フリマの掘り出し物
春の暖かい日差しに誘われて、沢弥隼哉はふらりと外へ出た。
「なんか面白いもんねぇかなぁ」
特に目的があるわけでもなく、気の向くままに歩いていると、公園の広場がにぎわっているのが見えた。
「ん? なんだ?」
近づいてみると、広場では小さなフリーマーケットが開かれていた。
「へぇ、フリマか。こういうの、久々に見たな」
所狭しと並べられた古着や雑貨、手作りアクセサリー、レトロな置物――どの店も個性的で、見ているだけで楽しい。
「何か掘り出し物でもあるかな?」
そう思いながら、いくつかの店を覗いて回る。
「お兄さん、これなんかどうだい?」
ふと足を止めたのは、年配の男性がやっている古道具の店だった。
「これって……掛け時計?」
「そうそう。ちょっと古いけど、まだちゃんと動くよ」
隼哉が手に取ったのは、レトロな木枠の掛け時計だった。
「お、これいいな。シェアハウスのリビングに合いそう」
リビングには一応デジタル時計があるが、こういうアナログなものも雰囲気が出ていいかもしれない。
「おじさん、これいくら?」
「うーん、500円でいいよ」
「お、めっちゃ安いじゃん」
即決で購入し、袋に入れてもらった。
「他に何か面白いものないかな……」
さらに歩いていると、今度は手作りの雑貨を並べたブースが目に入った。
「お兄さん、これどうですか?」
店番をしていた若い女性が声をかけてきた。
「これは……?」
「木のスプーンとフォークのセットです! 手作りで、一つずつ形が違うんですよ」
「へぇ、いい感じだな」
木のぬくもりが感じられるスプーンとフォークは、どれも味があって可愛い。
「慎一とか、こういうの好きそう……」
シェアハウスのキッチンにも合いそうだと思い、「よし、これも買います!」と朗らかな声で買い物を楽しんだ。
「意外といい買い物したなぁ」
時計とスプーンセットを手に、満足そうに歩く隼哉。
シェアハウスに戻ったら、みんなに見せてみよう――そんなことを考えながら、公園を後にした。
「ただいまー」
シェアハウスに戻ると、リビングには大翔と慎一がいた。
「おかえり。どこ行ってたの?」
ソファに座っていた大翔が、興味深そうに顔を上げる。
「公園でフリーマーケットをやってた。だからちょっと覗いてきたんだ」
「へぇ、フリマ。なんか買った?」
「おう、ほらこれ」
隼哉は袋から木枠の掛け時計を取り出した。
「おおっ! かっこいい!」
大翔がソファから立ち上がり、時計をまじまじと見つめる。
「すごく雰囲気あるー。レトロでいい感じ」
「リビングに置いたら合うかなーと思ってさ」
「絶対合うよ。これ、どこのメーカーのやつ?」
「そこまでは見てなかったな……」
大翔は慎重に時計の裏をひっくり返し、じっと観察する。
「たぶん、昭和の終わりか平成初期くらいのやつじゃないかなー」
「そんなに古いのか?」
「うん、針のデザインとか、ガラスの厚みとかを見た感じ、ちょっと昔の時計っぽい」
「へぇ……」
「こういうアンティークなものって、魅力があるんだよな。実家にも古い掛け時計があったし、なんか懐かしい」
「そうなんだ」
「リビングに飾るなら、どこがいいかな?」
「やっぱりテレビの上とか?」
「それがいいかも。目につく場所がいいし」
二人は時計をどこに飾るか相談しながら、壁の位置を確認し始めた。
「それで、他には何か買ったのか?」
慎一がちらりと袋に視線を向ける。
「ああ、これも買った」
隼哉はもう一つの袋を開け、木のスプーンとフォークのセットを取り出した。
「おっ、木のカトラリーか」
慎一が手に取って、じっくりと眺める。
「手作りっぽいな」
「そう、一つ一つ形が違うんだってさ」
「へぇ、いいな、こういうの」
慎一はスプーンを手に馴染ませるように持ち、指で木の感触を確かめた。
「木のカトラリーって、使い込むといい味が出てくるんだよな。木目が変わったり、手の油で滑らかになったり」
「へぇ、そんなに変わるのか」
「適当に扱うと傷がつきやすいけど、それも味になるしな。ちゃんとオイルを塗って手入れすれば長持ちする」
「なるほど……詳しいな」
「まあな。こういうの、好きなんだよ」
「慎一って、キッチン道具にこだわるよな」
「こだわるというか、いいものを長く使いたいだけだ」
「それっぽいわ」
「で、これはどうするつもりなんだ?」
「んー……使いたいなら使ってくれていいぞ」
「本当に?」
「おう、慎一が使ってくれるなら、このスプーンたちも本望だろ」
「……じゃあ、ありがたく使わせてもらうよ」
慎一は少し嬉しそうにスプーンを握った。
「なんか、いい買い物したな」
大翔が時計を壁にかけながら、満足そうに言う。
「フリーマーケットって、こういう出会いがあるのがいいんだよな」
「確かに。思いがけない掘り出し物が見つかるのが楽しい」
「俺も今度行ってみようかな」
「いいね。次は俺も一緒に行きたい」
「俺も行くよ。面白い道具とか探したいし」
思いがけず、フリーマーケットの話で盛り上がる三人。
こうして、隼哉がふらっと立ち寄ったフリーマーケットの掘り出し物は、シェアハウスの新しいアイテムとして、じわじわとみんなの生活に馴染んでいくのだった。