気づけば夢中
リビングのソファに寝転がりながら、沢弥隼哉がぼんやりとリモコンをいじっていた。特に観たい番組があるわけでもなく、なんとなくチャンネルを変えていたところ、ふと画面に映ったのは相撲中継だった。
「……相撲かぁ」
そう呟きながらも、なぜかすぐにチャンネルを変えず、じっと見つめる。ちょうど取り組みが始まるところだった。立ち合いの一瞬、ぶつかり合う音、砂煙の舞う土俵――想像していたよりも迫力があった。
「なに見てんの?」
キッチンから顔を出した鳴渡颯が尋ねる。
「んー、相撲」
「へぇ……」
颯も隼哉の隣に腰を下ろし、試しに画面を見つめる。
「お、押し出し! なるほどね、こうやって勝つのか」
「結構ルール単純で見やすいんだよな」
そんな会話をしていると、風呂上がりの井田晴也がリビングに入ってきた。
「……なんで相撲?」
「いや、なんか見ちゃってさ」
「ふーん……」
晴也もタオルで髪を拭きながら、自然と視線をテレビに向ける。そこへ高宮慎一が帰宅し、リビングに入ってきた。
「ただいま。……え、相撲?」
「なんか見ちゃってんだよな」
「ほぉ……」
慎一もソファに座り、腕を組んで見始める。続いて桜間大翔が帰ってくると、同じように「相撲?」と不思議そうな顔をしつつ、気づけば画面に釘付けになっていた。そして、最後に安堂凌生が部屋から出てくる。
「ん?……相撲?」
「お、凌生、遅かったな」
「いや、片付けしてたら……って、なんでみんなそんな真剣に?」
「見始めたらハマるぞ、これ」
「マジで?」
そう言いながら、凌生もソファの隙間に座り、全員がテレビに集中する。
「お、次の取り組み、今場所注目の力士らしいぞ」
「へぇ、どんな戦い方するんだ?」
「体格差あるけど、速攻で仕掛けるタイプっぽい」
取り組みが始まると、全員が息をのむ。そして、瞬く間に勝負が決まると、思わず声が上がった。
「おおお!」
「すげぇ、一瞬だった!」
「技の決まり方めっちゃかっこいいな……」
気づけばリビングには、誰一人としてスマホをいじる者も、席を立つ者もいなかった。誰もが真剣な表情でテレビを見つめている。そして、番組の最後に明日の取り組みの情報が流れると、誰かがポツリと呟いた。
「……明日も見るか」
「そうだな」
「ちょうどこの時間、みんな揃ってるしな」
こうして、シェアハウスの住人たちは、思いがけず相撲観戦にハマってしまったのだった。
「……なんか、ちゃんこ鍋食べたくなるな」
相撲中継が終わった後、高宮慎一がふと呟いた。
「わかる!」
「確かに、相撲見てたら食いたくなるな」
「ちゃんこ鍋って、自分たちで作れるの?」
「作れるだろ。要は具だくさんの鍋だ」
慎一がそう言うと、全員の期待の目が彼に向けられた。
「よし、買い出し行くか」
スーパーで必要な食材を揃え、シェアハウスに戻ると、早速キッチンで準備が始まった。
「まずは出汁から。鍋に水を入れて、昆布を入れておく」
慎一が説明しながら作業を進める。
「ちゃんこ鍋って色んな種類あるけど、今日は鶏ベースでいく」
「おっしゃ、うまそう!」
「じゃあ俺、野菜切る!」
鳴渡颯がやる気満々で包丁を手に取る。
「俺は肉担当かな」
井田晴也が鶏もも肉を一口大に切っていく。
「じゃあ俺、つくね作るわ」
沢弥隼哉がボウルに鶏ひき肉を入れ、塩、酒、醤油、すりおろし生姜、片栗粉を加えてこね始める。
「つくねって、手で丸めるの?」
「スプーン使うと楽だぞ。ほら、こんな感じ」
「おお、なるほど」
慎一はその間に昆布を取り出し、鶏ガラと酒を加えてスープを煮立たせた。
「出汁ができたら、まず鶏肉とつくねを入れる。アクを取りながら煮込んで、いい感じに火が通ったら野菜を入れるぞ」
「うお、スープがいい匂いになってきた……!」
「ここに白菜、長ネギ、しめじ、えのき……あと豆腐も入れるぞ」
「この時点でめちゃくちゃうまそうなんだけど」
「さらに仕上げに春菊とニラを入れて……よし、完成だ!」
テーブルに鍋を置き、みんなで囲んで食べ始める。
「……うまっ!!」
「鶏の出汁がしみしみで最高!」
「つくね、ふわふわでいいな」
「相撲見たあとにちゃんこ鍋食べるとか、めっちゃそれっぽい」
「うん、力士の気分になるわ」
「でも、力士ってこの鍋を食べて、さらにご飯とか山盛りで食べるんだろ? すげぇな……」
「俺たちも食えるだけ食おうぜ!」
箸が止まらず、気づけば鍋は空っぽになっていた。
「……締め、どうする?」
「雑炊か、うどんか……」
「迷うな」
「どっちも食えば?」
「確かに!」
こうして、彼らの相撲ナイトは、ちゃんこ鍋の締めまで楽しみ尽くすものとなったのだった。




