クレープとガレット
春の風が心地よく吹き抜ける昼下がり、シェアハウスのキッチンには、三人の姿が集まっていた。颯、隼哉、そして凌生。彼らは今、クレープとガレットの違いについて議論しているところだった。
「で、クレープとガレットって、どう違うんだ?」
颯が手をひらひらさせながら尋ねる。おそらくひらひらで生地の薄さを表現している、のかもしれない。
隼哉が少し考えてから答えた。
「クレープは、あれだろ?あの薄いお菓子みたいなやつ。で、ガレットはなんか... 黒っぽいっていうか?」
凌生は軽くため息をつきながら、冷蔵庫から材料を取り出していた。
「それ、だいぶ違う。クレープは、基本的にデザートや甘いものに使う薄い生地。でもガレットは、フランスのブルターニュ地方の料理で、基本的にそば粉を使う塩味のもの。だから、ガレットはしょっぱいんだよ。」
颯は目を丸くした。
「へー! だからクレープはデザートっぽくて、ガレットは食事系ってことか!」
隼哉が少し不安げに言う。
「でも、結局どっちも薄いパンみたいなやつなんだろ?見た目似てるし、どっちも美味しそうだし、分からなくなってきた…」
凌生は笑って肩をすくめた。
「まぁ、見た目は似てるけど、味は全然違うよ。でも、よくわからないなら、実際に作ってみた方が早いよね。どうせなら、三人で一緒に作ろうか」
颯と隼哉は顔を見合わせ、同時にうなずいた。
「よっしゃー、やってみよう!」
まずはクレープから作ることに決めた。凌生が材料をテーブルに並べると、颯と隼哉も嬉しそうに手伝い始めた。
「じゃあ、まずはクレープの生地から。小麦粉、卵、牛乳、砂糖、少しのバター」
凌生は手際よく計量を始める。
「これを混ぜていくよ」
颯がふと思いついたように言った。
「クレープの生地って、ちょっとでっかい薄焼きのパンみたいな感じだよね?」
隼哉がにやりと笑って答えた。
「そうそう、ちょっと厚みがあっても美味しいかもしれないよな」
「いや、それはクレープじゃないから」
凌生がきっぱりと言う。
「クレープは、極薄が命」
混ぜる音がキッチンに響き、しばらくして生地が完成した。凌生がフライパンを温めて、薄く生地を流し込む。
「おお、すごい!」
颯が興奮したように言う。
「なんか、料理番組みたい」
隼哉も興奮気味に言った。
「確かに!でも、焼くときに気をつけないと焦げちゃうんだろ?」
「うん」
凌生はフライ返しを使いながら、軽く焼き目がついたクレープを丁寧にひっくり返した。
「焦げ目をつけすぎないように、ちょっとだけ焼くのがポイント」
やがて、数枚のクレープがフライパンから上がり、テーブルに並べられた。
「できたー!」
颯が嬉しそうに言う。
「クレープって、ホントに薄いんだな。ちょっと怖いくらい」
隼哉もそれに頷きながら、クレープの上にチョコレートや生クリームを載せていく。
「これが本場のクレープか…。すごい美味しそう!」
「甘いものはやっぱり定番でしょ」
凌生がチョコレートソースをかけながら、少し微笑んだ。
クレープが完成し、三人で一口食べると、そのまろやかな甘さとしっとりとした食感が口の中で広がった。颯が幸せそうに目を閉じる。
「これ、めっちゃ美味しい!こんなに薄いのに、しっかりと味があって…」
「確かに」
隼哉も満足そうにうなずきながら、チョコレートの滴を舐め取った。
「これ、カフェで食べるクレープそのままだ」
「次はガレットだな」
凌生はにっこりと笑った。
ガレットの準備は意外とシンプルだ。そば粉、小麦粉、卵、そして少量の塩。凌生がレシピを見ながら、手際よく混ぜ始めた。
「クレープより少し固めの生地にしないといけないんだ。」
凌生は説明をしながら、ガレット用の生地を作っていく。
颯と隼哉は、再び興味津々で見守る。生地が完成し、フライパンで焼き始めると、クレープとは違った香ばしい匂いが広がった。
「あれ、クレープと全然違う匂い!」
颯が目を輝かせながら言う。
「ガレットは、そば粉を使うから香りも強いんだよ」
凌生は生地をひっくり返しながら説明する。
「そして、食べる時には中にハムやチーズ、卵を入れることが多いんだ」
隼哉が思いついたように言う。
「おお、それ、すごく美味しそう! じゃあ、俺、チーズと卵を入れてみよ」
「じゃあ、俺はハムにしようっと」
颯もにっこりと笑う。
三人は次々にガレットを作り、焼き上がったものをそれぞれ具をのせて食べる。
「うん!」
隼哉が満足げに声をあげる。
「これ、めっちゃ美味しい!クレープもいいけど、ガレットもいいな!しょっぱくて、なんか食事って感じがする」
「だろ?しょっぱくて、食べ応えがあるんだよな」
凌生が嬉しそうに言う。
「これがガレットの良さだよ」
颯も満面の笑みを浮かべながら一口食べる。
「クレープもガレットも、それぞれに魅力があるなぁ…。今日はホントに美味しかったし、楽しかった!」
「これ、また作ろう」
隼哉が満腹そうに言った。
三人はそれぞれのお皿を片付けながら、今日の出来事を振り返った。クレープとガレット、二つの違った料理を作りながら、それぞれの個性が光る楽しい時間だった。




