録されたパイロットの脳波と遺伝子識別コードにしか反応しない。


だが残留データはそれとは全く違う。

──“未知の生体コード”が、MA-0に触れた瞬間、認証を突破した。

城真は息を呑む。背筋に冷たい汗が流れる。


技術者A「コアに損傷は? 侵入痕跡ですか?」


神崎「……いや。侵入ではない……。

 これは“システム側が自発的に扉を開いた”形跡だ。」


技術者たちがざわめく。

MA-0は、あの無機質な兵器は、

まるで“主を見つけて迎え入れた”かのように動いた。

神崎はさらにデータの一行に目を奪われる。


《反応一致率:96.3%》


あまりの数値に、喉がひくつく。


神田「……認証一致率が……登録済みパイロットを超えている。

ありえん……これは“設計外だ”。」


(誰だ? 何者だ?

 MA-0にここまで一致する存在など……

 計画の試作段階でも、一度も……)


その瞬間、脳裏に浮かんだのは格納庫で見た少女の顔。

──無表情で、どこか“人ではない”静けさを持った瞳。

神崎は記録を保存し、上層部への報告書を閉じた。


青い非常灯の下、MA-0の胸部で残光のように光るデータ痕跡が、まるで“心臓の鼓動”のように脈打っていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◆航司の個室──深夜

その頃。

訓練生居住区の一室で、航司はベッドに沈み込んでいた。

格納庫での異常事態の後、彼は何度も背筋を冷たいものが走るのを感じていた。


理由はわからない。ただ、不安だけが胸を占めていた。

灯りを消し、目を閉じた、次の瞬間。


真っ暗な水の中にいる。

息ができない。

身体が沈む。

周囲は深海のように冷たい。

航司は必死にもがき、手を伸ばす。


「……返して。

 俺のものを……返して。」


「やめろ……! 離れ……っ」

声にならない。

肺に水が満ちていく。

視界が白く弾けた瞬間。



どこか遠くで、かすかな歌が響く。


──声というより、“呼び声”。

(……だれ……?)

水の奥から、ひとつの影が近づいてくる。


長い髪。

光を吸うような瞳。

そして――あの少女。

あいりゃ。


しかし、夢の中の彼女は微笑みもせず、表情もなく、ただこちらを見下ろしていた。

航司の手首を掴む。

その瞬間、電撃のような痛みが走る。


航司はベッドの上で跳ね起きた。

全身汗で濡れていた。

心臓が荒れ狂ったように脈打っている。



「……なんだよ、今の……。

 あの子……なんで……。」

航司の手は、自分でも理解できない動揺で震えていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あいりゃは海千留の部屋に戻り、ベッドに腰を下ろした。

ほんの少し、目を閉じるつもりだった。

その瞬間だった。


「……っ?」

こめかみに、細い針を何十本も刺し込んだような痛みが走る。

鋭いのに、どこか冷たい。

“違和感”のほうが先に来る妙な痛み。


「……なに……これ……」

呼吸が浅くなる。

でも、立てないほどではない。

“ただの疲れ”と片付けようと思えばできる程度。

しかし、その痛みとともに──一瞬だけ見える断片。



白い部屋。眩しい照明。金属の匂い。

誰かが覗き込んでいる。眼鏡をかけた大人の男。


《No.82 反応なし》

聞いたことのない番号。


意味のない、でもどこか耳馴染みのある声。

映像は一秒にも満たず、すぐに消えた。



あいりゃ

「……記憶……? 違う……見たことない……」

胸の奥が少しざわつく。

怖いというより、

――“なんでこれを知ってるの?”



