第四章:(2):螺旋の輪、再転生
ルシアンが、あの壮絶な魔法で悪魔ヴェクスと共に異界に旅立ってから……
人間界では、あまりにも長い時間が流れた。
数百年……いや、千年を超えたかもしれない。
気の遠くなるような、長い、長い時が流れ、かつてヴェクスが暴れ回った戦いの痕跡も、大半が自然に還り、あるいは新たな建物に覆われていた。
街の姿は変わり、古い城壁の跡が遺跡となったり、かつての街道が深い森に飲まれたりしていた。
文明は、あの頃から劇的に発展したというよりは、緩やかに形を変え、歴史を積み重ねていったようだ。
五光の勇者のことも、もはや歴史の教科書に載る、遠い遠い伝説上の存在になっていたはずだ。
そして、三千年の時が過ぎ去った……。
突然、世界の各地で、まばゆい光が瞬いた。
それは、まるで、奇跡、あるいは運命の再来を告げる光だった。
***
私、聖剣の使い手セラフィナ……いや、元、日本のオタク女子高生、佐倉花!
見慣れない、しかしどこか懐かしさを感じる……古い街並みの一角で、静かに、意識を取り戻した。
体に宿る感覚……見慣れた紅い髪……緑の瞳……。
その体は、悪魔ヴェクスと戦っていた、あの頃の、聖剣の使い手セラフィナ……そのものだった。
「……え? ここ……どこ……?」
混乱する頭の中に、怒涛のように記憶が流れ込んでくる。
それは、聖剣の使い手セラフィナとしての、あの頃の記憶だった。
ルシアン様のこと、アルドロンさん、ローゼリアちゃん、カスパール君のこと。
ヴェクスとの壮絶な戦い、ルシアン様の自己犠牲……そして、彼を失った、あの引き裂かれるような悲しみ。
……それだけじゃない。
もう一つの記憶も、同時に、鮮明に蘇る。
日本の佐倉花としての、全ての記憶。
ルシアン様を最推しとして生きていた、楽しかった日々。
異世界に転生したいと願ったこと。
「え……私……日本の佐倉花で……この世界のセラフィナで……? 転生……? え、また……!? また、セラフィナとして転生したの!?」
混乱は極限に達した。
私は確かにセラフィナとしての生涯を終え、死んだはずだ。
それが、またセラフィナとして、しかも前世(佐倉花)の記憶を持ったまま、この数千年後の世界に……?
どういうこと!?
これ、夢じゃない……?
傍らには、私の相棒である聖剣ヴォーパルブレードが横たわっていた。
そして、右手には、使い慣れた、お手製のお守り袋に入れられているルシアン様のアクスタが、しっかりと握られていた。
左手には、あの時ルシアン様が私に託してくれた、赤い宝珠が珠のままであることに気づく。
宝珠は、ルシアン様との繋がりを証明するように、私の手の中で、温かい光を放っていた。
「この宝珠……ルシアン様が……!」
その宝珠の光を見たとき、私の混乱していた頭の中が、少しずつ整理された。
そうだ。私は、五光の勇者セラフィナとして転生した。
そして、前世の記憶も持っている。
そして、この宝珠は……ルシアン様が、私たち勇者に遺してくれたもの……。
ルシアン様は……?
生きてるの……?
会えるの……?
私たちの物語は、まだ終わってないの……?
***
同じ頃、アルドロンもまた、世界のどこか……古い遺跡のような場所で、静かに目を覚ました。
白く長い豊かな髭と髪、深遠な茶色の瞳。大賢者アルドロン、あの頃の姿、そのものだった。
過去の膨大な知識と経験、そしてルシアンと共に過ごした、あの頃の記憶が全て、鮮明に戻ってくる。
手に握られた賢者の杖と、珠のままの緑の宝珠が、静かに、だけど確かに輝いている。
彼はすぐに状況を理解しようと、冷静に思考を巡らせた。
「転生……か。どうやら、私が思っていたよりも、遥かに長い時が流れたようだな……そして、この宝珠……ルシアンが……我々に遺してくれた……」
***
そして、ローゼリアも。
彼女は、古びた大聖堂の、静かで神聖な部屋で意識を取り戻した。
サンゴ色の髪に、海のような青い瞳。大僧侶ローゼリア、あの頃の可憐な姿、そのものだった。
ルシアン、セラフィナ、アルドロン、カスパール……大切な仲間たちの記憶が、まるで昨日のことのように、彼女の胸いっぱいに広がった。
これから再会できるであろう喜びと、突然の状況への困惑と不安で、瞳から温かい涙が溢れてくる。
手に、ルシアンから託された桃色の宝珠が、彼女の心を映すかのように、優しく光っていた。
「これは、ルシアン様の宝珠……! カスパール君……生きていて!」
それぞれの場所で目覚めた勇者たちの心には、ルシアンへの深い思いと、再会の願い、そしてカスパールの無事を祈る気持ちが溢れていた。
運命の再会は、もう始まっているのだ。




