アクセサリーのある日常
晴也と凌生は、ファッションに関してあまり関心がない。
晴也は機能性を重視していて、動きやすく、手入れが簡単な服ばかりを選ぶ。普段着はジャージかシンプルなTシャツとパンツ。寒くなればその上にパーカーを羽織る程度で、年中ほぼ同じ格好をしていた。
一方の凌生は、丈夫でシンプルな服を好んでいた。長く着られる服を選ぶから、クローゼットの中身は落ち着いた色のものばかり。特にこだわりがあるわけではなく、無難なものを選び続けた結果、どれを着てもあまり変わらないスタイルが出来上がっていた。
颯はそんな二人を見て、ずっと思っていた。
もうちょっと、おしゃれを楽しんでほしい。
とはいえ、無理に押しつけるのも違う気がする。そこで颯は、慎一に相談してみることにした。
***
「……無理強いはよくないよ」
慎一は紅茶を飲みながら、さらりと言った。
「わかってる。でもさ、二人とももうちょい ‘おしゃれって楽しいかも’ って思えたらいいなって思うんだよな」
「ふーん。それで、何か考えがあるの?」
「うん。いきなり服を変えるのはハードル高いから、アクセサリーとかどうかなって」
「なるほど。それなら、少しアドバイスするくらいで済むし、二人も負担にならないか」
「だろ? 早速似合いそうなの、選んでくるわ」
颯は満足げに頷き、翌日さっそくアクセサリーを探しに行った。
***
数日後。颯は買い物袋を片手に、シェアハウスのリビングに向かった。
「よっ、二人ともいる?」
「ん?」
ソファでスマホを見ていた凌生と、ストレッチをしていた晴也が顔を上げる。
「なんだ?」
「二人にプレゼント!」
そう言って、颯は小さな箱を二つ差し出した。
「なんかの記念日?」
「違う違う。ただの ‘おしゃれ楽しんでみようキャンペーン!’ みたいな?」
「いや、意味わかんねぇけど」
晴也は困惑しつつも、箱を受け取る。
「まあまあ、開けてみてよ」
颯に促され、二人は箱を開けた。
晴也の箱の中には、シンプルなシルバーのバングルが入っていた。過度な装飾はなく、すっきりとしたデザイン。スポーツウェアとも馴染みやすい、さりげないおしゃれだった。
一方の凌生には、細身のレザーブレスレット。金具部分がマットなブラックになっていて、普段のシンプルな服装に馴染みつつも、さりげなく個性を加えられるものだった。
「お前ら、アクセとかつけないだろ? でも、これなら普段の服にも合うし、邪魔にならないと思うんだよな」
二人はそれぞれ手に取り、しばらく眺めた。
「……かっこいいな」
先に言葉を発したのは晴也だった。
「颯、センスいいじゃん」
「だろ? お前のジャージにも合うやつ探したんだぜ」
晴也はそのまま、バングルを手首にはめてみる。シンプルなジャージスタイルに、ほどよいアクセントが加わった。
「おお、いい感じ」
「だろ?」
一方の凌生も、手首にブレスレットを巻いてみた。
「お、ちゃんとつけてみたな。どう?」
「うん、……悪くない」
つけ慣れていないからか、ぎこちない手つきだったが、意外と気に入ったらしい。
「颯、ありがと」
「お、素直に喜んでくれた! いやー、選んだ甲斐あったわ」
颯は満足げに頷く。慎一が「無理強いはよくない」と言っていたので、どうなるかと思っていたが、二人とも意外と気に入ってくれたようだ。
だが、それから数日後。颯はあることに気づいた。
「……あれ? お前ら、アクセつけてなくね?」
「あっ」
「あー……」
凌生と晴也が、同時に言葉を詰まらせる。
「いや、あのな……」
晴也が気まずそうに頭をかく。
「つけるの、忘れた」
「おいおい!」
「いや、颯に言われて思い出した、今日からつけるから!」
凌生も苦笑しながら、そばに置いていたブレスレットを手に取る。
「つける習慣がないから、ついな」
「まあ、そうだよな……でも、せっかくもらったし、これからはちゃんとつけるよ」
「ほんとかー?」
「ほんとほんと」
その日から、二人は時々たまーに、しばしばアクセサリーをつけるようになった。
ただ、やはり普段から習慣がないせいで、忘れることも時々たまーに、しばしば。それでも、颯としては十分だった。服装に無頓着な二人が、おしゃれを楽しむ第一歩を踏み出したのだから。
「そのうち ‘つけないと落ち着かない’ くらいになるかもな」
颯はそんな未来を期待しながら、二人の様子を見守るのだった。