そんな、静かな不気味さ。

痛みはすっと引き、

まるで何もなかったかのように頭が軽くなる。

あいりゃが深呼吸をひとつしたそのとき──


PC端末が、勝手に点いた。

画面がノイズで揺れる。

でも音は出ない。

ただ、揺れる光の粒子が、

淡く脈打っているように見える。



そして。

――問いかけるような声 が、

ノイズの奥から浮かび上がってきた。

機械にしては柔らかく、人間にしては無機質な、どちらともつかない声。


「……聞こえていますか?」


あいりゃの背筋がぞくりとする。

「だれ……?」

あいりゃのかすれた声。


声は、少しだけ間を置いたあと続けた。


「あなたは……

 私を“覚えていますか?”」

それは命令でも、干渉でも、警告でもない。


ただ、記憶を確かめるような、ひどく静かな問い。

あいりゃは答えられない。

たった数秒前に見た謎の映像が、喉を塞いでいく。

ひどく、頭が痛い。



あいりゃはほとんど無意識でPCの解析を始めるが、

ノイズの主が見つけられない。

「……知らない……はず……」


ノイズが微かに震えた。

「そう……ですか。

 では……少しずつ思い出していきましょう。」

それだけ言うと、

端末はふっと沈黙に戻り、

何事もなかったかのように電源が落ちた。


あいりゃはしばらく、薄暗い部屋の中で立ち尽くす。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◆翌朝

朝の廊下は、いつもどおりの静けさだった。

昨夜の頭痛も、謎の断片映像も、すっかり消えていた。

あいりゃは神崎のもとへ向かった。


◆司令部・神崎の部屋前

ノック。

「どうぞ」

神崎の声は相変わらず抑揚がない。

あいりゃはドアを開け、まっすぐ立つ。


「……報告があります。

 昨日、海千留の部屋の端末が……勝手に起動しました」


神崎は目だけをわずかに細めた。


「ウイルスか?」

「わかりません。

 ……“誰かが侵入した”ような感覚でした」

「解析は?」

「特定出来ませんでした」

「……セキュリティ班に確認させる。

 端末は預けろ」

淡々としているが、声の奥に“何か”を探るような冷たさがあった。



「昨日、MA-0にも“微量の反応痕”が残っていた。

 本来、あれは無人機構だ。

 ……人の痕跡が残るはずがない」


あいりゃの胸の奥で、小さく何かが跳ねた。


「……私と関係がありますか?」

神崎は答えない。

ただ、資料を捲りながら短く言った。


「……格納庫には近付くな。調査中だ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

◆──MA-0内部の調査班


白衣の研究者たちがコックピットを囲む。


調査員

「……見てください。

 この波形、昨日のテスト前には無かった」


有機組織の反応に似た、

しかし完全に機械的ではない信号。

まるで“心臓の鼓動”のように脈打っている。


「誰が触れた?

 反応のタイミングは……これ、あの少女?」


調査員たちは互いに顔を見合わせた。


神崎「記録を取れ。喋るな。

司令の許可が降りるまでは一切口外禁止だ」

空気が一瞬にして冷える。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


廊下を歩いている。海千留の家に、向かっているはずだった。


いつからか。心臓の鼓動でも、機械の駆動音でもない、

もっと乾いた、

もっと静かな“脈”が胸の奥に響いている。


──来い。


そんな言葉ではない。

でも、呼ばれているとしか思えない。


(……呼ばれてる……?

 そんなはず……ないのに)


格納庫の扉が自動で開くと、

巨大なMA-0が静かに佇んでいた。

気づけば目の前にあった。


MA-0の機影


巨大なフレーム。

規則的にまたたく青白い作業灯。

立ち並ぶ技術者のざわめき。

その奥で、MA-0が静かに立っていた。

完全に無機質なはずの機体なのに、

あいりゃには“呼吸している”ように見えた。

そこであいりゃはハッとする。


「……来ちゃだめって、言われたのに……」


自分でも、なぜここに来たのか説明できない。

ただ。

MA-0の胸部にある“コア”のあたりが、

微かに光っている気がした。

昨夜の声がどこかで微かに響く。


「……覚えていますか。」


あいりゃは息を呑んだ。


その時だった。

格納庫全体に、

誰かの叫びが響く。


「誰だ! そこにいるのは!

 立ち入り禁止区域だ!」


あいりゃは振り返る。

自分が何をしているのか、わからないまま。

ただ、MA-0の光は

“歓迎するように脈打っていた”。


MA-0は無言で鎮座している。

だが、空気の密度が明らかに違っていた。

──ピ… ピ、ピ……


けれどあいりゃの耳だけが、その存在を拾っていた。

(まただ……昨日より、近い)


微細な電子音が、骨を震わせるように共鳴する。

司令部のモニターには何も出ていない。

エラーも、反応も、通常は“無”。


「……MA-0?」


声に出した瞬間、機体の表面がわずかに“鼓動”した。

皮膚の下で脈打つ血管のように、光がゆるく波紋を描く。

あいりゃの呼吸が止まる。

──あ い り ゃ。

(……聞こえる? これ、声……?)


指先が触れようとした瞬間、また電子音が跳ねた。

──ピ……ピ、ピ、ピ。


その時、鋭い痛みがあいりゃの頭を貫いた。


「ッ……!」


一瞬、 視界が白く染まる。

──白衣

──金属ベッド

──ナンバータグ

──冷たい光

──自分の名前を呼ぶ、知らない声


映像はどれも断片的で、いつも途中で途切れる。


“82”“83”“84”“85”

数字が、光の残像のように瞼の裏へ焼き付く。


(何の、番号……?)


