新しい自分
颯は、クローゼットの整理をしていた。
元々服が好きで、流行のアイテムを揃えるのも、季節ごとにコーディネートを考えるのも楽しい。だが、それだけにクローゼットがパンパンになりがちで、時々こうして不要な服を整理する必要があった。
そんな中、まだ状態はいいが最近着なくなった服が何着か出てきた。
派手な色使いのシャツ、少しオーバーサイズのジャケット、柄の入ったパンツ——どれも悪くない。けれど、今の自分のスタイルとは少し違う気がして、手に取る機会が減ってしまった。
「誰か着るかな……」
そう思ったとき、ふと浮かんだのが凌生の顔だった。
***
「凌生、服いる?」
突然の申し出に、凌生は少し驚いた顔をした。
「服?」
「そう。俺、クローゼット整理しててさ、もう着てない服あるんだよ。捨てるのももったいないし、お前にどうかなって思って」
凌生は一瞬考えた後、「俺に?」と少し疑わしげな表情を浮かべた。
「でも、颯の服って派手、というか俺に似合うかな?」
「うーん、そうだなぁ、でも、シンプルな服と合わせればいい感じになると思うんだ亅
そう言いながら、颯は持ってきた服を広げる。
「ほら、これとかどう?」
颯が取り出したのは、深いグリーンのシャツに、アクセントの効いた柄のパンツ。シンプルな服ばかり着ている凌生にとっては、なかなか挑戦的なアイテムだった。
「……着てみろよ。案外似合うかもしれないぞ?」
言われるままに、凌生は試しにシャツを羽織ってみた。
鏡に映った自分を見ると、普段のシンプルな服装とはまるで違う印象だった。どこか大人びた雰囲気で、派手すぎず、それでいて垢抜けた感じがする。
「お、いいじゃん!」
颯が嬉しそうに頷く。
「……悪くない、かも?」
「だろ? ちょっとイメチェンしてみるのもアリだって」
そうして、何着かもらうことになった。
***
その日の夕方、シェアハウスのリビングに颯と凌生がいると、たまたま帰ってきた隼哉と晴也が、凌生の姿を見て足を止めた。
「……え、凌生? なんか雰囲気違わね?」
隼哉が目を丸くする。
凌生は、もらった服の一つであるネイビーのジャケットに、白のインナーを合わせ、颯が選んだ細身のパンツを履いていた。普段のシンプルなスタイルよりも洗練されていて、程よいラフさと大人っぽさが混ざった雰囲気がある。
「颯に服もらった」
さらっと言う凌生に、晴也も「すごく似合ってる」と頷いた。
「いつもの服もいいけど、こういうのも新鮮でいいな」
「おお、なんかお洒落じゃん! 颯、やるな〜」
「ふふん、俺のコーディネート力を見たか」
颯は得意げに腕を組む。
凌生は照れくさそうにしながらも、「まあ、たまにはこういうのも悪くないな」と呟いた。
「うん、すごくいい感じ亅
「颯の服を着ると、颯みたいにチャラくなるんじゃねーかと思ったけど、意外と普通に馴染むもんだな」
「おい、誰がチャラいって?」
「ははははははー」
軽口を叩き合いながら、リビングには和やかな空気が流れていた。
「じゃあ今度は俺らが、颯のクローゼット整理手伝ってやるか」
と、隼哉と大翔が名乗りをあげる。
「え? 今んところはあげる服ないけど?」
「そんなこと言わずにさー亅
「そうそう、俺アウターが欲しー」
「お前らにやる服はねーよ!」
そう言いながらも、颯はどこか嬉しそうだった。
普段の自分とは少し違う服を着ること。新しい自分を知ること。それを一緒に楽しめる友人がいること。
それは案外、悪くないことだった。