オープンキャンパス漫才 後日譚
オープンキャンパスで披露した漫才は大盛況だった。会場には笑いがあふれ、SNSでも「大学紹介漫才が面白すぎる!」と話題になった。
そして、その余波は思わぬ形で現れる。
漫才コンビ「青天井」
晴也だけがモテたのである。
「納得いかねぇんだけど」
隼哉はソファに座りながら、不機嫌そうにため息をついた。目の前には晴也がスマホをいじっている。画面をちらりと覗くと、「漫才面白かったです!」「今度学食で一緒にランチどうですか?」といったメッセージが女子たちから届いていた。
「……なんでお前だけモテてんの?」
隼也の言葉に、晴也はゆっくり顔を上げた。
「知らねぇよ」
「おかしくね? 俺たち二人で漫才やったのに、なんでお前だけ人気出てんの?!」
「だから知らねぇって」
晴也はそっけなく返しながら、コーヒーをひと口飲んだ。隼也は納得がいかず、リビングにいた仲間たちに訴えかける。
「なあ、これ不公平じゃね?」
「まぁ、晴也のほうがモテるっていうのは分かる」
慎一が腕を組みながら言うと、颯も頷いた。
「わかる。あの無骨でクールな晴也が漫才しているんだもん、ギャップ萌えって言って、女子ウケするんだよ」
「クール?」
隼哉が晴也の顔をじっと見つめる。晴也は相変わらず無表情で、特に意識することもなくコーヒーを飲んでいる。
「ギャップ萌えってのはポイント高いよ」
大翔が言うと、安堂凌生も「それはあるな」と頷いた。
「そんなにか?」
晴也は微妙な表情を浮かべたが、慎一が「お前は自覚ないだろうけどな」と笑う。
「いやいや、それでも俺だって漫才の半分を担ったわけじゃん! なんで俺には誰もメッセージくれねぇんだよ!」
隼哉の叫びに、シェアハウスの面々が考え込む。
「うーん……隼哉って、たぶん『いい友達ポジション』なんじゃない?」
颯が言うと、他のメンバーも「あー」と納得したような顔をした。
「明るくて、ノリが良くて、一緒にいて楽しい。でも恋愛対象になるかというと……」
「……友達のままがいい?」
隼哉が眉をひそめると、大翔が申し訳なさそうに「うん」と頷いた。
「ふざけんな! 俺だってカッコいいとこ見せたら、モテるはずだろ!」
その夜――。
隼也は「今の自分を変える」と決意し、仲間たちに協力を求めた。
「まずは見た目を変えよう」
颯の提案で、ファッションチェックが始まった。
「普段の隼哉って、ストリート系というか、ラフな感じが多いよな」
慎一がクローゼットを開けて服を確認する。確かに、隼哉の服はTシャツ、パーカー、デニムといったカジュアルなものが中心だ。
「もっと落ち着いた、大人っぽい感じにしたら?」
大翔がシンプルなシャツとスラックスを差し出す。
「なるほど! ちょっとオシャレなカフェにいそうな男を目指すってわけか!」
「そうそう」
さっそく着替えた隼哉。
「……なんか、お前っぽくねぇな」
晴也がぽつりと呟く。
「は? せっかくオシャレしてんのに?」
「うん、なんか……変に気取ってる感じがする」
隼哉は鏡を見た。たしかに、いつもの自分とは違う。でも、それこそが「モテる」ための第一歩なのではないか。
「いや、これはこれでアリだろ!」
次の日、隼哉はオシャレなシャツとスラックスを着て、大学へ行った。
「おはよ!」
明るく挨拶すると、クラスメイトたちは一瞬驚いた顔をした。
「……どうしたの、その服?」
「え? いや、ちょっとイメチェン?」
「へぇー、なんか大人っぽくなったね!」
「そうだろ?」
しかし――女子たちは確かに褒めてくれるものの、それ以上の発展はなかった。
昼休み、隼哉は学食で落ち込んでいた。
「なんでだ……? 服も変えたのに、俺だけモテないままじゃねぇか……」
そんな彼の横に、晴也がトレイを持って座った。
「……あんま無理すんな」
「は?」
「お前は、お前のままでいいだろ」
晴也はそう言いながら、購買で買ってきたプリンをスプーンですくった。
「で、なんでプリン?」
「甘いのが好きだから」
隼哉は思わず吹き出した。
「そういうとこだよ! ギャップ萌えの塊みたいなやつが、そりゃモテるに決まってんじゃん!」
晴也は肩をすくめた。
「別にモテようとしてねぇし」
「……チクショー」
結局、イメチェンは意味をなさず、晴也だけが人気者のままだった。
「もういいや! 俺はこのまま、楽しく生きるぜ!」
隼哉は勢いよく立ち上がり、ポジティブに開き直るのだった。
「結局、いつもの隼也が一番いいんだよ」
帰宅後、シェアハウスで仲間たちに報告すると、みんな笑っていた。
「お前がモテる日も、いつか来るさ」
慎一が肩を叩く。
「そうだよ! 隼哉は面白いし、優しいし、きっといい相手が見つかる!」
大翔が励ますと、隼也は「だよな!」と笑った。
――こうして、晴也の人気に嫉妬した隼哉の「モテ改革」は幕を閉じたのだった。




