第五章(1):古き知識と、新しい旅立ち
私たちは、ルシアン様と共に過ごし、たくさんの思い出が詰まった、あの白亜の城跡を後にした。
かつての輝きはもうないけれど、ここから私たちの新たな旅が始まるんだ。
宝珠の導きに従い、転生した私たち勇者たちは、まず自分たちの現状を把握する必要があった。
アルドロンさんが、自身の緑の宝珠をじっと見つめ、眉をひそめる。
「どうやら、宝珠はまだ完全に覚醒していないようだ。本来の能力は発揮できない。まずは、それぞれの宝珠を覚醒させなければ、ルシアンの力を完全に辿ることも難しいだろう」
そう、アルドロンさんが指摘するように、私たちの宝珠は、私たちが前世で手にしていた頃のような、強力な魔力を宿してはいなかった。ただ、柔らかな光を放ち、特定の方向を示しているだけだ。
それでも、その光こそが、ルシアン様へと続く道しるべであると信じ、私たちは光に従って冒険を始めることにした。
転生したこの時代は、私たちが悪魔ヴェクスと戦っていた頃から、もう三千年という長い時が流れているらしい。
かつての魔法が当たり前の、煌びやかな世界から、人々の生活は大きく変わっていた。
前世の日本の感覚からすると、テクノロジー的にはすごく遅れている感じもするけれど、かつての私たちの時代と比べると、魔法技術は衰退している代わりに、人間独自の、何というか「生活の知恵」みたいな文明が発展している感じだ。
石造りや木造の建物が多いのは変わらないけど、街灯は魔力ではなく油を使ったり、遠くまで荷物を運ぶのに丈夫な馬車が主流だったり。
良くも悪くも、「ファンタジー世界、ちょっとだけ進んで、だけど魔法の力が薄れたバージョン」みたいな感じだった。
おそらく、世界の中心であり、魔法使いの王であったルシアン様がいなくなったことも、魔法技術の衰退に大きく影響しているのかもしれない。
とりあえず、この時代の「お金」(ギルという単位らしい。お!RPGみたいでちょっとテンション上がる!) とか、旅に必要な最低限の服とか荷物を、宝珠に宿るわずかな魔力を駆使して(チート!)、サクッと調達。
見た目だけは、もう遥か昔の伝説の勇者じゃなくて、この時代に生きる、普通の若者、って感じになって旅に出るわけだ。
私の鮮やかな紅い髪と緑の瞳は、この世界では目立つ方だけど、まあ、これくらいは個性ってことで許容範囲かな!
私たちは、宝珠が示す方向へ向かって、えっちらおっちら旅を始めた。
かつての五光の勇者だけど、この時代では伝説上の存在。
移動手段は、この時代の標準に合わせるしかない。
整備された街道を行く丈夫な馬車に乗ったり、ゆったりと川を下る船に乗ったり、馬車や船がない、もうホントにヤバい時はひたすら自分たちの足で歩いたり。
現代日本の電車や新幹線、飛行機といった高速移動手段に慣れた身としては、正直、移動が遅くて……!
もどかしさを感じることもあった。
道中目にする景色は、正直「誰だよ、お前!」ってくらい変わっていた。 かつて私たちがヴェクスと戦った、あの見慣れた世界の面影はほとんどない。
石造りや木造の建物が密集する古風な街並み、人々の手でキッチリ区画整理された農地。
それは、三千年という途方もなく長い時間が、私たちの知らないところで、緩やかに形を変えながら、そして人々の営みによって作り上げた、新しい人間界の姿だった。
旅の途中で出会う人々は、私たちをただの旅人として見てくる。遥か昔の伝説の勇者だなんて、誰も知らない。
それが、なんだか新鮮だったり、少し寂しかったり。私たちは、この時代の人間と交流し、彼らの生活や文化に触れる。
その人々が護ろうとしている世界は、もうかつての私たちがルシアン様と共に命を懸けてヴェクスと戦った、あの世界じゃない。長い時を経て変化し、多様な価値観を持つ人々が生きる、新しい世界なんだ。
彼らの当たり前の日常、ささやかな幸せを守ることも、きっとルシアン様が護りたかったものだろうし、私たちが果たすべき新たな使命なのだ。
そして、アルドロンさんが持つ緑の宝珠の輝きが、他の二つの宝珠よりも強く、一際鮮やかにその方角を示すようになった。
それは、アルドロンさんがかつて縁のあった、とある古の地を指し示しているようだった。




