表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
six socks  作者: AI子
14/61

お腹に優しいお菓子

「なあ、慎一」


 リビングのソファでくつろいでいた慎一は、ダイニングテーブルに座る隼哉の声に顔を上げた。


「ん?」


「こないだ風邪ひいて寝込んだときさ、なんか甘いもの食べたくなったんだよな。でも、市販のお菓子って結構胃に負担かかるの多いじゃん」


「あー、確かに。バターとかクリームとか、濃いの多いってイメージがあるな」


「そうそう。だからさ、お腹に優しい甘いものがあったらいいなって思って」


「ほう。それ、俺に何か作れって話?」


 慎一がニヤリと笑うと、隼哉は少し気まずそうに目をそらした。


「……いや、まあ、そういうわけじゃないけど」


「つまり、そういうことだろ」


 慎一はクックッと笑いながら立ち上がった。シェアハウスのキッチンへ向かいながら、ぽんぽんと軽く手を叩く。


「お腹に優しくて甘いもの……とりあえず、冷蔵庫と棚に何があるかチェックだ」


「え、今作るの?」


「話してたら食いたくなってきた」


 隼哉は一瞬驚いたようだったが、すぐに口角を上げて笑った。


「……ま、確かに」


 キッチンにある材料をざっと確認すると、慎一は少し考え込んだ。


「バターは……使わないほうがいいよな。牛乳はあるけど、できれば豆乳とかのほうがいいかもな」


「おう、いいね、豆乳」


「……じゃあ、米粉ときなこを使って、簡単な蒸しパンなんてどうだ?」


「蒸しパン?」


「うん。ベーキングパウダーでふくらませるから発酵いらないし、消化もいい。甘さはハチミツと、ちょっと黒糖を足してみるか」


「いいじゃん、それ」


「じゃあ作るか」


 慎一は手際よくボウルを用意し、米粉、きなこ、ベーキングパウダーを計量しながら混ぜていく。そこにハチミツと黒糖を加え、豆乳を少しずつ注ぎながらゴムベラでなめらかに混ぜていく。


