桜餅対決!
春の陽射しが差し込むシェアハウスのリビングで、大翔はスマホを片手にぼんやりと呟いた。
「桜餅、食べたいなぁ……」
向かいのソファで本を読んでいた慎一が、顔を上げる。
「いきなりどうした?」
「ほら、春といえば桜餅じゃん? 桜も咲いてるし、ちょっと風情を感じたいな~と思って」
「なるほどな」
「でもさ、桜餅って『道明寺』と『長命寺』があるじゃん?」
「おう」
「どっちが美味いと思う?」
慎一は少し考えてから、きっぱりと答えた。
「道明寺」
大翔は即座に首を横に振る。
「いやいや、長命寺でしょ」
お互いに譲る気はなさそうだ。
「……よし、決めよう」
「決めるって?」
「実際に作って、食べ比べるんだよ」
慎一はニヤリと笑う。
「ほう、それは面白い」
「でしょ? 俺が長命寺を作るから、慎一は道明寺担当な!」
「いいぞ」
こうして、「道明寺 VS 長命寺! 桜餅対決」が火蓋を切る。
キッチンに立った二人は、それぞれの桜餅作りに取り掛かる。
慎一は道明寺桜餅を作り始めた。
「まずは道明寺粉を蒸すところからだな」
もち米を砕いた道明寺粉を水でふやかし、蒸し器でじっくり蒸す。
「このもちもち感が最高なんだよな」
蒸しあがった生地に砂糖を混ぜ、手で丸めながらあんこを包む。
「これを桜の葉で巻けば……はい、完成」
淡いピンクの粒々した生地が、桜の葉に包まれて春らしい姿をしている。
「見た目からして美味そうだろ?」
「ふふん、こっちも負けてないよ」
一方、大翔はクレープのような薄い生地を焼いていた。
「小麦粉と水を混ぜて、生地を作る。そこに少しだけ白玉粉を加えると、もちっとするんだよ」
薄く焼いた生地の上にあんこをのせ、くるっと包む。
「そして、桜の葉を巻いて完成!」
こちらはつるんとした薄皮が美しい仕上がりになった。
「ほら、道明寺と違って、しっとりした生地が魅力なんだよ!」
「ふっ、まあ食ってみないと分からんな」
テーブルの上に並べられた、道明寺桜餅と長命寺桜餅。
どちらも、桜の葉の香りがふんわり漂い、食欲をそそる。
「じゃあ、実食!」
まずは慎一が作った道明寺桜餅から。
大翔がひと口食べると、もちもちした食感が広がる。
「……うん! これはたしかに美味い。もち米のぷちぷち感がいいね!」
「だろ?」
「でも、俺は長命寺の方が好きなんだよなぁ」
今度は、長命寺桜餅を慎一が食べる。
「……なるほど。しっとりした生地が、あんこと馴染んでるな」
「ね? 薄皮とあんこのバランスが最高なんだよ」
「でも、やっぱり桜餅といえばもちもちの道明寺だろ」
「いやいや、桜餅の上品さを引き立てるのは長命寺の薄皮の方だよ!」
議論は平行線をたどる。
そして、二人は結論に至った。
「……どっちも美味いな」
「うん、それは間違いない」
どちらが勝ちというわけでもなく、二人は春の味覚を楽しむのだった。