プロローグ
かつて、この惑星は“青い星”と呼ばれていた。
だが今や、放射性粉塵が吹き荒れ、海は表層の78%の海洋が「死の水域」に分類されている。
海は人類にとって“触れてはならぬ”禁域となり、生態系は“還る場所”を失った。
◆命の源である“残された海”
地球上で唯一、「生命の再生力」を保持する最後の場所がある。
それが、“残された海”“核域”と呼ばれる場所だ。
聖水が存在する唯一の場所。
汚染されていない水はここだけで、人類にとっては生命維持に必須である。
高濃度放射線や異原始を含まない"残された海"の存在。
この海だけが、「自己修復能力」と「進化促進因子」を保有している。
これは、人類にとって“救い”であると同時に、
限られた支配層にとっての“資源”でもあった。
だが――“海”は、すでに人類のものでなくなっていた。
新国家軍事圏が誕生してから数百年。
汚染された死海にも、適応した生命が現れる。
そして、人類が海域に触れるたび、
海洋の異種――海洋で進化した生物は人類に制裁を繰り返す。
この海はもはや“死の領域”。
それは「人類にとって入ってはならない異界」と化していた。
死の領域は今も拡大を続け、
海洋と私達人類は、長い戦争状態にある。
波が砕ける轟音に街が揺れる。
鉄と水の臭気が都市の空気を支配していた。
港湾に立つクレーンが、波間に浮かぶMAの影を映す。
港湾沿いの空気が、蒸気と塩の匂いで重く揺れた。
登場型兵器MAの影が、海面を蹴るように進む。
波しぶきが港のクレーンにぶつかり、ガラスが砕け、道路は縦に裂けた。
港に停泊していた貨物船は瞬時に傾き、海に沈む。
「見ろ!あれが新国家のMAだ!」
旧国家のパイロットが叫ぶ。
「くそっ……奴ら、港を制圧してやがる!」
別の旧国家のパイロットが応戦の体勢をとる。
海面に巨大な影がもうひとつ現れた。
新国家のMAが、高速で突進して旧国家MAとぶつかり合う。
鋼鉄の肢が交差し、火花と海水が飛び散る。都市の建物が振動し、瓦礫が空中を舞った。
「避けろ!右だ、右!」旧国家MAのパイロットが叫ぶ。
「無駄だ……奴らの速度は人間の反応を超えている!」
別の声が、混乱した港湾にこだまする。
全長二十メートルを超えるその装甲は、赤黒く脈動する聖水コアを内包し、光の隙間から不気味な蒸気を吐き出している。
港湾沿いの高層ビル群を背景に、MAの影が海面を滑るように進む。
装甲の隙間で赤黒く脈動する聖水コアが、暗い空に不気味な光を投げかけた。
「次の攻撃が来る!」
旧国家軍事圏のパイロットの叫びが、波しぶきにかき消される。
謎の巨大生物「海洋」と対峙するMAは人間の反応を超越していた。
鋼鉄の肢が海面を滑り、倉庫を粉砕し、瓦礫と海水の嵐を巻き起こす。
衝撃波に建物が悲鳴を上げるように崩れ落ち、港湾の灯は波飛沫に飲まれて瞬時に消えた。
MAは反応するように一歩、また一歩と岸壁を蹴る。
港に停泊していた貨物船が一瞬で傾き、海面に沈み込む。
飛び散る波しぶきが高層ビルの窓を叩き割り、道路は縦横に裂け、街灯が一瞬で消えた。
「クソッ、こんな速度……!」
対峙するパイロットが操縦桿を握りしめる。
MAは人間の反応を凌駕し、鋼鉄の肢が海面を滑り、港湾の倉庫を粉砕した。
瓦礫と海水が飛び散り、空気が蒸気と塩の匂いで重い。
突如、MAが港の防波堤を蹴り飛ばし、海水が飛沫となって周囲の建物に叩きつけられた。
コンクリートの破片が空中を舞い、道路は縦に裂ける。
岸壁に停泊していた貨物船が一瞬で傾き、海に沈み込む。
街の灯が水煙の中でちらつき、海と陸の境界が瞬時に溶けた。
「俺たちじゃ……太刀打ちできねえ!」
別のパイロットが叫ぶ。だがMAは止まらない。
脈打つ聖水コアの光が海と都市を蹂躙し、まるで街が生き物のように振動する。
突如、MAが高速で突進。
港のクレーンが折れ、建物のガラスが砕け散る。
道路はまるで地割れした地面のように裂け、車両が海へと弾き飛ばされた。
パイロットの息が荒くなる。
「うわっ、左だ、避けろ!」
「無理だ!あいつ、完全に人間の反応速度を超えてる!」
旧国家のMAも応戦するが、衝突するたびに火花が散り、海水が爆発のように飛沫をあげる。
衝撃波に耐えきれず、港湾沿いの倉庫が瓦礫の雨とともに崩れ落ちた。
高層ビルの影を駆け抜けるたび、波が崩れ、道路が裂け、街はMAの通過とともに崩れ落ちる。
遠方の岸壁の上で、新国家の研究員が双眼鏡越しに観察する。
MAの戦闘を目の当たりにしながら、彼は小さくつぶやいた。
「……これは……限界だ……」
彼ー新国家軍 神崎の視線の先で、
MAは都市と海を縦横無尽に駆け抜け、破壊の連鎖を止める気配すらない。
「動け……動けえぇっ!」
パイロットが最後の力を振り絞り、MAは無情に突進を続ける。
波と瓦礫が渦巻き、港湾の水面が赤黒く光る。
都市と海が一体化した戦場の中、機械と生物が溶け合ったようなMAの姿が、見る者すべてを圧倒した。
「や、やめろ!こいつ……速すぎる!」
別のパイロットが叫ぶ。だがMAは止まらない。
脈打つ聖水コアが、海と都市を蹂躙し、街の建造物を生き物のように振動させる。
岸壁の上で、新国家の研究員が双眼鏡を握りしめ、荒い息を漏らした。
「あのMAのパイロット、もう限界ね。
あそこまでいくと、多分もう視力も失ってるわよ」
髪の毛を掻き上げながら、新国家 楠は双眼鏡を肩にかける。
「こんなので、次に来る海洋に勝てるのかしら...」
「確かに人間の域を超えてしまっているな」
神崎は楠の双眼鏡を奪い、MAを見つめる。
「……MAだけでは、もう限界か……」
彼の視線はMAの戦闘を追いながら、密かに作戦端末に指を走らせる。
研究員の心中には、まだ誰も知らない計画の文字が浮かぶ――「生物兵器計画」。
「……人間が操る兵器には、もう頼れない……」
彼の声は潮騒にかき消される。
だが、MAの破壊の光景が、研究員に確信を植え付けた。
海洋由来の聖水を使った兵器は凄まじいが、限界がある。
限界を超えるには、人間を介さず、思考する兵器が必要だ――
MAが港湾の倉庫群を薙ぎ払う。
瓦礫と波が渦巻き、街の海岸線が崩れ落ちる。
パイロットの声が、戦場の轟音に埋もれてなお聞こえる。
「人にはとても耐えられない」
MAの足元で海と都市がひとつに溶け、破壊の連鎖は止まらない。
見る者すべてが圧倒される中、新国家の研究員は小さく呟いた。
「……次は、人間を必要としない兵器だ」
遠く海上の波しぶきが赤黒く光る。
核戦争によって荒廃した世界で、人類の未来をかけた戦いが今、動き出す。