イヤフォンの外側で
凌生はソファに深く腰を沈め、スマホを手に英語のリスニング教材を流していた。
"The weather today is quite unpredictable, isn't it?"
(確かに、今日の天気もコロコロ変わってたな……)
流れてくる会話をぼんやりと聞きながら、ノートに単語を書き留める。リスニングは得意な方ではないが、コツコツ積み重ねることが大事だ。
そんな風に集中していた時——
ドンッ!!!!
「……っ!?」
突然、階下から大きな音が響いた。凌生はイヤフォンを外し、驚いて周囲を見回す。
「何の音だ?」
リビングは静かだ。だが、確かに今、何かが倒れるような音がした。
凌生はソファから立ち上がり、シェアハウス内を見渡す。リビングには自分しかいない。
(誰か帰ってきたのか? それとも……)
階下に向かうと、廊下の奥で大翔が何かを拾い上げていた。
「あ、大翔? 何してんの?」
呼びかけると、大翔は振り返り、ばつの悪そうな顔をした。
「……ごめん、ちょっとやらかした」
床には倒れた物干しラックと散らばる洗濯物。どうやら、大翔が何かの拍子でラックを倒してしまったらしい。
「あー、なるほど。びっくりした、何かがぶっ壊れたのかと思った」
凌生は苦笑しながら、大翔と一緒に洗濯物を拾い集めた。
「ちょうど片付けてたら、引っかかっちゃって……」
大翔は申し訳なさそうに言いながら、畳んでいたシャツを直す。
「まぁ、大惨事ってほどでもないし、手伝うよ」
「ありがとう」
結局、二人でささっと片付け、物干しラックを元に戻した。
「これでOK……っと、じゃあ、俺はリスニングの続きを——」
「っていうか、凌生って英語の勉強してたの?」
「おう、リスニングな。イヤフォンつけてたから、余計にびっくりしたわ」
「ふーん、すごいな」
「やる気があるなら、手伝うけど?」
「うーん、それはまた今度」
大翔は苦笑しつつ、さっさと洗濯物を持って自室へ戻っていった。
凌生はもう一度イヤフォンをつけ、リスニングを再開する。
——だが、また何かが倒れる音がする。
大翔がリビングにひょこっと顔を出して、
「今度は洗濯カゴ倒した……ちょっと、一人で直せない」
と、助けを求めてきた。
結局、凌生は笑いながらイヤフォンを外し、また廊下へ向かうのだった。




