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six socks  作者: AI子
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皿洗い

 朝食が終わり、賑やかだった食卓が少しずつ片付いていく。食べ終えた皿をキッチンに運び、流しへと重ねる音がリズムよく響く。


 晴也は袖をまくり、蛇口をひねった。勢いよく流れる水が、手のひらを滑るように流れ、泡立ったスポンジが皿の上をなめらかに滑る。


(さて、今日の予定は……)


 水の音を聞きながら、晴也はぼんやりと考える。午前中は講義が一本、午後には課題を進めて、夜はシェアハウスのメンバーで買い出しの予定だ。そういえば、冷蔵庫の牛乳が少なかった気がする。ついでに何かお菓子も買っておこうか。


 そんなことを考えながら手を動かす。


 晴也は料理が得意ではないが、皿洗いは嫌いではなかった。水の冷たさが心地よく、汚れが落ちていく様子を見るのはどこか達成感がある。それに、こうしていると自然と頭の中が整理される。


 以前、食洗機を買う話が出たこともあったが、キッチンがそれほど広くないのと、交代制で回せば問題ないだろうということで見送られた。結果として、六人それぞれのやり方が見えてきて、晴也にとっては面白い発見にもなった。


 たとえば、颯や大翔はとにかく早く終わらせたい派だ。


「はいはい、どんどん回していこう!」


「泡立ちすぎてもすすぎが面倒だからな!」


 彼らは手際よく……というより、チャカチャカと勢いで洗い進める。スピードは早いが、たまに洗い残しがあるのが難点だ。以前、颯が洗ったグラスに水滴とともに洗剤の泡が残っていたのを慎一に指摘され、大翔と一緒にとショックを受けていたのが記憶に新しい。


 逆に、隼哉は意外と手慣れている。


「これくらいならすぐ終わるだろ」


 そう言いながら、皿を重ねる順番も考えつつ、効率よく洗っていく。その手際の良さから「実家でもやってたのか?」と尋ねたことがある。


「おう。親が共働きだったし、皿洗いくらいはね」


 あっけらかんと答えた隼哉は、どこか誇らしげだった。


 そして、凌生。彼はまるで職人のように、慎重に、そして丁寧に皿を洗う。


「グラスはこうやって持つと、指紋がつきにくい」


「泡が残らないように、しっかりすすいで……」


 誰よりも仕上がりが綺麗なのは間違いなく凌生だった。その分、時間もかかるが、グラスを光に透かしてチェックする姿はもはや芸術家のようだった。


 慎一は料理をしながら並行して皿を洗うタイプだ。


「使ったそばから洗えば、後でまとめてやらなくて済む」


 理にかなったやり方で、流しにはいつも最低限の皿しか残らない。晴也が皿洗いの番になると、「あれ? もう半分終わってる?」ということも珍しくない。


(こうしてみると、皿洗いひとつでも個性が出るもんだな……)


 晴也はふっと笑いながら、最後の皿をすすぎ終えた。


 スポンジを軽くすすぎ、シンクの隅に置く。流しを拭き、濡れた手をタオルで拭うと、すっかり綺麗になったキッチンを見て満足する。


「さて、これで完了っと」


 振り返ると、リビングにはそれぞれの朝の時間を過ごすメンバーの姿があった。大翔はソファに寝転がり、スマホをいじっている。颯は何やら真剣な表情で雑誌を読んでいた。隼哉は軽くストレッチをしながら、のんびりとテレビを眺めている。慎一はコーヒーを片手に、パソコンを開いて何かをチェックしているようだ。凌生はコーヒーを飲みながら、ノートに何かを書き込んでいる。


 同じ家に住んでいても、それぞれがそれぞれのペースで過ごしているのが、なんとなく心地よかった。


 晴也は改めて時計を見て、ふむ、と頷く。


「さて、そろそろ出る準備するか」


 それぞれの個性が交差するシェアハウスの朝。皿洗いひとつでも、それぞれのやり方があって、それが面白いと感じる。


 今日もまた、そんな何気ない日常が続いていくのだろう。


 そう思いながら、晴也は洗い終えた皿が整然と並ぶキッチンを、満足そうに眺めた。

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