こたつの効能(未遂編)
バス停に着く頃には、空はすっかり夕暮れ色に染まっていた。
街灯がぽつぽつと灯り始め、温泉街のざわめきが遠くに薄れていく。
「でさ」
まただ、と全員が思った。
凌生が、さっきと同じ“語るぞ”の声色で口を開いた。
「こたつの効能って──」
「まだ冬じゃねぇって言っただろ」
颯が即座にツッコむ。
だが凌生は、止まらない。
「いや、でもさ。こたつって“熱源+密閉空間+共有”の三拍子が揃ってて──」
「なんか理屈っぽいけど、ちょっと聞きたい気もする」
大翔が苦笑しながら言う。
「ほら、興味あるじゃん!」
凌生が嬉しそうに身を乗り出す。
「こたつってね、実は“巣作り本能”を刺激するんだよ。あったかい場所に集まるっていう、動物的な安心感。だから家族とか友達とか、親しい人と入ると、自然と距離が縮まる」
「へぇ……」
慎一が、ほんの少しだけ目を丸くした。
「つまり、こたつは“人間関係を円滑にする装置”ってこと?」
「そうそう!こたつ会議とか、こたつで鍋とか、全部理にかなってるわけ」
「お前、ほんとに博士になれるぞ」
晴也が笑う。
「でもさ」
隼哉がふと、真面目な声で言った。
「俺らがじいさんになっても、こたつ囲んでバカ話してるの、普通に想像できるな」
「わかる」
颯がうなずく。
「足湯もいいけど、こたつもいいよな。なんか、帰ってきた感じするし」
「そういうのが“共温感”なんだよ」
凌生が胸を張る。
「温かさを共有するって、記憶に残るんだよね。今日の足湯も、たぶんずっと覚えてると思う」
その言葉に、六人の間にふっと静かな空気が流れた。
夕暮れの風が少し冷たくて、さっきまでの温かさが恋しくなる。
「……じゃあさ」
大翔がぽつりと言う。
「次は、こたつで集まる日、決めようぜ。冬になったら」
「いいね」
慎一が微笑む。
「その時は、凌生の“こたつ講義”をちゃんと聞いてやるよ」
「任せろ!こたつの歴史から語るから!」
「やめろ、長くなる!」
颯が笑いながら肩を叩く。
バスがゆっくりと停まり、ドアが開く。
六人は乗り込む前に、もう一度だけ温泉街を振り返った。
足の奥に残る温もりと、胸の中に残る言葉の余熱。
それらが混ざり合って、今日という日がそっと形を作っていく。
「……冬、楽しみだな」
晴也のつぶやきに、全員がうなずいた。




