朝の目覚め
カーテンの隙間から差し込む朝の光が、シェアハウスの静かな部屋を照らし始める。春の空気はひんやりと澄んでいて、どこか清々しい。
最初に動き出したのは、やはり晴也だった。
静かに目を開け、軽く伸びをする。まだ眠っている他の住人を起こさないよう、そっとベッドから降りると、シェアハウスの窓を開けた。冷たい朝の風が入り込み、空気を一新する。
「……よし」
小さく呟きながら、晴也はリビングへ向かった。
次に起きてきたのは慎一。彼は目覚ましが鳴るより少し前に自然と目を覚まし、ゆっくりとした動作で布団から抜け出す。
「おはよう、晴也」
「ああ、おはよう」
慎一も軽くストレッチをしながら、キッチンに向かった。朝は基本的に各自で用意するスタイルだが、こうして早起き組はなんとなく一緒に朝食をとることが多い。
「今日は何作る?」
「簡単にトーストと卵でいいかな」
「いいね」
そんな会話をしながら準備を進めていると、バタバタと勢いよく部屋のドアが開いた。
「……ふわぁー、あーよく寝た!」
「お前、寝起きとは思えないな」
「颯も起きたか」
髪をぼさぼさにしたまま、大翔と颯が現れた。どちらも寝相は悪いが、目覚めは意外と良い。起きてしまえば動きは素早く、まるでスイッチが入るように元気になるタイプだ。
「腹減ったー!」
「寝てる間にエネルギー消費してんのか、お前は」
「寝るのも体力いるんだよ!」
大翔が言い返しながら、颯と一緒にキッチンへ向かう。
そんな爽やかに目覚める二人とは対照的に、隼哉はなかなか布団から出ようとしなかった。
寝室では、布団にくるまり、ぐずぐずと寝返りを打つ隼哉の姿がある。
「……あと五分……いや、十分……」
そう呟きながら、枕に顔を埋める。
「おい、隼哉、そろそろ起きろ」
晴也が部屋を覗き込みながら声をかけるが、布団の中から「むり……」という小さな声が返ってくるだけだった。
「ほら、朝飯食わねえと、授業中腹鳴るぞ」
「……うー……」
「俺が起こしてやる!」
そう言うと、大翔が布団を引っ張ろうとするが、隼哉は驚くほどの力で布団を握りしめて離さない。
「なにこの粘り強さ……」
「寝ることへの執念だな」
「いや、褒められたもんじゃねえだろ」
そんなやり取りをしていると、さらに奥の部屋から、ひときわ動かない人がいた。
凌生だ。
彼は完全に布団に包まれ、微動だにしない。目覚ましが鳴ってもピクリともしない。低血圧ゆえになかなか起きられないのだ。
慎一が時計を確認し、「そろそろ限界か」と呟きながら凌生の部屋へ向かった。
「凌生、起きろ」
声をかけても反応はない。
慎一は仕方なく、ベッドの端を軽く揺らした。
「凌生?」
「……ん……」
「起きろ、朝だぞ」
「……朝……?」
布団の隙間から、ようやくぼんやりとした顔が覗く。しかし、まだ目は半分閉じたままだ。
「もう朝飯の時間だぞ」
「……うそ……まだ夜でしょ……」
「外、明るいだろ」
「……夢……」
「いや、夢じゃないから」
凌生は布団にくるまりながら、じわじわと現実を受け入れようとしているようだった。
「ほら、朝ごはん食べたら目覚めるから」
「……うん……」
ようやく、のそのそと布団から這い出してくる。
リビングにたどり着いた時には、隼哉もようやく布団を脱出し、目を擦りながら座っていた。
「……朝って、なんでこんなにしんどいの……」
「お前の場合、寝るのが遅いせいだろ」
「夜は楽しいんだから仕方ない……」
「知らんがな」
そんな会話をしながら、全員が席に着いた頃には、すっかり朝の光が部屋を満たしていた。
「今日も一日頑張るかー」
颯の明るい声が響き、眠気の残るシェアハウスの朝は、いつものように賑やかに始まった。