夕暮れの寄り道と、ひとつの秘密
バスに揺られて三十分ほど。
温泉街の灯りが遠ざかり、代わりに街のネオンが近づいてくる。
「腹減ったなー」
隼哉が伸びをしながら言う。
「さっき足湯でリラックスしたら、逆にお腹空くよね」
晴也が笑う。
「駅前でなんか食ってく?」
「賛成」
颯が即答した。
六人は駅前の商店街に降り立ち、ふらふらと歩き出す。
夕飯時の匂いが漂ってきて、どれも美味しそうだ。
「ラーメン?焼き鳥?定食?」
「なんでもいいけど、あんまり重いのはなぁ……」
慎一がぼそっと言う。
「じゃあ軽めのとこ探す?」
「いや、軽めって言ったけど……」
慎一は少し言いにくそうに続けた。
「……実は、ちょっと話したいことがあって」
その言葉に、全員の足が止まった。
「え、珍しいな。慎一から?」
大翔が目を丸くする。
「うん。まあ、そんな深刻な話じゃないんだけど」
慎一は、照れたように視線をそらした。
「……ちょっと、聞いてほしいことがある」
その声は、普段より少しだけ弱かった。
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### ■ 小さな喫茶店で
六人は、商店街の端にある古い喫茶店に入った。
木の匂いがして、落ち着いた空気が流れている。
「で、話って?」
颯がコーヒーをかき混ぜながら尋ねる。
慎一は、少しだけ深呼吸してから口を開いた。
「……最近さ、夜眠れないんだ」
その言葉に、凌生が眉を上げた。
「眠れないって、どれくらい?」
「一週間くらい。寝つけないっていうか……頭がずっとざわざわしてて」
「ストレス?」
隼哉が真剣な声で聞く。
「たぶん。学校のこととか、家のこととか……いろいろ重なって」
慎一は、カップの縁を指でなぞりながら続けた。
「今日の足湯で、久しぶりに“あ、落ち着いた”って思ったんだよね。だから……なんか、言っときたくて」
その言葉に、全員が静かになった。
「言ってくれてよかったよ」
晴也が柔らかく言う。
「俺ら、別に聞くくらいしかできないけどさ」
「それで十分だよ」
慎一は、少しだけ笑った。
「なんか、こうやって話すだけでちょっと楽になる」
「じゃあさ」
大翔がぽつりと言った。
「冬のこたつ会、絶対やろうな。あったかいとこで、のんびり話せるやつ」
「うん。楽しみにしてる」
慎一の声は、さっきより少しだけ軽かった。
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### ■ 帰り道、ひとりの視線
店を出ると、夜風がひんやりと頬を撫でた。
「慎一、今日はちゃんと寝られるといいな」
颯が言うと、
「まあ、眠れなかったらまた話せばいいし」
隼哉が肩を軽く叩いた。
「……ありがと」
慎一は照れくさそうに笑った。
その横で、凌生がふと空を見上げる。
「足湯の効能、やっぱすごいな」
「お前はなんでも効能にするな」
晴也が笑う。
「いや、でもさ。今日みたいに誰かがちょっと弱音吐けるのも、“共温感”の延長なんだよ」
「また始まった」
大翔が呆れたように言う。
「でも……悪くないな」
慎一が小さくつぶやいた。
その言葉に、六人の歩幅が自然とそろった。
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夕暮れの足湯の余熱は、
もう足には残っていない。
けれど、
胸の奥にはまだ、
あたたかいものが静かに灯っていた。




