オムレツ
凌生は、シェアハウスのリビングのソファーにぐったりと倒れ込んでいた。いつものように、ノートパソコンを開いて何かを打ち込んでいたのだが、突然眠気に襲われたようで、そのまま眠り込んでしまったのである。
これが誰なのかは、徐々に分かるかもしれないし、分からないかもしれない。分かることといえば、忙しい大学生ということだ。平均身長よりも高い背丈だが、平均体重よりも軽いその華奢な体が、同じシェアハウス内のキッチン担当には気がかりで仕方がない。「食べろ!」と注意しては、「食べてる!」と返されるが、実態は不明だ。
大翔がリビングに入ってきた時、最初は凌生が座っているのかと思ったが、よく見ると体がぐったりと横たわっている。その姿に、思わず立ち止まった。
これが誰なのかは、、、という文章もそろそろ見飽きてきましたよね、すいません。彼もシェアハウスの住人。元気が一番のムードメーカー。派手目な格好が好きで、今日も原色コテコテのTシャツを着ている。
「凌生?」
と大翔が名前を呼んでも、凌生からの返事はない。
課題とテスト、それにゼミの準備で忙しかったんだろうと察する。大翔はその疲れきった様子を心配そうな顔で見つめていた。凌生は頭が良くて、どんなに忙しくても毎回しっかりとこなしているのがわかっていたが、あまりにも無理をしている気がしてならない。っていうか、これはもうキャパオーバーだ。
「全く、無茶しすぎなんだよ、さすがに、これ以上は…」
大翔は心の中でつぶやきながら、凌生の体が心配になる。
ふと、大翔は思いついた。凌生が目を覚ました時に、ちょっとでも元気を出してもらえるように、何かできることがあれば…そう思ったのだ。
「俺に何ができるかな〜」
大翔は悩みながらも、決意を固めてキッチンへ向かうことにした。普段はあまり料理をしないが、今日はなんとなく凌生を喜ばせたくなった。
キッチンに入ると、大翔は冷蔵庫を開け、残っている食材を見渡した。冷蔵庫の中には、卵、チーズ、野菜、そして少しだけ残った鶏肉があった。それらを使って簡単で美味しい料理ができるだろうか。大翔は、手探りで冷蔵庫の中身を取り出し、調理台に並べた。
まず、大翔はフライパンを熱し、油を少しだけひいて鶏肉を焼き始める。肉の音がフライパンからはじける音とともに広がり、厨房に香ばしい匂いが立ち込めてきた。続いて、野菜を切り、炒め始める。卵を割り、チーズを細かく切って加えると、食材がひとつになって、どんどん香りが立ち上がってきた。大翔は心の中で、自分が作っている料理に対して少しの不安と、大きな期待を抱いていた。
「喜んでくれるといいなー」
大翔は料理をしながら、ふとつぶやく。凌生にはいつもお世話になっている。少しでも恩返しができたらという考えもあった。
そして、調理が終わる頃には、シンプルではあるが、心を込めた料理が完成した。大翔が作ったのは、鶏肉と野菜を卵とチーズで包んだオムレツ。形は多少歪んでいたが、それでもひとつひとつの具材がしっかりと絡み合い、食材が無駄なく使われている。仕上げに少しだけ塩コショウを振りかけ、フレッシュなパセリを散らして見栄えを良くした。
その匂いにつられるように、リビングに寝ていた凌生が少しずつ目を開けた。最初はぼんやりとしていた目も、次第にはっきりとした視線に変わり、鼻をくんくんと動かしながら、何かが香っていることに気づいた。
「ん?…何だ、いい匂いがする?卵?」
凌生は寝ぼけたような声で言った。
「お、起きたか」
大翔はにっこりと微笑みながら、凌生に料理を持って行く。
「俺が、作ったんだ!食べてみて」
「作った?大翔が?」
凌生は驚いた表情で、大翔が持ってきた料理を見つめた。見た目は歪だが、香りは本当に良い。大翔があまり料理をしないことを知っている凌生は、少し戸惑いながらも箸を取った。
「ありがとう、じゃ、いただきます」
凌生は少しだけ照れながら口を開け、一口食べてみた。
その瞬間、思わず目を見開いた。予想外の美味しさに、驚きと共に顔がほころんだ。
「これ…美味しい…!」
「え、ほんと?」
大翔はその反応を見て安心したように微笑んだ。
「形はちょっとアレかもしれないけど」
「ううん、形なんてどうでもいいよ」
凌生は満足そうに一口また一口と食べ進めながら言った。
「美味しい、こんなに美味しいとは思わなかった。」
「よかった。」
大翔は照れくさそうに頭を掻いた。
「俺もこんなにうまくいくとは思わなかったんだ」
「すごいじゃん、大翔」
凌生は信じられないという顔をして、大翔を見た。
「うん、まあ、ね、俺って器用なところも実はあったんだなーって新発見!」
大翔は苦笑いしながら言った。
「あとは、凌生が元気になってくれたらって、それで作ったんだ」
「・・・ありがとう」
凌生はさっきよりももっと照れた顔をしている。
「気を使わせて悪かった…、でも、すごく嬉しい」
「気にすんな、困ったときはお互い様!」
大翔は肩をすくめて言った。
「お前が疲れてるの見て、ちょっと何かできないかなって思っただけだから」
その後、凌生は食事を終え、少しずつ元気を取り戻していった。大翔が作ったオムレツは、ただの料理ではなく、心のこもったプレゼントだ。
大翔はその様子を見て、ホッとしたように息をついた。
「凌生が少しでも元気になってくれたら、嬉しい」
「うん、元気出た」
凌生は微笑みながら、もう一度大翔にお礼を言った。