【第11-0】ひとつの願い
海千留はベッドに座り、いつものように配信を続けていた。
彼女の黒い髪には、幼い頃に母親が買ってくれたハートマークのヘアピンが三つ、そっと並んで輝いている。
部屋の壁には、額縁に収められた四葉のクローバーの標本が静かに飾られている。
それは碧が幼い頃に必死で探し集めたものだった。
海千留は配信の合間に、あいりゃにそっと語りかけるように話し始めた。
「ねえ、あいりゃ……碧と私は幼馴染なの。
気付いたらいつも隣にいてくれて。私はいつも甘えちゃって」
あいりゃは毛布の中で静かに耳を傾けている。
「碧はね、昔からすごく優しい男の子だった。」
――――幼い頃の記憶、回想。
「ねえ、四葉のクローバーって、見つけたら幸せになるんだって」
「ほんと?」
「病気も治るって聞いたことあるよ」
海千留はその話に目を輝かせ、隣の碧を見た。
「碧、一緒に探しに行かない?」
碧は一瞬ためらったけど、すぐに笑って答えた。
「うん、いいよ。でも簡単には見つからないだろうな」
放課後、二人は校庭や近くの草むらをくまなく探した。
「ここにはないね」
「もうちょっとあっち行ってみよう」
けれど、四葉のクローバーはなかなか見つからず、日が傾く頃には二人とも疲れていた。
「ここにもない…」
「こっちはどう?」
日に日に夕陽が赤く染まる空を背に、探すけど四葉のクローバーは見つからない。
海千留の表情は少し落ち込みながらも、碧は黙って一緒に歩いた。
「今日はもうやめようか」
海千留がぽつりと言った。
「どうせすぐ見つかるさ」
そう言いながらも、碧は心の中で諦められなかった。
“これを見つければ、千留ちゃんの病気が治るかもしれない”
そう信じていた。
碧は海千留に内緒で、毎日学校が終わると一人で必死に探し続けた。
草むらの奥、踏み分けられた小道の先、少しずつ歩幅を狭めながら。
次の日も、その次の日も、学校が終わると誰にも言わず一人で探し続けた。
そしてある夕方、疲れた足取りで海千留の部屋を訪れた。
「ほらよ」
そう言って、素っ気なく手のひらに小さな四葉のクローバーを乗せて差し出した。
海千留の顔に一瞬、ぱっと明るい笑顔が浮かんだ。
「ありがとう、碧」
でも碧は顔を背けて、照れ隠しのようにそっけない声で言った。
「別に…大したことじゃないし」
夕陽の光が二人を優しく包み込み、まるで時が止まったかのように静かな一瞬が流れた。
でも碧は、照れ隠しに顔を背けてそっけない態度をとった。
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あいりゃに話すとき、海千留はその日々の小さな思い出を静かに振り返った。
「全然知らないところで、
碧は、私のために何度も何度も四葉のクローバーを探してくれたんだ。
『これがあれば、私の病気が治るかもしれない』って信じて……」
彼女は遠い目をして、微笑んだ。
「小さな手で一生懸命探してくれる姿を思い出すと、胸があったかくなるの。碧のおかげで、どんなに辛くても、私はいつも通り笑えてたんだよ。」
海千留は小さな咳をしながら、飾られている四葉のクローバーを嬉しそうに眺めた。




