地元
夜のリビングには、なんとなくゆるやかな空気が流れていた。
テレビではバラエティ番組が流れ、ソファには隼哉がくつろぎながらチャンネルをパチパチと変えている。その隣で凌生はコーヒーを片手に、スマホを眺めていた。
そのとき——
「……ん? なんか見覚えある景色だな」
隼也が手を止めた。
画面には、小さな町の風景が映し出されている。穏やかな川沿いの遊歩道、駅前の古いアーケード、そして特徴的なデザインの市役所の建物。
「これ……地元じゃね?」
その言葉に、凌生も画面を見上げた。
「……あ、本当だ。懐かしいな」
番組は『知られざる地方の魅力』的な特集らしく、彼らの故郷が紹介されていた。
「おぉ、あの駄菓子屋まだあるのかよ!」
「え、マジで? っていうか、そもそもお前この店知ってんの?」
凌生が驚いて顔を上げる。
「知ってるよ。小学生のとき、帰り道に寄ってたし。」
「……え? いや、待て待て、お前も?」
目を丸くする凌生。
「だって、お前小学校どこだった?」
「○○小学校だけど……」
「……え、隣の小学校。」
一瞬、沈黙。
「は!? マジで!?」
隼也が驚きの声を上げた。
「いやいやいや、待てよ。そんなことある?」
「こっちのセリフだ。今まで気づかなかった。」
凌生は苦笑する。
「でも、何かの拍子に会っていてもおかしくなかったよな。」
「まぁ、お互い小学校の頃から顔つき変わってるだろうしな……。あ、でも待てよ」
隼也はじっと凌生の顔を見つめる。
「……もしかして、お前、図書館によくいたメガネの?」
「……ああ、いたよ。休みの日は結構よく図書館に通ってた。」
「うわー!思い出した!いたいた!なんか難しい本ばっか読んでるやつ!」
「言い方よ……。あれ、でも、お前もいたよな? 図書館横の市民グラウンドでよくサッカーボール蹴ってたやつ。」
「あー! 俺か!俺だわ!よく友達と一緒にサッカーやりに行ってたわ。」
「図書館までたまに声が聞こえてきてたんだよな。」
思わぬところで小学校時代の記憶が繋がる。
「……ていうか、そんなに昔から知っていたのに、今まで気づかないのすごくないか?」
「本当にな。てっきり、シェアハウスで初めて会ったと思ってたわ。」
なんとも言えない気まずさと、じわじわと込み上げるおかしさに、二人は思わず笑い合った。
テレビではまだ地元の映像が流れている。地元のパン屋、昔よく遊んだ公園、祭りの映像。
「懐かしいな……。こんな風にテレビで紹介されるとはな。」
「あー、祭りか……。お前、行ってた?」
「毎年。お前は?」
「俺も。……てことは、たぶんどこかですれ違ってたんだろうな。」
「……かもな。」
思いがけず地元の話で盛り上がる二人。
今まで意識していなかったが、こうして話してみると、不思議と距離が縮まった気がした。
「なぁ、今度地元に帰るとき、一緒に行くか?」
「いいな、それ。久しぶりにあの駄菓子屋行きたいし。」
「じゃあ決まり。」
二人はどこか嬉しそうに笑い、懐かしい景色が映るテレビを眺め続けた。