第五章(3):高台の再会、そして残された疑惑
アルドロンさんの緑の宝珠が覚醒した。それは、もう「ただの珠」ではない。
ルシアン様が私たちに遺した、生きている道標として、次の目的地を、微かな光の筋で優しく示している。私たちは、その光の導きに従い、再びてくてくと旅を始めた。
アルドロンさんの宝珠が杖に収まったことで、彼の知性の輝きが増し、なんだか以前にも増して落ち着いた、本物の賢者オーラを全身から放つようになっていた。
頼もしいアルドロンさんが帰ってきた!
道中、私たちはアルドロンさんの力の回復について色々と聞いたんだ。
「アルドロンさん、体が軽いって本当ですか? 前みたいに、ジャンプとか、高く飛べますか?」
ローゼリアちゃんがキラキラした瞳で尋ねた。
彼女はアルドロンさんの変化を、子供のように純粋な目で喜んでいる。
「ああ。転生した当初は、前世の大賢者としての知識だけが先走って、体がそれに全くついてこない、なんとも歯がゆい状態だったが、今は違う。宝珠が私の魔力回路を再構築し、体が前世の全盛期に近い状態になったようだ。ジャンプか……ふむ、興味深いな。後で試してみるか。」
アルドロンさんは冷静に答えるけど、その声には確かに喜びが滲んでいるのが分かる。
私はルシアン様のアクスタの黒いお守り袋を胸に抱きしめ、手には、まだ珠のままの赤い宝珠が。ローゼリアちゃんは桃色の宝珠を大切に握りしめていた。
私たちの心は、ルシアン様との再会、そしてカスパール君の安否を祈る気持ちで満たされていた。
その日、私たちはとある村の近くに差し掛かっていた。
しかし、村からは悲鳴が上がり、黒い煙が空に立ち上っている。
「あれは……ヴェクスの残党か!?」
アルドロンさんが、その場の空気に異変を感じ取った。
村は、禍々しいオーラを放つ魔物たちに襲われているようだった。
***
同じ頃、その村を見下ろす高台に、魔物を従えた、あの男が立っていた。
男は、村が襲われる様子を静かに見つめている。
その時、彼の視界に、三つの姿が飛び込んできた。アルドロン、セラフィナ、そしてローゼリアだ。
彼らは村の危機に気づき、迷うことなく魔物へと向かっていく。
「……来たか」
男の口元に、どこか皮肉めいた笑みが浮かぶ。
セラフィナが聖剣ヴォーパルブレードを構え、ローゼリアが桃色の宝珠を掲げ、アルドロンが杖を振るう。そして、彼の視線が、アルドロンの杖の先端に収まった緑の宝珠を捉えた。
「フン……やはり覚醒しやがったな、あのジジイ」
彼の肩に、ピンク色のフワフワした小さな影が身を寄せ、「キュ?」と小さく鳴いた。
男の瞳の奥で、紫色の光が揺らめく。その光は、かつての仲間に向けられた、複雑な感情を宿しているようだ。
***
私たち三人は、ヴェクスの残党と対峙する。
覚醒したアルドロンさんの力は、想像以上だった。
アルドロンさんは、覚醒した緑の宝珠の力で、広範囲の魔法を瞬時に展開し、魔物の群れを一掃する。
私も、聖剣ヴォーパルブレードの真の力をまだ引き出せていなかったが、その一振りで残った魔物を次々と光の粒子に変えていった。
ローゼリアちゃんも、まだ宝珠の力が完全でなくとも、私たちを信じ、村人を守ろうと懸命に動く。
魔物たちは瞬く間に光の粒子と化し、村はわずか数分で静けさを取り戻した。
村は救われ、村人たちは安堵の声を上げた。
「そこにいるのは誰!?」
私が、高台に視線を向け、叫んだ。
私は、一瞬、遠目に、黒い影が見えたような気がしたのだ。
私の叫びに、アルドロンさんとローゼリアちゃんもハッと気づき、高台を見上げた。
しかし、そこには誰もいなかった。