「おお、結構いい感じの生地」


「だろ? あと、ちょっと栄養も足したいから、バナナを潰して混ぜよう」


「バナナ入り! それ絶対うまいやつじゃん!」


「風邪ひいてるときって、バナナくらいしか食べられないときあるだろ?」


「あー、あるある」


 バナナをフォークで丁寧に潰し、米粉の生地に混ぜ込むと、優しい甘い香りがふわりと漂った。慎一は小さな耐熱カップに生地を流し込み、蒸し器に並べて火をつけた。


「だいたい10分くらい蒸したら完成だ」


「おお……なんか楽しみ」


 湯気の立ちのぼる蒸し器の中で、ふんわりと膨らんでいく蒸しパン。慎一が竹串を刺して、生地がくっつかないのを確認すると、ふわふわの蒸しパンをそっと取り出した。


「できたぞ。熱いうちに食べてみろ」


 慎一が差し出すと、隼哉は嬉しそうにそれを受け取り、そっと手で割ってみる。ふわっと優しく裂けた断面から、バナナと黒糖の甘い香りがふわりと立ち上った。


「……うわ、めっちゃいい匂いする」


 隼哉は蒸しパンを一口かじる。口の中に広がるのは、ほんのり甘くて、優しい味。米粉のもっちり感と、きなこの香ばしさ、バナナの自然な甘みが絶妙に調和している。


「……うん、めっちゃうまい。さっすが慎一」


「だろ?」


「甘いけど、全然しつこくないし、喉通りもいい。風邪ひいてるときでもこれなら食えそう」


「お腹にも優しいし、栄養もあるからな。あとで冷凍しとけば、いざというときにすぐ食べられるぞ」


「それめっちゃいいな。俺、次風邪ひいたときのためにストックしときたい」


「風邪をひく前提で言うな。体調には気をつけろよ」


「はは、まあ、そーだよな」


 隼哉は笑いながら、もう一口頬張った。その横で、慎一はどこか満足そうに腕を組む。


「お前が喜ぶなら、また作ってやる」


「……うん、ありがと」


 優しい甘さが広がるキッチンの片隅で、二人はふんわりとした蒸しパンを頬張りながら、穏やかな時間を過ごしていた。




 夕方、シェアハウスの玄関が勢いよく開き、颯の元気な声が響いた。


「ただいまー!……って、うわ、なんかいい匂いする!」


 後ろから続いたのは、大翔のもっと元気な声。


「本当だ!なんだろう……バナナ?」


 リビングでは、隼哉が慎一の作った蒸しパンを頬張っている最中だった。蒸しパンの温かい湯気と甘い香りが、まだキッチンのあたりに漂っている。


「おお、颯、大翔。おかえり」


 隼哉が手をひらひらと振ると、颯はその手元にあるふわふわの蒸しパンに視線をロックオンした。


「なにそれ、めっちゃうまそうじゃん!!」


「隼哉が食べてるのって、もしかして、慎一が作ったやつ?」


 大翔が冷静に推測し、慎一は「正解」と軽く指を鳴らした。


「お腹に優しい甘いものがほしいって隼哉が言うからな。米粉ときなこの蒸しパン、バナナ入り」


「おおおお! それ絶対うまいやつじゃん!」


 颯はすぐさまテーブルにつくと、期待に満ちた目で慎一を見た。


「俺も食べていい?」


「俺もー!」


「お前ら……」


 慎一は苦笑しつつも、キッチンへ向かい、まだ蒸し器の中に残っている蒸しパンを取り出した。ふわっと立ちのぼる湯気が、また一段と甘い香りを漂わせる。


「ほら」


「やった!」


 颯と大翔はそれぞれ手に取り、そっと割ってみる。


「うわ、すげえ……ふわふわじゃん!」


 颯が感動したように指で触れると、大翔も興味深そうに断面を見つめる。


「いただきます!!」


 二人が同時に口に入れると、瞬間、表情がほころんだ。


「うまっ!!」


「……うん、すっごく優しい味!うまっ!」


 颯は勢いよくもう一口頬張りながら感想を続ける。


「甘いけど、くどくないし、きなこの香ばしさがめっちゃいい! あと、なんかもっちりしてる!」


「米粉だからな。小麦粉よりも消化にいいし、もちっとした食感になる」


「ふーん…」


 大翔が納得したように頷くと、隼哉が蒸しパンを片手に持ちながら笑った。


「そうなんだよ。俺がこの前寝込んでたときに、こういうのあったらよかったなーって慎一に言ったら、ちゃちゃっと作ってくれた」


「慎一、やっぱりすごいな。簡単に作れちゃうんだもん」


 大翔の称賛に慎一は肩をすくめた。


「材料さえあればな。米粉、きなこ、ベーキングパウダー、ハチミツと黒糖、あとはバナナと豆乳。混ぜて蒸すだけ」


「え、そんなもんなの?」


 颯が驚いたように目を見開く。


「お前らでも作れるぞ」


「いやいや、慎一だからうまいんだって!」


「そうだよなー。俺らがやったら絶対失敗する」


 そんなやり取りをしながらも、二人はすっかり蒸しパンに夢中になっている。


「これさ、もうちょっと作って冷凍しとけば?」


「それ、俺も思ってて、ちょうど提案してたんだよ」


 隼哉が共感し、大翔も頷く。


「風邪ひいたときだけじゃなくて、小腹空いたときにもいいかも」


「冷凍しといて、食べるときにレンチンしたらすぐ食べられるし」


 慎一は「まあ、それくらいなら作ってやってもいいけどな」と、少し面倒くさそうに言いながらも、どこか嬉しそうだった。


「うおー、やった!また作るとき呼んでくれ!」


「俺も!また食べたい!」


 颯と大翔が期待に満ちた笑顔を向けると、慎一は「お前らが食うなら次は手伝えよ?」と軽く釘を刺した。


「おう!」


「もちろん!」


 そうして、シェアハウスのキッチンには、また新しい習慣が生まれるのかもしれない。優しい甘さの蒸しパンと、賑やかな会話が、これからも繰り返されるのだろう。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