断罪劇が目の前で始まったので、質問という名の茶々をいれてみる
エウローパ大陸一の大国、ラダマンテュス王国。
その王太子が、大きな声で宣言した。
「セゴレーヌ・サロメ・ゴーティエ!貴様は私の婚約者という立場でありながら、男爵家の娘であるロメーヌ・リゼット・ガスパルを虐めたな!お前は王太子妃に相応しくない!婚約破棄だ!」
王太子、エルキュール・アンリ・ラダマンテュスはどうやらちょっと残念な人らしい。
そして、そんなエルキュールを前に毅然と立つセゴレーヌ侯爵令嬢はかっこいい。
野次馬に交ざったセバスチアンヌ・ルネ・リキュア…リキュア皇国の第四皇女は、そんな感想を抱いた。
エルキュール王太子に大衆の面前で断罪されるセゴレーヌはもちろん、エルキュール王太子に腰に手を回されているロメーヌ嬢も嫌がっているようにしか見えない。
なので、なにかエルキュール王太子が勘違いしているのではないかと思った。
セバスチアンヌは静かに手を挙げた。
「質問を宜しいでしょうか」
「え、第四皇女殿下?なんですか、今いいところで…」
「まず、セゴレーヌ様がロメーヌ様を虐めたと言うのは事実ですの?」
「もちろんです!」
「具体的にはなにをされましたの?」
エルキュール王太子は自信満々に答えた。
「俺の…私のそばに近寄れなくされたのです!」
「どうやって?」
「護衛をつけて!」
「護衛を…?そもそも、何故男爵家の娘が王太子殿下に近寄れなくなるのが虐めですの?」
「俺とロメーヌが恋仲だからです!」
場が凍りついた。
それはつまり王太子が侯爵家の娘であり己の婚約者であるセゴレーヌを捨て置き、男爵令嬢なんかに現を抜かしたということだ。
だが…おかしなことに、当のロメーヌ嬢が首を横にブンブンと振る。
野次馬たちはみんな、ん?と疑問に思った。
「えっと、王太子殿下」
「はい、第四皇女殿下」
「まず、なにがあったとしても公衆の面前でご令嬢を断罪するのはいかがなものかと思います」
「は?」
一気にエルキュール王太子の機嫌は急降下した。
しかし相手はリキュア皇国の第四皇女。
周りに自分への同意を求め、第四皇女に間違いを認めさせようと視線を動かしたが…誰もエルキュール王太子と目を合わさないどころか、第四皇女の言う通りだとみんなが首を縦に振っていた。
「あと、ロメーヌ様は王太子殿下を嫌がっている様子に見えますが」
「は?そんなわけ…」
「もし本当にロメーヌ様が王太子殿下を嫌がっているのなら、わざわざロメーヌ様に護衛をつけてまで守っていたセゴレーヌ様の行動は正しいものかと存じます」
「だから、ロメーヌが俺を嫌がるわけが…」
「そうなんです!」
突然ロメーヌが叫んだ。
「ずっとずっと、王太子殿下からセクハラパワハラモラハラを受けていて!でも本人は私を可愛がってるつもりらしくて、カップルとして付き合っているつもりらしくて、でも逆らったら家族が責任を取らされるかもって思って強く拒否できなくて!」
「わたくしがそれに気付き、助けて差し上げようとしたのですが…このようなことになるとは」
「セゴレーヌ様、ごめんなさい!」
「いいえ、ロメーヌ様は悪くないわ」
「それなら二人とも悪くありませんわね。悪いのは…エルキュール王太子殿下、貴方です」
セバスチアンヌの言葉に、エルキュールは後ずさる。
「そんな…ロメーヌが俺を嫌がっていた?セゴレーヌはそのロメーヌを俺から守っていた?全部俺が悪いのか?」
「その通りだバカ息子!」
そこに、いるはずのない国王が現れた。
騒ぎを聞きつけ、飛んできたらしい。
「全部お前が悪い!なんてことをしてくれたのだ!」
「父上…」
「この婚約はゴーティエ家にお前の後ろ盾となってもらうべく結んだもの!この婚約がなくなれば、お前は廃太子して第二王子を王太子にせねばならなくなる!」
「え…?」
呆然とするエルキュールに、国王は言った。
「さんざんそう言い聞かせてきただろうが!だから婚約者を大切にしろとも言った!お前は正妃ではなく公妾の産んだ子、後ろ盾なくして王にはなれない!」
「そんな…!」
「お前はこれで終わりだ!我が最愛との子だからと大切にしてきたが、それが間違いだったようだ。ああ、婚約破棄は許そう。しかしお前の有責だバカ息子!」
エルキュールは崩れ落ちる。
「セゴレーヌ嬢、今までよく王太子妃教育を頑張ってくれていたな。なのにこんなことになって、申し訳ない」
「いえ、とんでもないことでございます」
「セゴレーヌ嬢には、私から相応の賠償をしよう。息子は断種の上離宮に閉じ込める。それで許しておくれ」
「はい、国王陛下」
「そんな、父上!」
国王はエルキュールを無視して話を進める。
