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six socks  作者: AI子
19/61

ゲームと現実

 朝のシェアハウス。朝食も片付き、それぞれが出かける前の時間を過ごしていた。


 大翔はソファに寝転がりながら、スマホをいじっている。画面には派手なエフェクトとともにキャラクターたちが駆け回る、アクションRPGのゲーム画面。親指を器用に動かし、次々と敵を倒していく。


「……よし、あとちょっとでボス撃破……」


 集中しながら指を滑らせ、最後の一撃を叩き込もうとした、その瞬間――。


「お、何してんの?」


 突然、背後から覗き込んできた隼哉の顔が視界の端に入った。


「うわっ!」


 驚いた大翔の指が滑り、画面のキャラクターが一瞬棒立ちになる。次の瞬間、大技を叩き込まれてHPがゼロに。


【GAME OVER】の文字が、虚しく画面に浮かび上がった。


「……お前ー! 何してくれたんだよー!」


 大翔は半目になりながら、スマホを持ち上げて隼哉を見上げた。


「いやいや、そんなことでミスる方が悪い、そんなんじゃダメダメだな」


「ダメダメって、お前のせいだろ!」


 抗議する大翔を無視し、隼哉は興味津々といった顔でスマホをひょいと取り上げる。


「貸してみ? 俺がクリアしてやるから」


「は? 無理無理、結構難しいんだぞ」


 大翔が不服そうに言うが、隼哉はニヤリと笑ってゲームを再開した。


 彼の指が画面の上を滑る。的確な回避、無駄のない攻撃、ボスの行動パターンを熟知しているかのような動き。


「え……」


 大翔が思わず口を開けるほど、隼哉のプレイは洗練されていた。スムーズにボスのHPを削り、あと一撃というところまで持っていく。


「そろそろトドメ」


 隼哉が軽く指を動かすと、画面のキャラクターが必殺技を繰り出し、ボスを撃破した。


【STAGE CLEAR】の文字がキラキラと輝く。


「よし、完璧」


 満足げにスマホを大翔に返しながら、隼哉はどや顔で言った。


「ゲームにかける時間と熱量が違うんだよ」


「……え、隼哉、もしかしてこのゲームめっちゃやり込んでる?」


「まぁな。新キャラのスキル回しまで研究済みよ」


「マジかよ……」


 思わぬ隼哉のゲーマーっぷりに、大翔は呆れとも感心ともつかない顔をする。


「いやー、やっぱりゲームはこうじゃないと。極めてこそ、だよな」


 鼻高々になっている隼哉の横で、キッチンでコーヒーを飲んでいた晴也がふと口を開いた。


「……そういや隼哉、今日取ってる講義、朝イチじゃなかったっけ?」


「ん?」


 隼哉は自慢げな表情のまま固まり、数秒の沈黙のあと――。


「……あ゛っ」


 一気に血の気が引いた。


 慌ててスマホの時計を見る。


 8:42


 講義の開始は9:10。大学まではギリギリ間に合うかどうかのラインだった。


「ヤバいヤバいヤバい!! こんなことしてる場合じゃねぇ!!」


 ソファから飛び上がり、バタバタと部屋を駆け回る。


「えーっと、カバン、カバン! ノートは……どこだっけ!? くそっ、筆箱が見つからねぇ!!」


「お前、前も同じことやってなかったか……」


 大翔が呆れたように言うが、隼哉はそれどころではない。


「うるせぇ! とにかく行ってくる!!」


 上着を羽織りながら靴を突っかけ、玄関へとダッシュする。


「行ってらっしゃい」


 晴也がコーヒーを飲みながら淡々と見送り、大翔は「頑張れよー」と軽く手を振った。


 玄関の扉が勢いよく閉まり、シェアハウスには再び静けさが戻る。


「隼哉って要領がいいのか悪いのかわかんなくなる時ない?」


「さぁ? どうなんだろうな」


 晴也は肩をすくめ、コーヒーを一口。


 いつもの朝。騒がしくも、どこか楽しい時間が流れていた。

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