流行とヴィンテージの交差点
週末、颯と隼哉はいつものように服を買いに出かけていた。
颯は最新のトレンドをチェックするのが好きで、新しいシーズンが始まるたびに街のショップを巡る。一方の隼哉は、古着屋を回るのが趣味で、ヴィンテージのデザインや年代ごとのディテールを楽しんでいた。
方向性はまるで違うはずなのに、なぜか二人は買い物に行くとき、いつも一緒だった。
「颯、まずはどこ行く?」
「んー、新作見たいからセレクトショップ寄りたい。でも、そのあと古着屋行くのもアリだな」
「いいね。俺も新作の傾向、ちょっと気になってたし」
「え、意外。お前、流行りとか興味ないかと思ってた」
「いやいや、興味あるよ? 俺は古着が好きだけど、それを今っぽく着るのも楽しいんだよな」
「ふーん……あ、でも確かに、お前ってレトロな服も不思議と古臭くならないよな」
「だろ? 古着を ‘今風に着る’ のがポイントなんだよ」
「なるほど」
二人は駅近くのセレクトショップに入った。颯は早速、新作のジャケットやパンツをチェックしながら、試着室へと向かう。
一方、隼哉は店内をぐるりと見回し、今季の流行のシルエットや素材感を観察していた。
「なるほどなー、今季はワイドパンツが強いのか」
独り言のように呟きながら、手に取ったパンツを広げる。その横では、颯が試着室から出てきたところだった。
「どう?」
「お、似合うじゃん。セットアップで着るのもアリだな」
「だよな。流行りのシルエットって、やっぱりしっくりくるんだよな」
颯は鏡の前でくるりと回りながら、自分の姿をチェックする。
「お前も何か買えば?」
「いや、俺はいいわ。次は古着屋行こうぜ」
「しゃーねえな。行くか」
颯は試着したジャケットを買い、隼哉とともに古着屋へ向かった。
***
古着屋に入ると、途端に雰囲気が変わる。
新品の服が並ぶセレクトショップとは違い、店内にはどこかノスタルジックな空気が漂っていた。
「おー、やっぱりこっちはこっちで楽しいな」
颯はカラフルなアウターやデニムジャケットを物色しながら、隼哉をちらりと見る。
すでに彼は、ラックの奥の方から年代物のシャツを引っ張り出していた。
「これとかさ、シルエットはレトロだけど、今の流行りのアイテムと合わせたら普通にいけるよな」
「へえ、どれどれ」
颯が覗き込むと、隼哉の手には古いバンドTシャツがあった。
「ちょっとダメージ入ってるし、ゆるめのスラックスとかと合わせたらいい感じになると思う」
「確かに。最近の流行りにうまく乗せられそう」
「そうそう。レトロなデザインって、結局何回も流行るんだよな。リバイバルってやつ」
「わかる。俺もここ来ると、昔のデザインが今また流行ってるのを実感するわ」
颯はラックを探りながら、ふと手を止めた。
「お、これよくね?」
手に取ったのは、80年代風の総柄ブルゾン。レトロなデザインだけど、今のストリートファッションにも馴染みそうな派手さだった。
隼哉がじっと見て、ニヤリと笑う。
「お前、もう立派に古着の楽しみ方分かってんじゃん」
「は? 俺はあくまで ‘今の流行りに合わせやすい’ から選んだだけで、そっちに染まる気はないからな」
「でも、それが古着の醍醐味なんだよな。今の流行りと組み合わせることで、また新しくなる」
「……確かに、そう考えると面白いな」
颯はもう一度、手に取ったブルゾンをじっくり眺めた。
古いものが、また新しくなる。その感覚が、今までよりも少しだけ分かった気がした。
「……まあ、たまには古着もアリか」
「お、買うの?」
「買うとは言ってねえ」
そう言いながらも、颯はブルゾンをレジへと持っていった。
***
帰り道、二人は並んで歩きながら、今日買った服の話をしていた。
「颯もだんだん古着にハマってきたってことだな」
「いや、俺は流行りを楽しんでるだけだから」
「でもさ、結局 ‘流行り’ って昔の服が巡ってきてるだけだったりするんだよ」
「まあ、そう考えると、古着も悪くねえかも」
「だろ?」
二人はどこか満足げに笑いながら、ゆるりと帰路についた。
流行とヴィンテージ。
ジャンルは違えど、服を楽しむ気持ちは同じだった。




