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潮の核域 -Few remaining seas-  作者: 梯子
兵器の逃亡
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【第39話】ブルー・アビス、三号機奪還

搭乗訓練が終わり、格納庫内はまだMAの排気音と整備音でざわめいていた。

あいりゃの潮核ユニットは微かに脈打ち、青白い光を揺らしている


周囲のパイロットたちは息をひそめ、城真もその光に目を凝らす。


「ご苦労さん」

神崎はあいりゃにゼリーを差し出した。


「成績も上々なのに、浮かない顔してるね」

「そんな事ありません」

あいりゃは視線を逸らし、拗ねたようにゼリーを飲み干した。


「デートでもしますか、お嬢さん」

「あなたと出かける理由、ない」

「いいからいいから」


そう言うと、神崎は無言のままあいりゃの肩を軽く叩き、格納庫の外へと歩き出した。

神崎の言葉には軽い冗談の響きがあったが、眼差しの奥には鋭い光が混ざる。



海沿いの立入禁止区域

――潮風が淡く漂う場所。誰もいない海岸線で、二人だけの時間が流れる。


潮の香りと波音だけが、二人を包む。

神崎は静かにあいりゃに近づき、声を落とした。


「こんな事でもなければ、海もいい場所なのにな」


神崎があいりゃに缶コーヒーを差し出した。

あいりゃは無言で受け取る。


「昔は人類もこの海にも入れたらしいぞ。今となっては御伽話のような話だよな!」


「わたしは海、入れますけど」


「お前には耐性があるからな!

海水との適応率は、お前は昔から異常な数値だったよ。

人間はもう、海に入ることは疎か、触る事もできない」


「海に入るとどうなるんですか?」


「海水に触れた途端汚染されちまう。

溺死する前に、皮膚からの海水の汚染に苦しむ」


あいりゃは海面を見た。

太陽光に照らされて輝く、水飛沫が美しかった。



「ブルーアビスは必ずまたやってくる。

まだ、迷ってるのか?」


あいりゃは何も言わず、差し出されたコーヒーを口にした。


「お前は乗らずにはいられないよ」


あいりゃは小さく首を振る。

「乗りたくない」


神崎の目は揺らがない。


「俺は乗ってほしいけどな。どんな理由でも」


あいりゃは黙る。

胸の奥でざわめく不安と迷いを映すように光が揺れた。


「俺は世界平和を願ってるのでね」

「……うさんくさい」


神崎はわずかに肩をすくめた。

「そうだよな。俺なんて信用しなくていい」


そして、声のトーンをさらに低く、核心へと滑らせる。


「だかな……あいりゃ。

海千留が眠ったままなのは、どうしてだ?」


あいりゃは唇を噛み、視線を海面に落とす。


「……」

寄せては返す波の音だけが、二人の間にあった。

神崎の視線がその沈黙を切り裂いた。



「海千留はなぜ今も目覚めずに眠っている?」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


格納庫に戻ったあいりゃは、潮核ユニットの微かな光を揺らしながら、再びMAの前に立っていた。


整備班が慌ただしく動き回り、他パイロットたちも操縦席で準備を整えている。

指令艦の作戦会議室に全員が集まる。

モニターにはブルーアビスの海底映像と、三号機の最後の信号波形が映し出されている。


青黒い海底に、巨大な塊のような影が脈動している。


「……位置の確定、成功したな」


神崎の声は冷静だが、場を切り裂くように鋭い。


城真「微弱だが、三号機の信号が観測されている」


「海斗が送ってきているの?」


城真「わからない…パイロットが生きている可能性に賭ける」



解析班が続ける。

「ブルーアビスは深海三千二百。通常のソナーは通りません。

量子干渉によってようやく“輪郭”が見えた状態です」

城真が作戦図をモニターに展開する。



神崎の声は低く、冷静だった。

「ブルーアビスは予測不能な行動パターンを示す。潮核誘引による捕捉は、不安定で危険だ」


解析班がデータを示す。


「誘引パターンはまだ仮説段階です。共鳴の持続時間は数分、あいりゃへの負荷は極めて高い」


城真が地図を指し示す。

「目標は三号機奪還とブルーアビス追撃。全MAで海域を包囲し、あいりゃの潮核で誘引する」




海域の立体構造が浮かび上がり、その周囲に円筒状の巨大フィールドが形成される映像が表示される。


城真「MAは三機で出動する」


凛「MA三機!? 一号機は修理中でまだ正常じゃないし、

もう一機は誰が乗るの?」


城真「航司が乗れない以上、私が四号機に乗ろう。二号機は、凛。」


凛「隊長…」


城真「一号機、あいりゃ。乗ってくれるな?」


あいりゃ「乗ります」


城真「MA三機で《ディープ・メルト》を展開。

   海水そのものを触媒にして“高エネルギー臨界流”を作り出し、前方へ一直線に放つ。

   ブルーアビスが放つ特殊海流を《ディープ・メルト》で打ち消し合い、

   ブルーアビスの移動力をゼロにする。耐久戦だ。

   ただし……」


解析班

「展開中は MA に強烈な潮圧が集中します。

 中心軸に立つのは、あいりゃしか耐えられません」


パイロットたちがざわめく。



神崎が一歩前に出る。

「動きを封じたら終わりじゃない。

 ブルーアビスの殻は通常火力でも貫通しない」

モニターに殻の構造体解析図が出る。


解析班「唯一、攻撃が通った部位──

 あの“裂け目”がまだ完全には塞がっていません」


城真「だから狙う。

 《ディープ・メルト》で二号機、四号機が動きを止めている隙に、

 あいりゃがコアへ《潮核(ちょうかく)共鳴(きょうめい)》を叩き込む」

室内は静まり返る。



澪「水中で大きな波動があると身動きが取れない。追撃の可能性は?」


解析班「《ディープ・メルト》で身を封じた後の

ブルーアビスの追撃の可能性は…不明です」



若い整備士が呟く。

「……成功率は、二割以下です。

 あいりゃさん自身も《ディープ・メルト》を維持したまま、

 ブルーアビスに近付かなければいけません。

 一号機の機体負荷は限界を超える可能性がある」


パイロットたちは顔を見合わせる。

わかっている。

これは“討伐作戦”ではなく“賭け”だ。


神崎「――ブルーアビスが浮上すれば、次は街だ」

その一言で、室内の空気が変わる。


「俺たちに選択の余地はない」



格納庫の空気が張り詰める。MAの排気音が低く響き、パイロットたちの呼吸が重なる。

「必ず迎撃してみせます」



あいりゃはコクピットに滑り込み、ヘルメットを被る。

潮核ユニットが脈打ち、青白く光を増す。


「あんたと協力関係になるなんて、皮肉ね。

 私は負けない、絶対に」

二号機パイロット、澪。



Sacred Sea(セイグレッド・シー)、起動!」


MAの外殻に青白い光が満ち、振動が指先に伝わる。

海面下で、全機のMAが一斉に進路を変え、ブルーアビスの潜む北東深淵帯へ向かう。

三号機奪還とブルーアビス追撃――無茶な作戦が、今、海に広がる深淵で始まった。





《潮核共鳴》

■技の本質

対象のコアだけを内部から破壊する“共鳴型・臨界斬撃”。

あいりゃの遺伝子内部にある「潮核」と、敵の“反応影(核反応のゆらぎ)”を強制的に同調させることにより、同調した生物と同じ性質になることが可能。内部からの攻撃を可能にする。


触れた相手をあいりゃと同じ“反応リズム”に巻き込み、その瞬間に臨界をズラして爆ぜさせる一撃必殺。

外傷より“内部崩壊”が主。


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