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【第10話】旧国家軍事圏

旧国家軍事圏の広大な司令室。

高精度モニターには、海洋深部からの謎の異種生物が旧国家の艦艇群を襲う映像が映し出されている。

司令官の高野楓は厳しい表情を崩さない。


海はもはやただの水域ではない。

旧国家軍事圏の俺たちにとって、それは無数の影が潜む戦場だ。


潮田潤は、最新鋭の搭乗型兵器から降り、広大な海域の空を睨みつけた。

「──あの連中は油断できねえ。

やつらは海を利用して、我々の通信網や補給線を寸断する。

陸の戦力だけじゃ追いきれない。」


「敵は明らかに通常の海洋生物ではない。しかも我々の通常兵器が効かない」


隣の三橋が腕組みしながら答える。


潮田「戻りました」

入海「潮田中尉!」

潮田「搭乗型兵器で応戦しましたが、あの異種の強さは予想以上です」


拓海はモニターの拡大映像に目を凝らしながら言った。


拓海「敵の侵攻速度は上がっている。これ以上遅らせれば我が艦隊は壊滅です」


彼らにとって、搭乗型兵器のパイロットたちは、旧国家の未来を背負う可能性を秘めた存在であった。


核兵器を持たず、正面からの圧倒的火力では新国家軍事圏に劣る我々にとって、海洋の存在は厄介そのものだ。

文明を捨てた"海洋の彼ら"は兵器を持たずとも、海の深みに潜み、情報網を遮断し、時に奇襲をかけてくる。その動きは予測不能で、まるで海自体が敵のようだった。



大海蓮は冷静に新たな作戦案を提示した。


「この状況では、『神の杖』の使用を検討すべきです。

非核の再突入兵器、タングステンの金属棒を衛星軌道から落とすだけで、核に匹敵する破壊力があります」



入海彩音は戦車と無人機の配備状況を確認しつつ、報告する。


入海「戦車部隊と無人機群も全力投入していますが、異種は水中からの攻撃で戦車の有効範囲外を狙ってきます」



「『神の杖』の配備を急ぐべきです」


『神の杖』、軌道上からの再突入兵器は、相手に直接打撃を与えられるだけでなく、心理的圧力としても有効だ。


「海上に潜む敵の集団に見せつけるんだ。『お前たちの頭上に神の審判が降り注ぐ』と。」


旧国家軍事圏は核兵器を持たず、抑止力としてこの『神の杖』を保有している。

しかし、その使用は政治的リスクも大きく、極めて慎重に扱われていた。


「だめよ」高野は緊張を崩さなかった。


「迎撃不能の『神の杖』を落とすのは、最後の切り札」

高野司令官は静かに語った。


「だが、もし敵が我々の艦隊を壊滅させれば、それも選択肢に入る」



緊張が走る司令室の空気。

搭乗型兵器のパイロットたちが艦隊防衛にあたり、戦死の報告も入る中、旧国家軍事圏は未曾有の危機を迎えていた。


潮田「奴らは極超音速兵器も開発してる。

迎撃は極めて困難で、一発で指揮所も空母も破壊される可能性がある。

だが、極超音速兵器を保有してるのは、我々も同じだ。

だからこそ、俺たちは機動性と連携を磨かないといけない。」



この海洋からの脅威に、旧国家の兵士と指揮官たちはいかに立ち向かうのか。

核なき軍事力の限界と、人の意志が交錯する戦いが、始まっていた。



「我々旧国家軍事圏は核のボタンを握っていない。だが、それも、この地球にとっては、同じ事だ」


『神の杖』衛星軌道から落ちてくる金属棒──


「神の審判」とも呼ばれるこの兵器は、爆薬もエンジンも使わずただ重力と速度で相手の拠点を木っ端微塵にできる。

迎撃不能、目視も困難、誤認されやすいこの兵器は、外交の見えざるカードとしても機能する。



旧国家の我々が最も警戒しているのは、未だ未知の領域である"死の海"、「海洋」だ。

文明の破壊と再生を拒み、自然の海に身を委ねる海洋たちの存在は、ただの自然破壊者ではなく、異種の脅威として我々の前に立ちはだかる。


彼らは戦車や無人機、極超音速兵器をもってしても対処しきれない域に達していた。

搭乗型兵器のパイロットたちは日々、海洋からの奇襲や謎の生物的攻撃に晒されている。


潜在的なリスクを常に背負いながら最前線に立つ。

海洋の暗闇から突然襲いかかる異形の存在は、我々の搭乗型兵器の防御網すらかいくぐり、恐怖と緊張を生み出す。

敵か味方か判別不能な海洋の「人の影」もまた、情報戦と心理戦を複雑にしている。


旧国家軍事圏は、核を使わずに戦うことを誇りとし、抑止と実力行使のバランスを保とうとしていた。

極超音速兵器や「神の杖」は、その象徴だ。

これらは非核ながら破壊力を持ち、迎撃不能なため、敵の動きを封じ込める「見えざる剣」として機能する。


司令室では高野楓、三橋満、大海蓮らが指揮を執り、海洋の動向を注意深く観察しつつ、次なる一手を模索している。

この世界での戦いは搭乗型兵器、そして不確定な「海洋」の脅威が織り成す複雑な均衡の上に成り立っていた──



旧国家軍事圏の司令室に緊迫感が漂う中、通信端末が一斉に点滅した。


「緊急通信。新国家軍事圏より正式な声明が入りました。内容は……」


三橋満が言葉を切り、全員の視線がモニターに集中する。



「新国家軍事圏は、海洋異種との限定交戦状態に入ったことを宣言しました。

さらに、EMP核兵器、高高度核爆発兵器の配備準備を進めている模様です」


高野楓の眉が一段と深く寄る。

「EMP核兵器……。高濃度放射線による大気汚染も辞さない考えか」

「通信網の壊滅、電子機器の完全麻痺を狙っているんだろう」


大海蓮が冷静に付け加える。


「それだけではない。

高高度核爆発は、電磁波による広範囲の電子機器停止を引き起こすだけでなく、放射線による海洋汚染も避けられない。

海の生態系は致命的な被害を受ける」



入海彩音は怒りを抑えきれない様子で言った。

「あの連中は我々の恐怖の根源、海洋異種だけでなく、この世界の残された“海”さえも破壊しようとしている!」


司令室の空気が一気に張り詰める。


潮田潤が拳を握りしめ、低く唸る。

「まさに海を“汚す”つもりだな」


「彼らの核兵器使用は絶対に許されない。新国家のその暴挙は、我々の存続と、この世界の未来への裏切りだ」



潮田「俺たちは絶対に黙って見過ごさない」


司令室のパイロットたちも覚悟を新たにした。

「我々旧国家軍事圏は、核のボタンを持たずとも、残された海と人類を守る盾となる」


高野は司令室の皆を見渡し、決意を宣言した。


「我々は、彼らのEMP核兵器による高高度爆発に対抗し、全力を尽くす。

新国家の武力行使が海を汚染し、残された命を絶つなら、その暴走を止めることは我々の責務である!」




その言葉に、司令官・高野楓の厳しい眼差しが強く輝いた。

「我々は、"残された海"と、この“死の海”を決して渡さない。」


モニターには、波間から浮かび上がる異種の影と、遠く軌道上を巡る「神の杖」の衛星が映し出されていた。世界の未来を懸けた戦いが、新たな激化のフェーズに入った。



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