「ロメーヌ嬢も、すまなかった。ロメーヌ嬢への賠償も約束しよう。そして、絶対今回の件が男爵家に陰を落とさないようにすると約束しよう」
「ありがとうございます、国王陛下!」
「父上ー!」
「そして第四皇女殿下、貴女を巻き込んでしまい申し訳ない」
「わたくしは好きで首を突っ込んだだけですわ」
にっこりと微笑むセバスチアンヌ。
国王はそれに安堵した。
そして国王がエルキュールを引きずって王宮に戻り、事態はとりあえずの収束を迎えた。
後日、エルキュールは断種され離宮に幽閉されたと言う。
そしてセゴレーヌとロメーヌには、それ相応の賠償がされたらしい。
「…というのが隣国であったことですわ、わたくしの婚約者様」
「………」
顔を引き攣らせるのは、セバスチアンヌの婚約者であるミカエル・モイーズ・ノルベール。
リキュア皇国の侯爵家の嫡男で、いずれセバスチアンヌと結婚する相手だ。
なのだが。
「最近、平民上がりの子爵令嬢にご執心なんですってね。しかもわたくしを、二人の仲を引き裂く悪役皇女だなんて呼んでいたとか」
ミカエルは、平民出身の子爵令嬢ヴェロニク・ヨナンド・マルソーをこっそり口説いていた。
こっそりのつもりが、セバスチアンヌにはバレていたらしい。
そして陰口までバレていた。
今自分は、セバスチアンヌに捨てられる瀬戸際なのだ。
「妾腹のヴェロニク様は、あまりの美しさに母親から引き離されて無理矢理子爵家に引き取られたとか。元々、高位貴族との婚約を結ばせるためにそうされたのでしょうけれど…大好きな母親から引き離されて、望まない相手との恋愛ごっこを強要されるなんて可哀想ですわ」
「姫、私は!」
「お黙りなさい。ヴェロニク様は泣いていたわ。手は出されていないけれど、身分を笠に着て口説かれて触られて怖かったと」
「…っ、」
「ヴェロニク様とわたくしに二度と近づかないことね。それと、貴方有責で婚約破棄させてもらうわ」
ミカエルは突っ伏して泣いた。
セバスチアンヌはすっきりした表情でその場を後にした。
後日、セバスチアンヌは子爵家に圧をかけてヴェロニクを母親の元へ戻してやった。
ヴェロニクとその母親はセバスチアンヌに大変感謝したそうだ。
そしてセバスチアンヌに嫌われた子爵家は、それが理由でいつのまにやら没落したという。
またミカエルの実家も、勝手に没落していった。
醜聞が過ぎるので、さもありなん。
「…というのが今回の顛末ですわ」
「やるねぇ姫さん」
「ねえ、わたくしやっぱり同世代の男性とは上手くやっていく自信がありませんわ。バカばっかりですもの」
「だとしてもおじさん趣味はどうかと思うなぁ」
「ねえ、辺境伯のおじ様。わたくしのプロポーズを受けてくださるなら、嬉しいのですけれど…」
辺境伯は困った顔をして笑った。
「後妻にしては姫さんは若すぎるな」
「子供たちはみんな勝手にどこぞに婿に行ったから、後継はいないのでしょう?わたくしと後継を作りましょう?」
「…いやぁ、困った困った」
押せ押せでいくセバスチアンヌに、辺境伯のおじ様…マケール・ルー・ナタンはタジタジだ。
「辺境伯のおじ様、お願い」
「まあ、まだ姫様には時間がある。ゆっくり相手を探せばいいさ」
「おじ様聞いてますの!?」
「聞いてる聞いてる、いつか姫さんにも良い相手が出来るって」
「おじ様ー!」
マケールがセバスチアンヌのしつこ過ぎる求婚に折れるのは、この半年後のことであった。
だがとある日、唐突にセバスチアンヌが不安そうな顔でマケールに問う。
「ねえ辺境伯のおじ様。もしかしてわたくしも、ラダマンテュスの元王太子やわたくしの元婚約者みたいに無理矢理辺境伯のおじ様を捕まえてしまったのかしら。辺境伯のおじ様は嫌だった?」
「いや?俺は姫さんの誠実かつ押せ押せなプロポーズに陥落しただけだぜ。つまり俺は姫さんに好意がある。その連中と姫さんは、その点で大違いだよ」
「よかったぁ」
セバスチアンヌは微笑む。
その安心し切った顔にマケールがまた惚れ直したのも、他の男に取られないようにと気を引き締めたのもセバスチアンヌは知らない。
ということで如何でしたでしょうか。
この主人公、結構メンタル強いですよね。
今回は転生者はいません。
鬼強メンタルの皇女さまがいただけです。
おじさん趣味な皇女さまでしたが、見事意中の相手を射止めましたね!
さすがはメンタル最強…粘り勝ちでした。
ただおじさまも最初から言い寄られるのには満更でもなかったので、むしろおじ様よく半年も耐えたなというところです。
少しでも楽しんでいただけていれば幸いです。
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