さらに別のフラッシュ。

ガラス越しの実験室。

白衣の影が複数。

何かを調整する手つき。

“観察”されている視線。

そして。


──反応は安定している

──次はフェーズ3だ


(これは……記憶? それとも……MA-0が見せてる?)


 (あれは……私? それとも……)

足元がふらつく。

 格納庫の床が、遠くの方で波打つように見えた。



「どうした。顔色が悪いな」

 振り返ると、神崎がいた。

 白い照明の下で、表情は変わらないのに、目だけが明らかに鋭く、そしてどこか焦りを含んでいた。


「神崎……」

 言おうとした瞬間、視界が揺れた。

 バランスを失いかけた身体を、神崎の腕が素早く支える。

「立つな。歩けるか?」


温度のない声なのに、その腕だけは驚くほどしっかりしていた。

あいりゃは言葉が出ず、ただ小さく頷いた。

神崎はため息をひとつ落とすと、

そのまま彼女の肩を抱え、自分の胸元へ寄せるようにして支えた。

「……少しだけ、俺に預けろ」


 抱きしめる、というより “支えるために引き寄せる” 。

 それでも、静かに脈打つ腕の力が、崩れそうな意識を繋ぎ止めてくれる。

 二人は格納庫の人気のない通路を歩き、

 神崎の職務室へと入った。

 扉が閉まると同時に、神崎はあいりゃをソファへ座らせた。

 そのまましゃがみ込み、彼女の視線の高さへ合わせる。


「説明しろ。何が見えた?」

 促す声は冷静だが……

 近くで見ると、彼の手が微かに震えているのがわかった。


「……断片の映像が。

 数字と……実験室みたいな……誰かの声がして……」

 あいりゃが言い終わる前に、

 こめかみの奥でまた激しい痛みが弾けた。

「っ──」


 思わず身体を丸めると、神崎が迷いなく手を伸ばし、

 彼女の背へ腕を回す。


「呼吸を整えろ」


 囁くような声。

 耳元で、心音と呼吸のリズムが近い。

 あいりゃは、途切れそうな意識の中で思う。


(……MA-0……あれは……私を……呼んでる……?)


 神崎は、肩を抱く力をわずかに強めた。


「誰にも言うな。……いいな。

 今のお前は“観察対象”だ。余計な耳に入れば、それだけ危険が増える」

 言葉だけは冷徹。

 けれどその手の温度は、あいりゃを離す気配がない。

「……少し、ここで休め。

 俺がついている」


――――――――――――――――――――――――――――――――

神崎はあいりゃを抱えたまま職務室の椅子に腰を下ろした。

表向きは、上官の指示に従う軍人としての顔。


「安全を確保する」

──その言葉通り、あいりゃの体温を確かめ、呼吸を整え、頭痛の具合を気にかける。

だが、その視線の奥には、冷徹な興奮が隠されていた。


机の向こうに並ぶMA-0の設計図やコアの状態表示を、彼は無意識に追う。

“反応が出ている……これは……面白い”


兵器の一部としてのあいりゃ――人間でありながらMA-0と共鳴する存在

――それは、彼にとって最高の観察対象だった。


安全を守るために抱きかかえ、同時にその反応を観察し、制御しようとする。


保護と監視が同居し、矛盾する行動が一つの姿勢として結晶していた。

神崎はあいりゃの額に手を添え、声を落とす。


「落ち着け、今は誰にも邪魔されない」


彼の瞳は微かに輝き、まるで観測対象に触れる科学者のそれだった。

保護と監視、愛情と実験欲、興奮と冷静さ――矛盾する感情が一つの線の上で綱渡りをしている。


あいりゃは額の痛みを押さえながら、視線を机の上のMA-0の設計図へ向けた。


「……神崎さん、MA-0って、何なの?」


神崎は少し間を置き、薄く笑みを浮かべる。


「……あれは、お前が乗るべき兵器だよ」

神崎の声は低く、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「MAは人間の体力も、精神も削る、なんて話は……まあ、表向きの噂さ。君には関係ない」


あいりゃは眉をひそめる。

「……でも、触ったら反応した。私を知ってるみたいに」


神崎は軽く息を吐き、あいりゃの肩に手を添えた。

「知ってるだろうさ……君とMA-0は、軍育ちだからな。

“縁”があるんだろ」


「縁……?」

「まあ、今は気にすることじゃない。大事なのは、君が無事でいることさ」


神崎はそう言うと、あいりゃの髪の毛に触れる。


「とても良く出来ている。人間そっくりだ」


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