第一章(1):世界の危機、悪魔ヴェクス現る
「…悪魔ヴェクスが現れた!よいか!お前たち勇者がヴェクスを消滅させよ!」
創造神ガイア様から、悪魔ヴェクス出現について告げられた、その時。私たちは、世界の危機に、真正面から立ち向かう覚悟を決めた。
世界の守護者として選ばれた身。
この脅威から逃げるなんて選択肢は、私たちには、これっぽっちもなかった。
ただ、創造主であるガイア様から託された使命を果たすため、悪魔ヴェクスへと立ち向かう。それが、私たちの全てだった。
佐倉花としての、前世の知識…
私が愛読し、プレイし続けた物語の中では、「悪魔ヴェクスを五光の勇者たちが倒し、世界の平和を護る」というストーリーだったはずだ。
その未来を知っていた私は、この世界に来てから、自分の実力を上げるため、文字通り身を削るような辛い訓練にも耐え、懸命に努力を重ねてきた。
幸い、この勇者セラフィナの力は偉大で、私が訓練すればするほど、その力は目に見えて大きくなっていったのだ。
前世で何度も何度もコンプリートした、「魔法使いの王ルシアンと四人の勇者の物語」のゲーム。
あのゲームでは、聖剣の使い手セラフィナは、訓練すればするほど、HP、パワー、スキルがぐんぐん上がる設定だった。
今の私は、想像を絶するほどの訓練を積んだ自負がある。
だから、HP、パワー、スキル共に、ゲームの最終盤に匹敵するかなりの数値になっているはずだ。
ゲームの経験上、このくらいの数値まで持っていけば、きっとヴェクスを倒せる。
ストーリー通りなら、私たち五光の勇者の力をもってすれば、絶対にヴェクスは倒せるはず…私は、そう信じて疑わなかった。
そして、ついに、悪魔ヴェクスがこの世界に降り立った。
その姿は…形容しがたい黒い泥の塊だった。
うごめく闇の渦そのもの。
そこから放たれる気配は、世界の、そして人間の全ての悪意、絶望、憎悪を煮詰めて凝縮したような、悍ましい邪悪さだった。
ヴェクスが触れたものは、無機物である街や大地も、そして温かい命すらも、見る見るうちに汚染され、粘着質な泥へとドロリと崩壊していく。
悲鳴が響き渡り、一瞬にして世界は瓦礫と絶望、そして黒い泥に塗り替えられていく。
人間の負の感情を吸い上げるたびに、ヴェクスは巨大に、さらに強大になっていくのが分かる。
私たちの、私たちのルシアン様がいる、この愛する世界が、文字通り、終焉を迎えようとしていた。
私の、私の愛する推しの世界が…!
「あれが…ヴェクス…こんなものが、本当に存在するなんて…!」
アルドロンさんが、そのおぞましい姿を見て、声を震わせた。
大賢者としての彼の膨大な知識をもってしても、悪魔ヴェクスの存在は、世界の摂理から外れた、理解不能な脅威だったのだろう。
「許せない…!こんな、こんな…こんな世界の悲鳴、聞きたくないわ!」
ローゼリアちゃんの優しい瞳に、強い怒りの炎が燃え上がった。
彼女の慈愛に満ちた癒やしの心が、世界の悲鳴と人々の苦しみに強く反応しているのが、痛いほど伝わってくる。
ローゼリアちゃん、マジ天使…!
だけど、ヴェクスに対する強い怒りの顔も、世界を護ろうとする強い意志が感じられて、すごく素敵だ。
私たち五光の勇者は、悪魔ヴェクスの出現を目の当たりにし、迷いは一切なくなった。
だって、ここにあるのは、ルシアン様が誰よりも護ろうとしている世界だもの。
創造神ガイア様の忠実な騎士として、世界の守護者として、そして何よりも、私の世界の中心であるルシアン様の傍に立つ者として、この脅威から目を背けるなんて、できるはずがない!
私たちの、私たちのルシアン様が愛するこの世界を、絶対に守り抜くんだ!