トースト・パーティー
「変わり種のトーストが食べたい」
朝、リビングにやってきた大翔が、のんびりとした口調でそう言った。
その場にいた慎一は、一瞬「ん?」という顔をしたものの、すぐに興味を惹かれたように腕を組んだ。
「変わり種って、どんなの?」
「んー……なんか普通のバタートーストとかじゃなくてさ、ちょっと変わったやつが食べたい気分なんだよね」
大翔はソファにどっかりと座り、のんびりと足を組む。
「例えば?」
「そこを慎一に一緒に考えてほしいんだよね。美味しいの作るの得意でしょ?」
無茶ぶりにもほどがある。だが、慎一は少し考えてから、ふっと笑った。
「なるほど。面白い。じゃあ、色々試してみるか」
慎一はその場で立ち上がり、キッチンへ向かった。
こういう遊び心のある挑戦は嫌いじゃない。むしろ、面白い料理のアイデアを試すいい機会だ。
冷蔵庫と食材庫を見渡す。パンはまだたっぷりあるし、具材も十分。
(よし、いける)
「大翔、甘いのとしょっぱいの、どっちがいい?」
「どっちもー!」
「まあ、そういうだろうなとは思っていたよ。じゃあ、両方作るか」
慎一はエプロンをつけ、さっそく調理に取り掛かった。
まずは甘い系。
──クリームチーズと蜂蜜、ナッツを乗せたもの。
──バナナとチョコソース、シナモンシュガーをふりかけたもの。
──焼いたマシュマロをたっぷり乗せたスモア風トースト。
次にしょっぱい系。
──アボカドを潰してレモンと塩胡椒で味付けし、目玉焼きを乗せたもの。
──ツナとマヨネーズにチーズを乗せてこんがり焼いたもの。
──ピザトーストの進化版、バジルとトマト、モッツァレラを使ったカプレーゼ風トースト。
トースターが忙しく稼働し、次々に出来上がる香ばしいトーストたち。
「……さすがに作りすぎた」
カウンターに並んだトーストを見て、慎一が苦笑する。
「大丈夫だって、全部食べられるでしょ」
大翔は目を輝かせていたが、さすがに二人では限界がある。
「よし、じゃあみんな呼ぶか」
慎一はすぐにリビングへ声をかけに行った。
すると、最初にやってきたのは沢弥隼哉だった。
「トーストパーティー?」
「まぁそんな感じだな」
「お、いいね。何がある?」
「色々あるぞ。甘いのもしょっぱいのも」
「うわ、めっちゃうまそうじゃん」
隼哉は遠慮なくカプレーゼ風トーストを手に取った。
そこへ颯がやってきた。
「なんかめっちゃいい匂いすると思ったら……お、トースト? え、慎一が作ったの?」
「俺以外に誰が作るんだ」
「確かに」
颯もすぐにツナマヨチーズトーストを手に取る。
そこへ晴也もやってきた。
「……何やってんだ」
「トーストパーティー!」
大翔が楽しそうに答えると、晴也は「は?」という顔をしたが、カウンターの上のトーストを見て、少しだけ興味を示した。
「食うか?」
「……もらう」
慎一が出したスモア風トーストを手に取ると、晴也は無言で口に運ぶ。
ひとくち噛んだ瞬間、微かに目を見開いた。
「……甘い」
「そりゃマシュマロとチョコだからな」
「でも、うまい」
「だろ?」
晴也があまり食べないような甘々なトーストだったが、気に入ったらしい。
最後に、安堂凌生もやってきた。
「うわ、すごい。何これ、全部慎一が作ったの?」
「そうだけど」
「どれ食べてもいいの?」
「好きなの取れよ」
「やったー」
凌生はワクワクしながら、アボカドエッグトーストを手に取る。
それぞれ好きなトーストを選び、みんなで食べる。
「これ、毎週やってもいいんじゃない?」
「いや、それはさすがに太るわ」
笑いながら、朝からちょっとしたパーティーのような時間が過ぎていった。




