プロローグ
かつて、この惑星は“青い星”と呼ばれていた。
だが今や、表層の78%の海洋が「死の水域」に分類されている。
放射性粉塵が吹き荒れ、海は人類にとって“触れてはならぬ”禁域となって久しい。
マイクロプラスチック、重金属、温暖化による酸欠水域。
海は二酸化炭素を吸収できなくなり、生態系は**“還る場所”を失った**。
「海が死ぬ」=「命の再生が止まる」
これが、組織が警鐘を鳴らしていた“真の終末”。だからこそ、彼らは気付いた。
「人類が存在する限り、地球は再生されない」
「命の再誕には、“人類の縮減”と、“循環の強制”が必要だ」 とー
◆命の源=残された“聖域”としての海
地球上で唯一、**「生命の再生力」**を保持する最後の海域。
高濃度放射線や異原始を含まない"残された海"の存在。
この海だけが、「自己修復能力」と「進化促進因子」を保有している。
「再生酵素」「環境適応RNA」「高密度生命帯」
これらは、放射線に蝕まれた人類にとって“救い”であると同時に、
**限られた支配層にとっての“資源”**でもあった。
だが――この“生命の海”は、すでに人類のものでなくなっていた。
新国家軍事圏が誕生してから数百年。 海洋に適応した生命が現れる。
地上を支配した人類が再生海域に触れるたび、
海洋の異種――海洋で進化した生物は警告と反撃を繰り返してきた。
この海はもはや“死の領域”。
それは「人類にとって入ってはならない異界」と化していた。
海洋種族は沈黙を守る。 彼らの言語も構造も、もはや地上では翻訳できない。
交渉もできず、ただ制裁だけが行われる。
人類は、残された土地と海域で生きていくために、
生存競争の中で最も効率的な種のみを未来に残そうとしていた。
戦争を選別の手段として。
地上の大半はこの原理に従って再編され、不要な民は声を上げながらも淘汰された。
だが、新国家軍事圏にも、一つだけ管理不能な領域がある。
――海だ。
何百年も前に、原初の核戦争により大気と海洋は深く汚染されてから、
海は今も汚染され、死の領域は拡大を続けている。
地上では人類が粛々と選別を進める一方で、
海に逃れた一部の生物は“別の進化”を遂げた。
彼らと新国家は、長い戦争状態にある。
核戦争によって荒廃した世界で、人類の未来をかけた戦いが今、動き出す。